国際秩序の不安定化が促す日韓接近:課題抱え進む戦略的連携

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高市早苗首相と韓国の李在明大統領の下で、日韓両国が接近している。互いの故郷を訪ね合うシャトル外交を通じ、エネルギー安全保障や対米連携で協力を深める一方、対中・対北朝鮮認識や安保協力の制度化では課題を抱える。慶応大学東アジア研究所長、朝鮮半島研究センター長の西野純也教授が接近の背景と今後の論点を探る。

戦略的パートナーとしての日韓

高市早苗首相は5月19日、李在明大統領の故郷である韓国の慶尚北道・安東を訪問して日韓首脳会談に臨んだ。1月には、李大統領が高市首相の故郷・奈良を訪問して会談を実施したばかり。李大統領は会談後の共同記者発表の冒頭で、「両国の首脳が互いの故郷を訪問したのは今回が初めてであり世界的に見ても例を見ないことだ」と、シャトル外交の意義を強調した。

昨年6月に就任した李大統領にとって今回は6回目の日韓首脳会談(石破首相、高市首相とそれぞれ3回)であり、昨年11月の20カ国・地域首脳会合(G20)での懇談も含めれば、高市首相とはすでに4回会合をしたことになる。このように指導者が頻繁かつ緊密に意思疎通を図っていることが両国関係の安定化につながっていることは言うまでもない。

保守色が強い高市首相と、進歩層の支持が厚い李大統領はともに、就任前は互いの国に対して厳しい認識を示していたが、それぞれ政権発足以降は一貫して日韓関係を重視してきている。高市首相は昨年10月の就任会見で、「韓国は日本にとって重要な隣国であり、国際社会のさまざまな課題に対応するためにも必要なパートナー」と述べ、李大統領は今回会談後の共同記者発表で、日韓を「急変する国際情勢に共同で対応するための戦略的パートナー」と表現した。

エネルギー安全保障で協力

奈良での会談から今回の安東の首脳会談までの間に、中東情勢とホルムズ海峡の事実上の封鎖が国際社会全体の危機として浮上した。とりわけ、日本は原油輸入の9割、韓国は7割を中東に依存しており、両国にとってエネルギー安全保障が喫緊の課題となる状況での会談であった。その中で、日韓両国が原油および液化天然ガス(LNG)の調達や相互融通での協力の強化について合意したことは高く評価したい。

今回の合意は、3月の赤沢亮正経済産業相と韓国の金正官産業通商部長官による会談で署名された「サプライチェーン・パートナーシップ協力覚書」を基にしたものだ。今回は日韓両首脳がそれを再確認し、協力をさらに前進させると力強くコミットしたことに意味がある。

高市首相は共同記者発表で、「インド太平洋地域の備蓄強化を含むエネルギー供給強靭化(きょうじんか)」と「原油、石油製品、およびLNGの相互融通、スワップ取引を含む日韓両国のエネルギー安全保障強化」を協力の2本柱として打ち出した。前者の協力が進めば、両国が地域の安定に資する国際公共財を提供し得ることを示す良い例となる。後者の協力は、両国の国民経済に日韓協力が具体的に役立つことを示すだろう。

李大統領は常々、「国民がその恩恵を肌で感じられる」協力が必要であると述べており、エネルギー調達での協力は、日韓関係に対する両国民の理解と支持を広げるのにプラスになることが期待できる。

米軍のプレゼンス低下へ懸念共有

くしくも、今回の日韓首脳会談は北京での米中首脳会談の直後の開催となった。韓国大統領府の説明によれば、高市首相と李大統領は、米中首脳会談の結果についても意見交換したという。米中首脳が「建設的戦略安定関係」の構築で一致したことが、日韓両国にどのような影響を及ぼすのかはまだ定かではない。

日本からすれば、日中関係が悪化する中、トランプ大統領が経済、貿易を優先して中国に融和的な姿勢をとることは望ましいとは言えない。一方、韓国からすれば、米中関係が安定することは基本的には歓迎であろうが、歴史的に大国間政治の犠牲になってきた経験から、米中戦略競争における両国の妥協が自国に負の影響を及ぼす可能性に鋭敏にならざるを得ない。

加えて、トランプ政権が同盟国にさらなる役割と責任の拡大を求める中で、3月以降の中東情勢の展開により東アジアにおける米軍のプレゼンスがさらに低下することへの懸念を日韓は共有している。

李大統領は同月の国務会議で、「在韓米軍が自国の軍事的必要によって一部の防空兵器を搬出することについて、われわれ(韓国)は反対の意見」との立場を表明した。高市首相は安東での共同記者発表で、「インド太平洋の平和と安定を促進するため、日米同盟、米韓同盟、そしてその戦略的連携による抑止力、対処力の維持強化を含め、日韓が主体的に取り組んでいくことが重要」との認識を李大統領と共有したと述べた。また、会見の最後で「困ったこと、諸外国との関係で悩むことがあったら、しょっちゅう電話をしあおうねと約束した」と明かしたのは印象的であった。

