ホルムズ海峡は「国際海峡」と日本政府が初認定:その意義と含意
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国際海事機関が通航帯を設定
本年2月の米国とイスラエルによるイラン攻撃の影響でホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油タンカーなどが通航できないという状態が断続的に続いている。
ホルムズ海峡はペルシャ湾の出入口にある国際物流の要衝である。代替航路は少なく、日本のような原油や液化天然ガスなどのエネルギー輸入国は大きな影響を受ける(※1)。
ホルムズ海峡の沿岸国は北側がイランで、南側がオマーン(オマーンの飛び地であるムサンダム半島がホルムズ海峡に面している)である。ホルムズ海峡の最も狭い部分の幅は約21カイリで、イランとオマーンがそれぞれ12カイリの領海を設定すると、海峡の中央部に両国の領海主張が重複する海域が生じる。そこで、両国は海峡の中間線の北半分はイランの領海、南半分はオマーンの領海とみなしてきた。ホルムズ海峡を通航する船舶は国際海事機関(IMO)が設定した分離通航帯を通航することになるが、イランの領海が浅瀬であることもあり、海峡の中間線よりも南側のオマーンの領海に分離通航帯が設定されている。

国際海事機関がホルムズ海峡に設定している分離通航帯(国際海事機関HPより)
国際海峡と通過通航権
イランとオマーンはホルムズ海峡をそれぞれの領海にあたると主張しているものの、ホルムズ海峡は国連海洋法条約で通過通航権が認められるという意味での国際海峡にあたる。
国連海洋法条約では、公海と公海を結ぶ国際航行に使用されている海峡において、船舶(各国政府の軍艦・公用船舶を含む)が「継続的かつ迅速な通過」のために「航行および上空飛行の自由」を行使することができる通過通航権を認めている。国際海峡を通航する船舶は、一定の規則の遵守が義務付けられてはいるものの、通航の自由が保障され、普通の領海のように通航が無害であることは条件とされていない。国際海峡の沿岸国は、「通過通航を妨害してはならず」、通過通航を「停止してはならない」(国連海洋法条約44条)。国際海峡を通航するにあたり、沿岸国に事前に通告したり事前に許可を求めたりする必要はなく、沿岸国に通航料を支払う必要もない。
初めて「国際海峡」と主張した日本
日本政府は、ホルムズ海峡は通過通航権が認められるという意味での国際海峡にあたるか否かについて、これまでは、「十分な国家実行の集積」がないため「我が国として確定的なことを述べるのは困難」と述べて、明確な判断を示すのを回避してきた(2014年5月29日の参議院外交防衛委員会での外務省国際法局長答弁)。
しかし、本年5月13日の衆議院外務委員会で、茂木敏充外相は、「現に国際航行に使用されている海峡」であることや本年3月11日に国連安保理で採択された決議2817号で示された認識(ホルムズ海峡における「航行の権利及び自由」の尊重)を踏まえて、ホルムズ海峡は「国際法上、通過通航制度が適用される国際海峡に該当する」との判断を明確に示した。
その後、5月22日の衆議院外務委員会で、外務省国際法局長は、イランが国連海洋法条約を締結していないことを踏まえて(イランは1982年に署名したのみである)、「近年の国家実行の集積、学説の発展も踏まえますと、その国連海洋法条約に規定する通過通航制度の中核的内容につきましては慣習国際法化している」と述べた。
これは国際海峡の通過通航制度が国際慣習法化していることの認定であり、国連海洋法条約の非締約国であるイランも船舶の通過通航権を認めなければならないことの確認である(※2)。
また、同日、外務省国際法局長は、国際海峡の沿岸国による通航料の徴収の可否について、「国際法上、通過通航制度が適用される国際海峡におきまして、沿岸国は通行のみを理由として外国船舶に対して通航料を課すことは認められない」(太字は筆者による強調)との判断を示した。
これは国際海峡の沿岸国による通航のための費用の徴収は国際法違反との答弁であるが、現在、ホルムズ海峡を国際的に管理するための制度を構築しようとする動きもあることから、船舶の航行安全、航路管制、海難救助などのための費用の徴収であれば必ずしも国際法違反とはいえないという含みのある答弁である。
日本の海洋・安保政策に影響も
茂木外相らによる上記の国会答弁は、ホルムズ海峡が国際法上の国際海峡にあたることを認定し、同海峡への通過通航制度の適用を確認し、日本政府がイラン政府に対してホルムズ海峡における「通航の自由の保障(通航の妨害は不可)」、「通航の停止は不可」や「通航料の徴収は不可」などを主張する上での法的根拠を整えたのものといえる。
