大勝した高市政権の強さと課題:高支持率を維持できるかは経済次第
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「永田町の厳しい現実」と解散戦略
首相は昨年12月半ばの記者会見で「令和8(2026)年度の税制改正や当初予算の取りまとめなど、目の前でやらなければいけないことが山ほど控えておりますので、(衆議院)解散については考えている暇がございません」と答え、解散に否定的な考えを示していた。しかしながら、実は解散のタイミングをうかがっていた。11月下旬には自民党幹部に解散についての意見を聞き、12月には、側近に解散日程案の策定を指示していた(『読売新聞』26年1月10日)。
首相が解散を望んだ最大の理由は、内閣を支える基盤が弱いためであった。24年10月の総選挙で自民党は大敗し、解散前の自民党の会派は199議席にとどまっていた。維新と連立を組むことで与党の議席数は233となり、かろうじて過半数を維持していたものの、政権基盤は安定していなかった。
解散を表明した1月19日の記者会見で首相は、就任後の国会審議を通じて「不安定な日本政治の現状、永田町の厳しい現実を、痛いほど実感した」と語っている。解散前は予算委員会の委員長ポストを立憲民主党が握っていたため、首相は選挙中の街頭演説で「大臣がいくら手を挙げても、私にばっかり当たる」(『毎日新聞』26年2月7日)と不満を述べている。
一方で、高市首相の人気は高く、内閣発足後の昨年11月上旬にNHKが実施した調査で支持率は65.6%を記録した。今年1月10日から12日に実施されたNHK調査でも61.9%と支持率は高い水準を維持していた。前の石破茂内閣の下で30%を切ることが多かった自民党の支持率も、高市内閣発足後は30%台を回復していた。
今回の選挙結果で、政権側には2つの勝因がある。1つはこのように首相の人気が高いということである。NHKや読売新聞社の世論調査での回答は、多くの国民が首相に指導力があると考えていると同時に政策に期待していることを示している。12月の読売新聞社の調査で内閣を支持すると回答した人の29%が「政策に期待できる」、1月のNHKの調査では33.2%が「実行力があるから」と回答している。首相は就任直後に日米首脳会談を実現し、日本成長戦略本部の設置、経済対策の策定、補正予算の成立など矢継ぎ早に政策を実施していった。短期間での実績の積み重ねが、「実行力」評価と結びついた可能性が高い。
「責任ある積極財政」という明快なメッセージ
勝因の2つ目は、首相が「責任ある積極財政」によって経済成長を実現するというわかりやすい政策を訴え続けたことである。首相の政策をまとめると次のようになる。日本で圧倒的に不足しているのは国内投資であり、政府が戦略分野に対して財政支出を拡大することで民間投資を誘発、これにより経済成長を促進するということである。
具体的な戦略分野に対する投資として、首相は「危機管理投資」と「成長投資」を挙げた。「危機管理投資」とは経済安全保障、食料安全保障などを高めるための投資、「成長投資」とは今後成長が期待できる分野への投資である。選挙戦では首相は「責任ある積極財政」について説明する際に具体的な政策事例に触れた。首相の演説は有権者に響き、自民党の票の底上げにつながった可能性が高い。
なお、首相は「責任ある積極財政」を押し出す際に必ずこれまでの財政政策が緊縮志向であったことを批判した。これは必ずしも正確な説明ではない。2018年度から財政支出の拡大は始まり、20年にコロナ危機が発生した後は、毎年大型の補正予算を組むことが慣例となり、予算規模が大きく拡大したからである。ただ、当初予算では社会保障向け予算の確保が優先されるあまり、社会保障以外の政策経費が抑制されてきたのは事実である。この結果、重要な政策経費はしばしば補正予算で計上されてきた。首相の説明は十分ではなかったが、首相が本当に批判したかったのがこのことであるのは間違いない。
