巨額赤字のホンダ:「脱ガソリン車」で誤算、再起かけて戦略見直しへ

経済・ビジネス 環境・自然・生物 国際・海外

ホンダの三部敏宏社長は2021年の就任直後、40年までに世界で販売する四輪車をすべて電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする「脱ガソリン車宣言」をした。以来、トップダウンで推進してきた戦略がいま、大きな曲がり角にある。

トランプの政策転換

ホンダは3月12日、2026年3月期決算で最大6900億円の最終赤字(前年同期は8358億円の黒字)になると発表した。上場以来初の赤字。その要因は、EV需要の減速に伴い巨額の損失が発生するためだ。

「脱ガソリン車宣言」後、ホンダは四輪事業の収益源である米国市場でEV戦略を加速させていた。22年にはオハイオ工場に7億ドル(約1120億円)を投資してEV生産のハブ拠点にすると発表。翌23年には韓国の電池大手、LGエナジーソリューションとオハイオ州に44億ドル(約7040億円)を投資して蓄電池の合弁生産工場を建設する計画を打ち出した。EV関連の累計投資額は米国市場を中心に3兆円を超えていた。

しかし、昨年発足した米トランプ政権がEVへの補助政策を打ち切ったことなどで流れが変わり、米国市場が減速し始めた。このため、EV戦略の中心に置き、オハイオ工場で生産予定だった「ゼロ」シリーズの一部開発中止を決定。先行投資をしていた金型や生産設備の減損処理などにより、1兆3000億円の損失を計上することになった。

27年3月期決算でも、サプライヤーへの補償などで1兆2000億円の損失が発生する見通し。ホンダでは2年間でEV戦略の見直しにより計2兆5000億円の巨額損失が発生することになる。

続いて3月25日には、ソニーグループとホンダの合弁会社であるソニー・ホンダモビリティがEVの開発と販売を中止すると発表、さらに波紋を広げた。

将来的に車の知能化、すなわちスマートフォンに4つの車輪が付いたイメージの賢いクルマが求められる。知能化と相性の良い、制御技術に長けたEVシフトが進めば、ソニーが持つスマホや半導体、エンターテイメントのノウハウが必要になると、ホンダは判断。一方、ソニーは車をしっかり造り込むホンダの技術が欲しかった。両社の思惑が一致したことで、22年に合弁会社設立に動いた。日本ブランドを代表する両社の提携は世界から注目を浴びていた。

ソニー・ホンダモビリティは、すでに米国で先行受注していたEV「アフィーラ」の納車を取りやめる。この車は「ゼロ」と部品の一部を共通化し、ホンダのオハイオ工場で生産する計画だったため、戦略見直しにより、販売中止に追い込まれた。

遅れた軌道修正

ホンダのEV戦略は本質的に何が問題だったのだろうか。「脱ガソリン車宣言」をした三部社長の決断がすべて間違っていたとは思えない。むしろ問題は、戦略に柔軟性が乏しく軌道修正が遅れたことと、人材が流失して四輪事業の競争力が劣化し始めていることではないかと筆者は見ている。

三部社長の就任当時は、産業界に対して地球温暖化の要因とされる二酸化炭素(CO2)の排出抑制を求める大きな潮流があった。加えてその後、米テスラや中国の小鵬汽車など新興EVメーカーでは車と人工知能(AI)の融合を加速させ、自動・無人運転など車の知能化が進展した。それらの車を「SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)」と呼んだ。SDVを推進していくためにもソフトウエアで制御しやすいEVシフトが求められた。

中国に次いで世界第2位の米国市場では、バイデン前政権が補助金でEVを優遇。米政府はCO2排出抑制を求め、2032年には26年比で排出量を半減させる環境規制導入も打ち出した。米環境保護局はこの規制が導入されれば、米の新車販売に占めるEV比率が67%に達する可能性があるとの試算を示した。ちなみに25年の米国の新車販売におけるEV比率は約7.8%と推計されている。

ホンダは25年に米国で143万台の新車を売った。グローバル販売に占める比率は約40%。日本の大手3社の米国市場比率を比較すると、トヨタ自動車24%、日産自動車29%で、ホンダが一番高い。しかもホンダの手元資金は4兆円を超えるなど財務体質が良好であり、牙城を守るため、米国でEV関連に思い切った投資に踏み切った。

