猛暑で再び高まる「ドーム」需要:変わる日本のスタジアム計画

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日本のスタジアム建設計画で、「ドーム人気」が再燃してきた。21世紀に入りドーム球場から屋外型に回帰する動きが目立ったが、ZOZOマリンスタジアム(千葉市)に代わる新球場の整備では市が屋外型から屋内型に転換する意向を表明した。背景には気候変動への対応による状況の変化がある。

「気温上昇 選手や観客に負担」

千葉市と、同球場を本拠地とする千葉ロッテマリーンズ、球場近くに全国屈指の巨大商業施設を持つイオンモールの3者が「千葉マリンスタジアム再構築基本計画策定に係る協定書」を締結したのは6月2日だった。新球場はマリンスタジアムから北へ約1キロに位置する県有地の幕張メッセ駐車場に建設され、2034年ごろに開業の予定だ。

記者会見で、ロッテ球団の玉塚元一オーナー代行は「本当に魅力的な施設にするには、近年の激しい気候変動などを踏まえるとドーム化は避けられない。本日の3者協定の締結でようやく具体的に着手できる体制が整った」と話した。

近年は全国的に最高気温が35度以上の「猛暑日」が急増しており、昨年8月5日には群馬県伊勢崎市で41.8度 を記録し、日本の観測史上最高気温を塗り替えた。一方で豪雨に見舞われる頻度も増えている。

千葉市側は建設費増への懸念からドーム化には慎重だった。屋根を付けなければ、概算事業費は650億円程度で済む。しかし、ドームにすれば1000億円を超える。高額な費用への市民理解が課題だったからだ。

ドーム化の再検討について発表する千葉市の神谷俊一市長(産経ビジュアル)
ドーム化の再検討について発表する千葉市の神谷俊一市長(産経ビジュアル)

昨年7~8月に千葉市はパブリックコメントを募集した。「今後も気温が上昇するであろうから、将来的にみても、屋外型は選手にかなり負担がかかる。観客も体調を崩す恐れが増える」「ドームとする事で天候に左右されずにイベント開催が可能となる」などとドーム化支持の意見が圧倒的に多く、ロッテ球団からの要望もあって、屋内型に方針を転換した。日本ハムファイターズが北海道北広島市に建設したエスコンフィールドのように、開閉式の屋根を求める声も多かったが、現状では費用面から密閉式のドームが有力だ。

1990年の開業以降、マリンスタジアムは、東京湾からの強風と潮の香りが名物だった。だが、今後の気候変動を考えると、ライブや展示会など多目的な通年活用も課題となってくる。千葉市の構想でも「365日楽しめるエンターテインメントスタジアム」を方向性に掲げており、日本最大級の商業施設であるイオンモール幕張新都心も、球場の「拡張機能」としてのビジネス展開を検討していく。

開閉式屋根で全天候に対応するエスコンフィールド北海道(PIXTA)
開閉式屋根で全天候に対応するエスコンフィールド北海道(PIXTA)

東京・築地にも5万人の屋内型

東京・築地市場跡地でも5万人を収容する屋内型スタジアムの建設が始まろうとしている。東京都が保有する約19万平方メートルの跡地に、野球やサッカー、コンサートを開催できる多目的スタジアムの他、ホテル、オフィス、マンション、商業施設など9棟が建設される。総事業費は9000億円で、三井不動産、トヨタ不動産、読売新聞グループ本社を中心とする11社の企業連合が開発を担う。スタジアムなどの主要施設は2028年度から着工し、30年代前半の開業を目指している。

築地市場跡地再開発のイメージ図。屋内スタジアムを設ける計画だ(三井不動産提供、時事)
築地市場跡地再開発のイメージ図。屋内スタジアムを設ける計画だ(三井不動産提供、時事)

プロ野球・読売ジャイアンツの本拠地移転の可能性がささやかれたが、読売新聞グループ本社の山口寿一社長兼球団オーナーは「巨人軍の本拠地移転を前提に検討してきたものではない」と否定した。

巨人の本拠地である東京ドームは1988年開業から40年近くが経過しているとはいえ、JR水道橋駅前という絶好の立地にあり、移転するメリットは大きくないとみられている。むしろ、築地の新スタジアムは野球にこだわらず、多目的に活用できることを前面に打ち出し、天候に左右されない屋内施設とすることが決まっている。

神宮には屋内ラグビー場

東京の明治神宮外苑でも再開発が着々と進む。高校野球などで使われてきた神宮第二球場の跡地に屋内型の新しい秩父宮ラグビー場が建設される。

現在の秩父宮ラグビー場は、戦後まもない1947年、米軍駐車場となっていた女子学習院の焼け跡にラグビー関係者の浄財や勤労奉仕によって建設された。当初は「東京ラグビー場」だったが、日本ラグビー協会の名誉総裁だった秩父宮殿下の死去を機に、53年から「秩父宮ラグビー場」と改称。「日本ラグビーの聖地」として親しまれてきた。

2030年開業予定の新ラグビー場は、フランスにある欧州最大の屋内競技施設「パリ・ラ・デファンス・アレナ(旧名称・Uアリーナ)」がモデル。日本初の屋内型ラグビー場となる。収容1万5000人と現在より約1万人少なくなるが、コンサートなどの会場としても活用し、イベント時は最大2万5000人収容を見込んでいる。