韓国・安東で行われた日韓首脳会談で高市早苗首相(左)が贈呈した福井県鯖江市のメガネフレームを着用する韓国の李在明大統領。バックには李大統領が贈った韓国の面=日本政府高官のXより(時事)
韓国・安東で行われた日韓首脳会談で高市早苗首相(左)が贈呈した福井県鯖江市のメガネフレームを着用する韓国の李在明大統領。バックには李大統領が贈った韓国の面=日本政府高官のXより(時事)

日本は「インド太平洋」、韓国は「北東アジア」

以上のように、「国際社会が激動し、世界全体が不安定化」(高市首相発言)している中での日韓の戦略的連携、とりわけ自国第一主義を掲げる同盟国・米国に対応するための連携が必要との日韓両首脳の認識が両国を引き寄せる大きな求心力となり、現在の関係を安定的なものにしている。日米同盟、米韓同盟で構成される日米韓の安全保障のトライアングルのつながりのうち、最も脆弱(ぜいじゃく)だった日韓関係が、米国の変化の影響もあって強化されている、ともいえる。

大きな枠組みでの情勢認識では一致しつつも、各論では日韓の認識や対応には違いがある。その違いが連携の阻害要因とならないように、引き続き緊密な意思疎通と政策調整が不可欠となる。これが、今後も両国が連携と協力を進めていくための第1の課題と言える。

例えば共同記者発表において、高市首相は「インド太平洋」という言葉を4回使ったが、李大統領は一度も言及しなかった。代わりに李大統領は「北東アジア」について語り、「韓国、中国、日本の3カ国が互いに尊重し協力し合って、共通の利益を模索することが重要であると強調」したことを明らかにした。一方で高市首相は、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)に言及しながら、先のベトナム訪問時の政策演説でも強調した自律性と強靭性を高めることの重要性を指摘した。

また、北朝鮮問題に関しては、李大統領が「南北が平和的に共存し、共に成長する」ことを目指す韓国政府の立場を説明したのに対し、高市首相は、核・ミサイル問題への対応を強調した。かつて日韓協力が進んだ2000年代までは、両国は互いの政策への支持を表明していたが、現在はそのような状況にはない。日韓を取り巻く情勢の変化によって、両国間の認識や政策の調整はより一層、労力を要するようになっている。

協力積み上げ、制度化を

第2の課題として、日韓の防衛協力、安全保障協力のさらなる制度化がある。歴史問題を含む日韓の「不幸な過去」のため、韓国には依然として日本との安保協力に慎重あるいは否定的な考えがある。特に李在明政権の支持基盤である進歩勢力内ではその傾向が強い。そうした状況もあって、安保協力は米国を介在する日米韓3カ国で進められてきたし、日韓間で法的拘束力を伴う主たる安保協力の枠組みは情報包括保護協定(GSOMIA)のみとなっている。また、2018年の「レーダー照射事件」は防衛当局間の信頼関係を大きく傷つけた。

幸い、現在は防衛当局間の意思疎通も回復しており、今年1月の日韓防衛相会談では、閣僚の毎年の相互訪問、信頼増進のための人的交流および部隊交流の活性化、17年以降中断している捜索救助訓練(SAREX)の実施などで合意した。今後は、こうした合意を実践する中で、協力の制度化も併せて進めていくことが望ましい。具体的には、かつて締結を目指したがまだ実現していない物品役務相互提供協定(ACSA)を結べるような信頼の回復と環境の醸成を着実に進める必要がある。

5月に開催された日韓安全保障対話も、局長級から次官級に格上げされたばかりであるが、できるだけ早く閣僚級会合とすることが望ましい。日本はすでに米、豪、インド、欧州諸国など10カ国ほどと外務・防衛担当閣僚会合(2+2)を開いている。

最後に、第3の課題としてスピード感ある協力の実践が挙げられる。2023年以降の日韓関係の急速な回復の中で、関係悪化により途絶えていたさまざまな政府当局間の協議が回復、活性化して、新たな対話の枠組みも多数作られた。安東の会談でも、エネルギー安全保障での協力を進めるための「産業・通商政策対話」の立ち上げが決まった。対話や協議は確かに重要だが、今の日韓関係により必要なのは具体的な取り組みを数多く実践していくことである。実践を繰り返し協力を積み上げることこそ、今後の日韓関係を一層強靭なものとしていくことになる。

バナー写真:韓国・安東での会談前に握手する高市早苗首相(左)と韓国の李在明大統領=2026年5月19日(時事)

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