2025年の参議院議員選挙では消費税減税が大きな争点となった。今回の総選挙で、自民党に対峙(たいじ)した「中道改革連合」は食料品にかかる「消費税ゼロ」を公約した。これに対し、自民党も食料品への消費税減税に前向きな姿勢を示して対抗した。より具体的には自民党は食料品に消費税をかけないことを実現するための「検討を加速」することを公約した。その後、首相は今秋の臨時国会に食料品消費減税を実現するための法案提出は可能であるという考えを示す。この結果、消費税減税は総選挙の大きな争点となることはなかった。
「中道」の失敗が自民を押し上げる
次に野党側の敗因について、特に中道改革連合に注目して、議論したい。自民党が大勝した理由は中道改革連合にあまりにも問題が多かったためである。
1月15日に立憲民主党と公明党が合流し新党を結成する動きが報じられた(『朝日新聞』2026年1月15日)。1月16日に立憲民主党の野田佳彦代表と公明党の斉藤鉄夫代表が記者会見を開き、新党結成と新党の名前を「中道改革連合」とすることを発表する。
衆議院の小選挙区制度が大政党に有利であることを考えれば、新党結成は合理的であった。また、新党が公明党の支持者である創価学会員の票を獲得できれば、立憲民主系の議員は票の上乗せ効果を期待できた。
自民・公明連立政権の下では自民党と公明党の間で選挙協力が行われ、小選挙区では創価学会の会員は自民党に投票してきたと考えられている。選挙区ごとに1万から2万票あると想定されている創価学会票が、自民候補者から中道候補者に移れば大きな票差になる可能性があった。新党結成が明らかになった時、「今までは協力してきた。接戦区では少なからず影響がある」という見方も自民党内にもあった(『朝日新聞』26年1月15日)。
しかし、結果は惨敗であった。中道改革連合の議席数は選挙前の167から49に激減した。また24年の総選挙の比例区での立憲民主党と公明党の得票数の合計は1752万票であったのに対し、今回の選挙における中道改革連合の得票数は1043万票にとどまった。数の上では合流の効果を全く発揮できなかった。
安保政策を集約できず、消費税ゼロ頼み
なぜか。大きく3つの理由がある。第1には1月16日の結党から総選挙まで3週間ほどしかなく、名前が浸透する時間がなかったことである。
第2の理由は安全保障政策について党がまとまっていないことが露呈したことである。中道改革連合は1月19日に発表した基本政策に「現実的な外交・安全保障政策」を掲げた。しかしながら安全保障法制について「存立危機事態における自国防衛のための自衛権行使は合憲」と記しただけで、集団的自衛権を認めようとはしなかった。
立憲民主党の中には2015年の安全保障法制に盛り込まれた政策はすべて個別自衛権で対応可能と主張する議員がおり、こうした議員は集団的自衛権には反対の考えを維持している。この文言はこうした議員に配慮したことは明らかである。つまり、文言上は「現実路線」を謳(うた)ったものの、集団的自衛権を正面から肯定することはできず、党内対立を逆に可視化した。
さらに、普天間飛行場の辺野古移設についても意見を集約できなかった。野田共同代表は普天間飛行場の移設問題について1月25日のフジテレビの討論会で「早急に選挙が終わった後に結論を出したい。」と発言した(『読売新聞』26年1月25日)。「現実的」と言いながら、党内の移設反対派を説得できていないことをさらけ出した。なお、中道改革連合の安保法制への評価は、「違憲部分を禁止する」ことを主張していた立憲民主党に比べれば、右寄りにシフトしたことになる。
このため、以前の立憲民主党の支持者が逃げて敗北を招いたのではないかと疑うことは可能である。だが、大きく響いたとは考えられない。立憲民主党に代わる投票先と考えられる共産党、社民党、れいわ新選組の3党は比例区での得票数、得票率とも24年の総選挙と比べ低下しているためである。3党の比例区での得票数は24年の810万票から492万票に低下、得票率も24年の14%から8%に減少している。