新しい秩父宮ラグビー場のイメージ図。副名称は「SMBC Olive SQUARE」(三井不動産提供、PRTIMES)
新しい秩父宮ラグビー場のイメージ図。副名称は「SMBC Olive SQUARE」(三井不動産提供、PRTIMES)

ラグビーは雨でも雪でも行うのが競技の伝統だ。それだけに、密閉式のスタジアムに人工芝が敷かれる環境にはラグビー関係者の間でも反対があった。だが、最終的には天候に左右されない形で多目的に利用できる状況が優先された。

一方、神宮外苑の中では、東京五輪・パラリンピックのために建て替えられた国立競技場に続き、2033年ごろの完成が見込まれる新神宮球場も青空の下で競技を楽しむ屋外型スタジアムとして建設される。

国立競技場の全面改築では建設費の抑制や景観保護が重視された。新神宮球場も大学野球の「聖地」としての歴史の継承や、地域の豊かな自然との調和を理由に挙げている。都市計画で定められた地区の容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)の最高限度を超えてしまうため、ドームにできない事情もあるという。神宮外苑には屋内型と屋外型の競技施設が混在することになるが、将来的にどのように活用されていくのか注目される。

21世紀初頭は原点回帰で屋外型主流

日本では1990年代以降、東京ドームの成功にならって、福岡市、大阪市、名古屋市、埼玉県所沢市、札幌市とドーム建設が相次いだ(所沢市は屋外型球場のドーム化)。しかし、21世紀に入ると流れは一変。オープンエアの環境で観戦を楽しもうという意識が広がった。

その代表格が仙台市に2005年から本拠を構えた新球団、東北楽天ゴールデンイーグルスのスタジアム(現名称・楽天モバイル最強パーク宮城)だろう。県営宮城球場を全面改装し、スタンドを増設してプロ球団を迎えた。広島東洋カープも2009年、JR広島駅近くに屋外型の新球場(MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島)を建設。メジャーリーグのボールパークの思想を取り入れ、国内でも数少ない「左右非対称」の天然芝球場を完成させた。

開放的な屋外球場のMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島(PIXTA)
開放的な屋外球場のMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島(PIXTA)

米国では1992年建設のボルチモア・オリオールズの球場(オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズ)が、れんが造りのクラシックな外観と開放的なフィールドが調和する「現代型ボールパーク」の先駆けとして世界的に高い評価を受けた。一方で世界初のドーム球場であるヒューストン・アストロドームが2005年に閉鎖になるなど、ドームの老朽化が各地で問題となっていた。

密閉されたドーム空間より、太陽の光や自然の風を感じられる球場で野球を楽しむ。そんな原点回帰的な考え方が日本の球場建設に与えた影響は少なくない。米大リーグでプレーする日本人選手が増え、本場のベースボールの魅力がテレビを通じて伝わったことも大きい。だが、気温上昇が続く中、夏場の観戦は厳しさを増している。屋外型の志向は今も根強いが、それよりも屋内型の施設建設により、選手・観客の安全性や快適性、興行の安定性を重視する声が高まってきたようだ。

甲子園は屋根拡大、高校野球も7回制検討

高校野球は7回制に短縮する案が議論されている。日本高校野球連盟の検討会議は、大会運営や選手、観客らの健康管理において、現在の9回制より7回制が有効だと結論づけ、2028年春の第100回選抜記念大会からの実施を促している。

とりわけ問題になるのは酷暑下の8月に阪神甲子園球場で行われる全国選手権大会だ。甲子園の老朽化が課題となった時期には、隣接地区にドーム球場を建設する案が浮上したこともある。しかし、歴史や伝統を踏まえ、現球場の改修で対処した。リニューアル工事や球場を覆うツタの植え替えが行われたのは、2007~10年のことだ。

検討会議の最終報告書では「甲子園は『聖地』とも呼ばれ、高校野球そのものを指す代名詞にもなっている(中略)歴史的、社会的な見地から、今後も甲子園球場において大会を開催することが望ましい」と指摘。ドーム球場での開催を求める世論も一部にある中、球児たちの目標である甲子園での開催継続を促す意見を付け加えた。

阪神甲子園球場での夏の全国高校野球大会開会式リハーサル。猛暑対策が課題になっている(時事)
阪神甲子園球場での夏の全国高校野球大会開会式リハーサル。猛暑対策が課題になっている(時事)

今後は内野席上部の「銀傘」を、応援団が陣取るアルプス席まで拡張する工事を予定。だが、甲子園の全面ドーム化は極めて困難とされる。阪神高速道路の高架がすぐ脇を通っているため、球場全体を覆う巨大な屋根を支える柱を建てるスペースがないからだ。ただし、7回制の導入だけですべての問題が解決するわけではないだろう。

ドーム球場や屋内型競技場の需要が高まる中、甲子園は伝統を守るために難しい判断を迫られている。

バナー写真:ドーム化の方向で再整備計画が進む千葉市のZOZOマリンスタジアム(PIXTA)

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