日本のエネルギー輸入にとってのホルムズ海峡の重要性を踏まえると、上記のような主張を法的根拠のある形で行えるようになることは日本の利益にかなう。他方で、視点をホルムズ海峡から日本の海域に変えると、今回のホルムズ海峡の国際海峡認定は日本の海洋政策や安全保障政策にとって相当な重みのある判断ともいえる。
日本政府はホルムズ海峡の事実上の封鎖という事態に接し、エネルギーの安定供給に重きをおきつつも、国際海峡に関係するさまざまな案件を広く総合的に検討し、今回のホルムズ海峡の国際海峡認定に至ったものと思われる。
以下では、今回の国際海峡認定の日本の安全保障政策にとっての含意として、紙幅の都合から国際海峡認定の判断基準に絞って述べる。
地理的基準と使用実績が基準
茂木外相が国際海峡認定の判断基準としてあげたのは、「ホルムズ海峡は、オマーン湾の公海又は排他的経済水域とペルシャ湾の公海又は排他的経済水域との間に位置」するという地理的基準と「国際公共財として、世界の物流の要衝として、現に国際航行に使用されている」という使用実績の2つの基準である。
これら2つの判断基準は、国際司法裁判所(ICJ)が 1949年4月9日に示した「コルフ海峡事件」の本案判決に由来する。ICJは、ある国の領海にあたるが普通の領海よりも船舶の通航権が強く保障される海域(国際海峡)に該当するか否かを、公海と公海を結ぶという地理的基準とそれが国際航行に「使用されている」という事実(使用頻度ではなく一定の通航量があるという使用実績)に基づいて判断した。
国際海峡に該当するか否かの判断基準は、49年のICJコルフ海峡事件判決によって整理され、ICJ判決で示された整理が58年採択の領海条約の規定に反映され、その後82年採択の国連海洋法条約の規定に引き継がれている。
日本にはもっとも狭い部分の幅が24カイリ未満の海峡が多数存在する。例えば、鹿児島県の屋久島と口之島の間のトカラ海峡(幅22カイリ)、悪石島と小宝島の間(幅18カイリ)、徳之島と沖永良部島の間(幅18カイリ)である。
日本政府がホルムズ海峡の国際海峡認定をするために用いた基準は、前述の通り、国際法上、一般性を有する基準であり、日本における国際海峡の有無の判断にも適用される基準である。しかし、日本政府はこれまでその適用とその結果としての国際海峡の有無の判断をあいまいにしてきた。
中国軍艦船によるトカラ海峡の航行
トカラ海峡は黒潮の流れに位置する。黒潮は、台湾と日本の最西端に位置する与那国島の間の海域を流れて東シナ海に入り、東シナ海を大陸棚斜面に沿って北東方向に流れ、トカラ海峡を通って太平洋に出て、日本の南岸を東に流れる。黒潮は、流れが速く、流量が多く、幅と厚さが広く、水深が深い。トカラ海峡は東シナ海と太平洋を結ぶ他の海峡、たとえば宮古海峡や「特定海域」(※2参照)の一つである大隅海峡よりも潜水艦の潜没航行に適している。
2016年6月以降、中国人民解放軍海軍の艦船(情報収集艦や測量艦等)は、日本の領海にあたるトカラ海峡を複数回にわたり航行している。中国政府は、トカラ海峡は国際航行に使用されている海峡で、国際法上、通過通航制度が適用される国際海峡に該当すると主張している。
仮にこのような主張が認められることになれば、トカラ海峡で潜水艦は潜没したままの航行が法的に許されることになる。この解釈は、国連海洋法条約は領海を航行する潜水艦には浮上航行義務を課しているが(同条約20条)、国際海峡については同様の義務を規定していないことから導くことができる。また、国際海峡の上空で航空機は自由に飛行できる。国際海峡の上空は沿岸国の領空であるが、飛行しても普通の領空のように領空侵犯行為とはならない。
バナー写真:オマーンの港町ハサブに近いホルムズ海峡に停泊する船舶=2026年5月17日(AFP=時事)
(※1) ^ 日本の原油の輸入元のうち、中東地域からの輸入が2024年度は95.9%を占めている。国別では、輸入量の多い順に、アラブ首長国連邦(UAE)(2024年度の全輸入量の43.6%)、サウジアラビア(同40.1%)、クウェート(同6.4%)、カタール(同4.1%)である(石油連盟のデータより)。日本の原油の最多の輸入元はUAEで、日本に向かうにはホルムズ海峡を通航することになるジュベル・アリ港やハリーファ港からの積み出しが多い。
(※2) ^ 日本は、津軽海峡や大隅海峡などの海峡で領海を(12カイリとするのではなく)3カイリにとどめ、海峡の中央部に公海を残す「特定海域」とすることで、通過通航制度の適用を回避している。その理由について、日本政府は、通過通航制度に係る各国の実行の集積が不十分であると述べたことがある。今回の通過通航制度の国際慣習法性の認定は、日本が特定海域を維持することの正当化にも関わる重みのある判断である。