敗因の3つ目は、中道改革連合には食料品の消費税をゼロに引き下げることしか主な政策がなかったことである。減税だけで日本の経済が長期的に成長するはずはない。高市首相が「責任ある積極財政」を唱えながら、さらに数々の具体的政策を示して、日本の未来を語ったのに対し、有権者への訴求力の差は歴然としていた。
求心力を強めた高市首相
選挙の大勝によって、高市首相は与党内の求心力を高めた。特に、前回の選挙で落選した議員は早期解散・総選挙により1年3カ月ほどで国会復帰を果たせたので、首相に恩義を感じているのではないか。
そもそも日本の首相は1990年代以降、多くの統治制度改革が実施された結果、強い指導力を保持するようになっている。特に1994年の選挙制度改革により衆議院に小選挙区・比例代表並立制が導入されたことは与党党首の公認権の重要性を高め、首相は与党内で強い指導力を持つようになった。また2001年の省庁再編は首相に政策提案権を認め、首相を補佐する内閣官房に政策を策定する権限を付与する。こうして政府内で政策を主導する首相の力が拡大した。さらに麻生派以外に自民党の派閥は消滅しており、首相を抑制する与党議員の力は政治改革以降の時期と比べても弱くなっていることに注意する必要がある。
すでに紹介したように、高市首相は自らの内閣の発足後の権力基盤を脆弱(ぜいじゃく)と考えていたようである。しかしながら、首相は政権発足当初から自分の考えを随所に反映させてきた。これは首相官邸の主要人事に早くも表れた。首相は昨年1月に就任したばかりの岡野正敬国家安全保障局長を在任9カ月で退任させ、インドネシア大使に就任したばかりの市川恵一前内閣官房副長官補を新局長に起用した。首相秘書官の人事にも自らの考えを強く反映させた(『毎日新聞』2025年10月22日)。
政策面では22年に策定され、32年くらいまでを対象期間と定めていた国家安全保障戦略など安保関連3文書を26年中に前倒しで改定する方針を打ち出した。また昨年11月下旬に経済対策を策定する際、当初案を「しょぼいどころではない。やり直し」と言って拒み、総額を拡大させた(『日本経済新聞』25年11月21日)。
政権内での首相の指導力の強さを象徴したのは、解散を鈴木俊一幹事長と相談することなく決めたことである。首相が解散を極少人数の政治家と相談して決めることは不思議ではない。しかし、総裁に次ぐ党運営の責任者である幹事長にも相談せずに解散を決めるのは極めて異例であった。
2年後の参院選をにらむ
総選挙大勝によって高市首相の権力基盤は大幅に強化された。与党は衆議院で総議席465中、352議席を確保している。この基盤をより所に、首相は「責任ある積極財政」の名の下に戦略投資や複数年度予算の導入を進めるだろう。また食料品消費税減税の実現を目指すことが予想される。
では首相の政権運営は盤石なのか。そうとは言えない。参議院では、与党議席は過半数に5議席足らず、国会は「衆参ねじれ」の状態にある。自民党は単独で衆議院議席の3分の2以上を確保しており、参議院で法案を否決されても再議決によって法案を成立させることはできる。しかしながら、(参議院否定の)再議決を行うことは政治的には難しい。
首相にとっての課題は2028年参議院議員選挙である。自民党は2025年参議院議員選挙で惨敗し、39議席しか確保できなかった。一方、2022年の参議院議員選挙では大勝し、63議席を獲得した。2年後の選挙では自民党は60議席が改選される。2001年以降、参議院議員選挙は9回行われている。このうち自民党が60議席以上確保できたのは3回しかない。自民党が60議席を確保できないと参議院の議席状況はさらに厳しくなる。
これは首相の今後の政権運営を占う材料ともなる。首相は2年後の参議院議員選挙を念頭に、高い支持率を維持しようとするだろう。そのためにも首相は経済状況の改善を最優先課題として経済・財政政策を展開していくことになる。
バナー写真:衆院予算委員会で答弁する高市早苗首相=3月3日(時事)