米国メーカーもEV事業に関して大きな減損処理を迫られている。フォードは27年までに195億ドル(約3兆1200億円)、GMは25年10-12月期に60億ドル(約9600億円)の損失がそれぞれ発生すると発表している。フォードの損失額はホンダを上回る規模だ。

欧州でもEVは頭打ちになっており、トヨタに次いで世界2位の販売台数を誇る独フォルクスワーゲンも25年12月期決算で、EV関連で59億ユーロ(約1兆0800億円)の特別損失を計上した。

このようにEV関連に積極的に投資してきた自動車会社は、市場の減速に対応するため、設備投資の減損処理を迫られるなど巨額の損失を計上する事態になっている。

トヨタは極端なシフトを回避

トヨタ自動車もEVなど電動化に対して2030年までに4兆円、このうち車載電池に2兆円を投資する計画を示し、25年11月には米ノースカロライナ州に車載電池工場の開所式を開いた。

だが、トヨタは極端なEVシフトは敷かなかった。ある電池関連企業の幹部は、「トヨタは米国工場で生産する電池をEV向けからハイブリッド向けの比率を高めるなど素早くかつ細かく軌道修正をしている」と説明する。

また、当初25年からケンタッキー工場でスポーツ用多目的車(SUV)のEVを造る計画だったのを1年ほど延期。26年からインディアナ工場で予定していた「ハイランダー」のEV生産を2年遅らせ、生産場所もケンタッキーに集約した。福岡県苅田町に新設予定だった電池工場は建設時期を延期している。

業績見通しの赤字転落について、ホンダの三部社長は記者会見で「複数の選択肢を持っていなかったことを反省している」と語ったが、確かにトヨタに比べてホンダは戦略の柔軟性に乏しかったように映る。

なぜ、トヨタとホンダの対応で差が開いたのか。それは、トヨタは米政府の規制よりもハイブリッドの方が売れ始めたという米国市場の顧客の動きを注視してEV戦略を軌道修正したのに対し、ホンダは規制動向に引きずられ過ぎたということだろう。加えて言うなら、トヨタはホンダのようにEVシフトに振り過ぎず、徐々にシフトを進めている点も市場減速の影響を大きく受けなかった要因だ。

ただ、トヨタはEVシフトへの対応を止めているわけではなく、10億ドル(約1600億円)を米国工場に新規投資すると発表した。この投資には、ハイブリッドの生産を強化するだけではなく、新たなEVを生産するためのものも含まれる。

三部社長の責任論も

米テスラの元社員は「テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏の口癖は『Fail fast』だ」と語る。これは、新たなことに挑戦して失敗してもそこから素早く軌道修正することが大事だという意味だ。技術革新の流れが速く、「正解」が変わる時代だからこそ、こうした発想が重要になるのであろう。

ホンダもこれから素早い軌道修正ができるかが再生の鍵となる。ホンダもEVからハイブリッドへシフトするほか、インド事業の強化も打ち出している。三部社長は4月から「企業変革責任者」の肩書を自ら背負い、再建を陣頭指揮する腹づもりのようだ。

しかし、ホンダ社内の士気はそれほど高くないように見える。ある幹部は「今の社長のままではやる気が起こらない。自身が強引に推し進めたEV戦略の失敗を棚に上げて経営責任から逃げているのはおかしい」と指摘する。

別の中堅技術者は「社長が脱エンジン宣言したことで、優秀なエンジン関係の技術者が他社に流出したため、優れた製品を造るのに支障が出始めている」と明かす。

ここ10年ほどホンダの四輪事業は低収益で、二輪事業がホンダの経営の屋台骨を支えてきた。その大きな理由は、四輪事業ではヒット車や収益を支える車がほとんどないからだ。トヨタと比較しても商品力が劣化していた。この構造は今も変わっていないため、ホンダの反転攻勢は容易ではないと筆者は見ている。

毎年5月半ばにホンダは「ビジネスアップデイト」と題して、現状の経営戦略などを公表する。今年はどんな再建策が出てくるかが見ものだが、内容次第ではホンダの将来に経営危機という「黄色信号」がともることになるかもしれない。

バナー写真:東京ビッグサイトで開催されたジャパンモビリティショー2025のプレスデーで説明するホンダの三部敏宏社長=2025年10月29日(ロイター)

トヨタ自動車 ホンダ ハイブリッド車 EV トランプ