高市首相のインド訪問:「進化版FOIP」の本格的デビュー
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インド「MAHASAGAR」との共鳴
首都ニューデリーで7月2日に行われた日印首脳会談で、両氏は中東情勢や中国の動きを踏まえ、エネルギーや重要鉱物の安定供給など経済分野で連携を強化することで一致した。海洋安保協力の深化も掲げ、艦艇に搭載する日本製通信アンテナの輸出について大枠で合意したほか、両国の外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を年内開催することになった。
会談後の共同発表で、高市首相はインドを「戦略的方向性を共有する信頼のパートナー」とたたえ、「隣人関係を新たな高みへ引き上げていく」と語った。モディ首相も「両国の取り組みがインド太平洋全体の平和、安定、進歩の道を切り開く」と述べた。また、首脳共同声明には、▽防衛・安保協力▽経済安全保障、エネルギー、科学技術を含む経済連携▽人的交流──を優先分野として協力を進めることが盛り込まれた。
モディ首相は「進化版FOIP」構想に歓迎の意を示した。首脳声明には、モディ政権が進めるグローバルサウス(新興・途上国)との協力構想「MAHASAGAR(マハー・サーガル)」と新FOIPが「緊密に整合している」とも明記され、両構想が共鳴しあっていることを内外にアピールすることになった(※1)。
安倍構想をアップグレード
高市首相は今年5月、訪問先のベトナム国家大学(ハノイ)で外交演説した際に、「FOIPを進化させる」として進化版の内容を明らかにした(※2)。2016年に首相当時の安倍晋三氏が初めて「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱してから10年の節目にあたることを強く意識したものだ。安倍版FOIPが太平洋とインド洋の安全保障を一体として捉えたところに理念の斬新さがあったのに対し、高市版FOIPは10年間の地政学的変化に合わせて構想をアップグレードさせている。
高市氏は、イランによるホルムズ海峡封鎖、大国間競争の激化、人工知能(AI)の進展といった国際環境の激変を踏まえ、(1)エネルギー・重要物資のサプライチェーン強靱化を含む「AI・データ時代の経済エコシステム」の構築(2)官民一体の「経済フロンティアの共創」と「ルールの共有」(3)地域の平和と安定のための「安全保障分野での連携」の拡充──の3本柱を取り組みの重点分野とした。本来の理念を継承しつつ、外交・安保、経済安全保障、地域・ビジネス連携を一体的に推進する指針といってよい(※3)。
実利・実益ある連携がカギ
高市首相の訪印が大きな成果を収めたのは、理念の繰り返しにとどまらずに、互いの実利・実益を生かす工夫と姿勢にあったといえる。その一例は、首脳会談に合わせて両国のビジネス指導者らが協力・連携を話し合う「日印合同経済フォーラム」が開かれ、日印企業間で129件の協力文書が交わされたことだろう。
日本から150社超の企業代表が同行し、高市首相も年間40万トン規模の「グリーンアンモニア」生産事業構想を表明した。また、同国農村部の牛糞など豊富なバイオマス資源をエネルギー利用する事業を日印で進める計画でも合意し、対印投資を含む日本側の事業総額は2兆円規模となる見込みだ。
世界最大の人口(14億人超)を擁するインドは、今年中に日本の名目国内総生産(GDP)を抜く勢いだが、原油の9割を輸入に依存するなどエネルギー面で弱点を抱えている。ウクライナ侵略で制裁を受けているロシア産原油の購入を続けて、対米関係を悪化させたのもそのためだ。
海洋安保協力や日本の防衛装備品輸出を進める一方で、民生や国民生活に直結したビジネスチャンスに着目した点が功を奏している。また、レアアース問題で共に中国の威圧的外交にさらされている日印両国がサプライチェーン(供給網)の強靭化や石油備蓄で協力を誓ったことも、相互の連携を深めることにつながった。
クアッドの結束回復につなげられるか
日本が近年、インドや豪州などとの結びつきを強めてきた最大の眼目は、中国の軍事的膨張や覇権主義的行動を抑止し、牽制することにある。ただし、FOIP推進の一環として行われてきた日米豪印4カ国による対話枠組み「クアッド(Quad)」は今、大きな試練に直面している。米印関係の不調が原因で、これまで年次開催されてきた首脳会合が2024年以来開かれていないことだ。
全方位外交を重視するインドは、ロシアとの友好関係を維持し、中ロ主導の「BRICS(新興経済国)」にも加盟している。このため、クアッドと言っても日米豪3カ国とは微妙に立ち位置が異なる。トランプ米大統領は対印関係に疑念と不信を募らせ、クアッドへの関与を低減しつつあるとの見方もある。
そうした情勢だからこそ、日印の連携強化には意義がある。FOIPを進める上でインドが欠かせないのは言うまでもない。高市首相はトランプ氏との個人的信頼に加えて、モディ首相との信頼も深めてきた。クアッドの新たな結束と首脳会合開催に向けて、米印両国の橋渡し役を務める必要がある。
バナー写真:歓迎式典でインドのモディ首相(右)と握手する高市早苗首相=2026年7月2日、インド・ニューデリー(AFP=時事)
(※1) ^ 7月2日、外務省「日印首脳共同声明全文」
(※2) ^ 5月2日、外務省「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の進化」
(※3) ^ 5月7日、Jディフェンスニュース「進化した『自由で開かれたインド太平洋』を発表」