「無難に終えた」が最大の成果:トランプ対策に神経をすり減らした高市首相

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対イラン戦争の真っ最中(3月19日)にワシントンで日米首脳会談が行われた。米大統領から過大な要求を突き付けられて決裂する事態を恐れた日本側は、入念な準備で何とか乗り切った。「無難さ」が会談で最大の成果だった。

イラン戦争で前提が崩れた日米首脳会談

昨年10月の日本での会談に続く2度目の対面は、出迎えたドナルド・トランプ大統領に高市早苗首相が抱きついて再会を喜ぶ場面に始まり、最後まで蜜月ぶりを演出するものとなった。

会談の冒頭でトランプ大統領が高市首相を「選挙で記録的な勝利をするのは私と共通点がある。パワフルな女性だ」と紹介すると、首相はまず英語で応じ始め、すぐ日本語に戻った。この時大統領は「素晴らしい通訳がついているから」と、通訳で同席した高尾直・外務省日米地位協定室長に目を向けた。高尾氏が安倍晋三元首相の専属通訳だった頃から大統領が「リトル・プライムミニスター(小さな首相)」と呼んでいた顔なじみだ。高尾氏の人選を含めて日本側が入念な準備をしていたことが分かる。

もともと今回の首相訪米には、3月末に予定されていたトランプ大統領の中国訪問を通じて、米中関係の基調が「対立」から「融和」へと変わり、日本が悪影響を受ける事態を防ぐ狙いがあった。事務レベルで首相訪米に向けた調整が本格化したのは、1月に入ってからだ。

この時期はちょうど高市首相が衆院解散の方針を明らかにした時期でもある。選挙結果がどうなるか分からない段階で調整を進めても構わないかと心配する日本側に、米側は「タカイチは圧勝するんだろう? より強くなっての訪米は喜ばしい」と、積極的に日程案を示してきた。

予測不能なトランプ大統領の出方次第とはいえ、「会談は成功する」という楽観的な見通しが早い段階から日本政府関係者の間で語られ始めていた。トランプ氏の高市氏に対する好感度の高さがその根拠だった。

しかし、こうした相場観は、米国とイスラエルが2月28日にイランを先制攻撃し、トランプ大統領が訪中延期を決めたことで、前提が崩れた。焦点は米国の同盟国である日本がこの攻撃をどう評価し、大統領が日本にどんな「貢献」を求めるかに変わった。イランがホルムズ海峡を事実上封鎖し、原油価格が急騰している時期でもあった。こうして国際政治ではさほど注目されない日米の2国間会談は、前例がないほど重いものになった。

6カ国共同声明に対する不可解な反応

第2次政権の始動時から、トランプ大統領はことあるごとに欧州の主要国を非難し、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国を敵視する態度すらとってきた。そこで日本政府は、欧州諸国と共に米国を側面支援する場面のお膳立てに一役買った。

首脳会談の前日、日本と欧州の先進7カ国(G7)メンバーである英国、フランス、ドイツ、イタリアにオランダを加えた6カ国が「ホルムズ海峡に関する共同声明」を発表した。声明は、イランによる民間インフラへの攻撃とホルムズ海峡の「事実上の閉鎖」を「最も強い言葉で非難する」とし、「安全な航行の確保を目的とした適切な取り組みに貢献する用意」を表明した。米国によるイラン攻撃の法的評価には触れなかった。

トランプ大統領は会談の冒頭で、「昨日の声明で日本は立ち上がってくれていると感じた」と日本への評価を口にした。不可解だったのは、声明にNATO加盟国が加わっているにもかかわらず、「(日本は)NATOとは全く違う」と付け加えたことだ。声明程度では大統領のNATO嫌いを和らげる効果がなかったのか、それとも、日本により深い関与を求める考えがにじみ出たのか、受け止め方は分かれた。

トランプ氏はしばしば、日本が原油輸入量の9割以上を中東に依存していると指摘し、イラン情勢をめぐる日本の「貢献」の必要性を語ってきた。これを逆手に取って、茂木敏充外相はイランのアッバース・アラグチ外相と電話で2度協議するなど、他のG7諸国にはないイランとの「特別な関係」を印象づけている。

実際にアラグチ外相は、日米首脳会談直後の共同通信の電話インタビューで、日本関係船舶のホルムズ海峡通過を保証する考えを示した。そこには、日本が米国一辺倒になることへのけん制と秋波が入り混じったイランの複雑な対日観がにじんでいた。

高市首相の「ご機嫌取り」発言

高市首相はメディアに公開された首脳会談冒頭のやりとりで「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだと思っている」と露骨に大統領を持ち上げた。どこでトランプ氏の心をつかむか、神経をすり減らして考え抜いたフレーズだろう。これが、「ご機嫌取り」を通じてトランプ氏の関心を早期の事態収拾に向かわせる意図によるものだったとしても、国際社会は日本がイラン攻撃を合法と判断したと受け止めるリスクがある。

