米国の対イラン「斬首作戦」:高市首相は訪米で何を伝えるのか
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ベネズエラ攻撃に続く秩序破壊
攻撃はトランプ大統領が決断し、国連安保理決議も米議会の承認もなしに行われた。1月のベネズエラ攻撃に続く一方的な「力の行使」であり、国際法に基づく世界秩序がまたも踏みにじられた。しかも今回は、独裁と批判されていたにせよ、主権国家の指導者層を軍事力で一掃する「斬首作戦」である。トランプ外交の暴走も極まったと言わざるを得ない。
昨年6月、米・イスラエルが行った核施設空爆(12日間戦争)の際、イランは大規模な報復を手控えたものの、国の存亡がかかる今回は本格的な報復を宣言した。サウジアラビアを含むペルシャ湾岸の親米アラブ諸国の米軍基地などへ無差別攻撃が始まり、世界の原油輸出タンカーの約2割が通航するホルムズ海峡も、事実上の閉鎖状態に陥った。
トランプ氏がイラン国民に反体制決起を呼びかけたのに対し、ヘグセス国防長官は「体制転換のための戦争ではない」と否定し、「核保有の脅威を除去するため」と説明している。しかし、昨年の空爆で「核施設を完全に破壊した」(トランプ氏)のが事実であったなら、差し迫った脅威は存在しなかったはずだ。なぜ今、「斬首作戦」に踏み込む必要があったのか。その理由や目的が十分に示されたとはいえない。
米メディアによると、2月末にジュネーブで開かれた高官協議で、米国は平和利用目的の核燃料を無償提供する最終案を示したが、イラン側はこれも拒んだため、トランプ氏は攻撃を決断したという(※1)。同盟諸国と相談もなく始まった攻撃に対し、北大西洋条約機構(NATO)の足並みは必ずしもそろっていない。英国のスターマー首相は2日、「英国が行動を起こすには、法的根拠と周到な計画が不可欠だ」として作戦不参加を表明し、米英関係に亀裂が走っている(※2)。
「抵抗の枢軸」を支えてきたイラン
一方のイランも非の打ちどころがないわけではない。核開発疑惑が発覚した2003年以降、国際原子力機関(IAEA)の査察を妨害したり、ウラン濃縮度を必要以上に高めたりしてきた。「核兵器は求めない」(ハメネイ師)としつつも、疑惑の完全解消を求める国際社会に誠実に向き合ってこなかった。
加えてイランは、ハメネイ師に直結する精鋭軍事組織「革命防衛隊」(約20万人)を通じて▽パレスチナ自治区ガザの「ハマス」、▽レバノンの「ヒズボラ」、▽イエメンの「フーシ」──などの反イスラエル勢力を軍事・財政的に支援する「抵抗の枢軸」を長年にわたって支えてきたとされる。
トランプ氏は1期目政権から一貫してイランを「中東問題の元凶」とみなし、核合意離脱と独自制裁の発動(18年)に踏み切り、ミサイル開発や抵抗の枢軸支援停止も要求してきた。その延長で起きたのが昨年の12日間戦争だった。英仏独3カ国首脳がイランによる報復攻撃を「無差別で過剰」と非難し、即時停止を求めているのも、こうしたイランの行動が長年にわたって中東の安定を揺るがせてきたという認識があるからだ。
日米首脳会談で問われる日本の立場
中東の混迷が深まる中で、日本の対応も問われている。日本にとって米国は唯一の同盟国ではあるが、同時に中東の安定は日本の経済・安全保障の両面で欠かせない。日本が輸入する原油の9割超、液化天然ガス(LNG)の1割超は中東に依存しており、ホルムズ海峡はその生命線にあたる。
日本は1979年のイラン革命前からイランと伝統的な友好関係を築き、米・イラン断交以降も協調を維持してきた。トランプ政権の核合意離脱で両国間の緊張が高まった2019年6月、安倍晋三首相(当時)がイランを訪問してハメネイ師と会談し、核疑惑の解消を通じてイランが中東の安定に建設的役割を果たすよう説得したこともある。米・イラン関係の改善には結びつかなかったものの、中東において植民地時代の歴史的負い目や宗教対立を持たないことは日本外交の大きな利点といえる。
イランに対して高市首相は衆院予算委員会の質疑で「核兵器開発は決して許されないのが一貫した立場」と述べ、周辺国への攻撃など地域を不安定化させる行動をやめるとともに、「外交的解決を強く求める」と呼びかけた(3月2日)。
とりわけ日本にとって懸念されるのは、米国の中東介入が長期化すれば、台湾を含むインド太平洋で日米同盟の抑止力が低下する恐れもあることだ。19日にワシントンで行われるトランプ氏との会談で、高市首相が日本の立場をどう伝えるかは、日本外交にとって極めて重要な場面になる。さらに高市氏は4月にかけて今年の先進7カ国(G7)議長国フランスのマクロン大統領やカナダのカーニー首相を日本に迎えて会談を予定している。広い視野に立ってトランプ氏の説得に力を注ぐ必要がある。
バナー写真:米国とイスラエルによるイランへの空爆作戦「エピック・フューリー」を監視するトランプ米大統領(左)とマルコ・ルビオ国務長官(中央)ホワイトハウス首席補佐官スージー・ワイルズ氏(右)ら側近=2026年2月28日、フロリダ州パームビーチ、米ホワイトハウス公開(AFP=時事)
(※1) ^ “How Trump Decided to Go to War With Iran” NYT, Mar. 3, 2026.
(※2) ^ “UK’s Starmer breaks with Trump on Iran” By Sam Blewett, Politico, March 2, 2026 6:42 pm CET