多くの国は今回のイラン攻撃を、差し迫った脅威を受けての「先制的攻撃」ではなく、「予防的攻撃」の疑いが濃厚だと見ている。国際法では前者は合法でも、後者は違法となる。米国には、第43代ジョージ・W・ブッシュ政権(2001~08年)の時に予防的攻撃を選択肢とする安全保障戦略を打ち出した過去があり、もともと国際法違反の自覚は乏しい。

戦闘が始まって以降、イラン攻撃の合法性をめぐる論点や、市民を巻き込んだ攻撃への人道上の問題点は後景に退き、世界経済に重大な影響を与えるホルムズ海峡の閉鎖を解除する現実主義ばかりがクローズアップされている。日本を含む多くの西側諸国が国際法上の評価を曖昧(あいまい)にしているのは、イラン攻撃を「Operation Epic Fury(壮大な怒り)」作戦と名付けるほど感情に任せて動く大統領を怒らせないための「知恵」ではある。

日本側を凍らせたトランプ氏の「真珠湾」発言

実は、日本側が描いたシナリオにはなく、思わず息をのむ場面もあった。

イラン攻撃の前に日本など同盟国に相談をしなかった理由は何かと日本人記者に問われたトランプ大統領が「サプライズ(奇襲)だからだ。なぜ、皆さんは我々に真珠湾(攻撃)について教えなかったのか。我々より皆さんの方がサプライズを知っている」と切り返した時だ。旧日本軍によるハワイの真珠湾攻撃を引き合いに、イラン攻撃を正当化するかのような発言は、その場にいた日本政府関係者やメディアを凍らせた。高市首相は無言で表情をこわばらせるだけだった。

何があってもトランプ大統領の機嫌を損ねないという徹底した高市首相のパフォーマンスには、功罪どちらもあったが、少なくとも日本にとって今回の会談は「成功」と映った。

懸念されていた自衛隊の中東派遣を強要されることもなく、時期がずれたとはいえ、米中首脳会談の前に「強固な日米同盟」をアピールでき、「自由で開かれたインド太平洋」に米国が引き続き関与するという表明を引き出すなど、いくつもの収穫があったからだ。

最大の要因は、トランプ政権にとって日本の「利用価値」が極めて高いと、外務省、経済産業省、現地の日本大使館などが総力をあげて入念な「トランプ対策」を積み上げたことにある。

石破茂前政権の時から関税協議で再三ワシントンに足を運んだ赤沢亮正経済産業相が同行し、経済分野での「貢献」の姿勢を示したことも、トランプ政権に好感された。今回の日米首脳会談では、石破政権のもとで約束した総額5500億ドル(約87兆円)の対米投資の第2弾として、次世代原子炉の小型モジュール炉(SMR)と2カ所のガス発電所の建設の計3事業730億ドル(約11兆6000億円)の案件でも合意した。大統領の気分にプラスに作用したことは、間違いない。

引き換えに、より重い課題を背負った日本

もちろん、首相就任前まで外交経験の乏しかった高市氏が、周囲の助言に耳を傾けない悪弊を越えて首脳会談に臨み、「舞台に立つと振り付け以上のパフォーマンスができる」(政府高官)能力を発揮したのは、日米関係の険悪化という最悪の展開を避ける意味では大きかった。

とはいえ、中長期的には日本がより重く難しい課題を背負ったとも言える。

「力による平和」を唱えるトランプ大統領の「暴走」に加担していると見られれば、将来、国際社会が「法の支配」「道徳」重視に戻った時に、日本は主導的な役割を果たしにくくなる。年初のベネズエラ侵攻やイラン攻撃で見せた米国の圧倒的な軍事力を前に、日米同盟を補完する「プランB」の機運も高まりにくい。だからといって過剰な対米依存を続ければ、日本外交の手足は一層強く縛られる。発言がころころ変わるトランプ大統領が変心しないとも限らない。

日米首脳会談直後の3月22日、アジア歴訪中に日本を訪れたドイツのボリス・ピストリウス防衛相は、小泉進次郎防衛相と米軍の横須賀基地をそろって視察し、その後、対岸の自衛隊横須賀基地の護衛艦前で共同記者会見を行った。混沌(こんとん)とする国際情勢の中で日本と欧州の連携の重要性を強調する小泉防衛相を前に、ピストリウス防衛相はこう念押しすることを忘れなかった。

「大切なのは力による支配ではない。法の支配だ」

バナー写真:日米首脳会談を前に談笑する高市早苗首相とトランプ大統領 2026年3月19日(ロイター)

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