AIが変える日本の安全保障:パランティア活用と同時に、独自システム開発を―自民党の平将明氏に聞く

政治・外交

技術革新が急速に進み、各国の安全保障政策にも影響を与えるほどになった人工知能(AI)。政府のこの分野への関与はどうあるべきなのか。デジタル相、サイバー安全保障担当相を務めた自民党の平将明氏に、nippon.comの竹中治堅・編集企画委員長がインタビューした。

平 将明 TAIRA Masaaki

衆院議員、自民党国家サイバーセキュリティ戦略本部長。1967年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業。会社員、家業の青果仲卸社長などを経て、2005年の衆院選に出馬し初当選。当選8回。デジタル相、サイバー安全保障担当相などを歴任。

国家基盤としてのAI

──ことし6月に公開された米アンソロピック社の新型AI「フェイブル5」、「ミュソス5」の一時停止を、米政府が「国家安全保障上の懸念」を理由に命じたことは、世界的にも衝撃的な出来事だった。サイバー攻撃の高度化懸念とともに、衛星画像の解析や軍事行動のシミュレーションなど安全保障政策にもAI の重要度が増している。

平氏 ホルムズ海峡が閉鎖されて原油が止まっても、数カ月間は持ちこたえられる。しかし、米国政府がフェイブル5を止めろと言ったら、その瞬間に止まってしまう。最先端AIモデルというのは、安全保障そのものとなった。そういう世界が来たという認識を前提に、どうやってリスク分散するか、どうやって自立性を担保するかをしっかり考えなければいけない。

──その「自立性の担保」に向け、日本も外国企業のAIに依存せず、自国でAIを作る「ソブリンAI」を目指すべきだという意見がある。一方、自民党が5月に発表した提言(AI ホワイトペーパー2.0)は、「AI駆動型国家への構造転換」というタイトルが付き、全面的な国産AIを目指すのではなく、日本の強い分野に注力すべきだと指摘している。この考え方について詳しく教えてほしい。

平氏 「国産AI」は、多くの政治家が好ましいと思っている。しかし、結果として動いているAIモデルの構成をみると、GPU、CPUなどの半導体、その根っこにあるレアメタル、レアアース、またデータセンター、クラウド、ファウンデーションモデル、アプリケーション などがある。だから、何をもって国産というのか、冷静に認識する必要がある。

その上で、他国にチョークポイントを押さえられないようにすることにリソースを割くべきだ、ということを主張している。全て国産でやろうと考える人たちに、その部分はきちんと考えてほしいというメッセージを出したかった。もう一つは、私が言いたいのは、グーグルのGeminiを代表とする巨大なファウンデーションモデルに、日本勢が正面から戦ってもなかなか勝機は見いだせないということだ。

それ以外のところで、日本が深く不可欠性を握っていくとか、安全保障上大事なものは日本のものでやるとか、そういう選択肢は当然ある。なので、日本の戦略としてはLLM(大規模言語モデル、Large Language Models)ではなく、VLA(Vision Language Action)というロボットやドローン、自動運転などに使われるフィジカルAI向け のファウンデーションモデルを官民で一生懸命やろうと。それと合わせてバーティカルAIという医療など専門領域に特化したAI。これは、いまウェブ上に載ってないデータ、センサーから上がってくるデータを扱うので、日本に強みがある分野と考えている。

インタビューに答える平将明氏(ニッポンドットコム編集部撮影)
インタビューに答える平将明氏(ニッポンドットコム編集部撮影)

「和製パランティア」に挑戦を

平氏 防衛分野で日本はパランティア(編集部注:米軍も導入しているデータ解析・AI基盤大手「パランティア・テクノロジーズ」)を使うのか。日米で共同作戦をするわけだから使う必要はあると思うが、パランティアの一本足ではだめだと思っている。そこは、できるだけ国産の「和製パランティア」みたいなAI 構築に挑戦する必要がある。これは安全保障分野に特化したAIだから、巨大な汎用型のLLMを作る話ではない。

安全保障とかインテリジェンスとかの分野は、決して国産を諦めてはない。それは分けて考えていて、勝てないところにわざわざ勝負は仕掛けないけれど、日本の勝ち筋っていうのはいくつかあるので、そこは攻めていく。

いま「リバース・インフォメーション・パラドックス」(逆情報パラドックス)という言葉が注目されている。汎用型の生成AIに多額の使用料を払っているのに、安全性の理由などでデータの使用はむしろ制限される。その上、自らの持っているデータは取られている。こんなのあり得ないだろうと。だから、これからは最先端モデルの汎用AIを何でもかんでも使うのではなく、一部ではクローズな環境で使えるモデルを使おうとか、国産のモデルを使おうといった役割分担が出てくる。専門分野に特化したバーティカルAIの需要が高まれば、日本の出番がある。

防衛分野の話に戻ると、日本の護衛艦をオーストラリアが導入したり、ニュージーランドやフィリピンから引き合いが来たりしている。「和製パランティア」のスペックが多少落ちるとしても、日本のAIは情報の流出がなく安全だとなれば、世界に需要はあるのではと思う。

スタートアップ企業と連携

──ウクライナやイランで、ドローンを使った戦闘が注目されている。目標に接近して無線で妨害されることがあっても、AIを使った画像認証を使って自力で誘導・飛行できるという。AIの軍事利用において、日本が独自に実装可能な領域はあるか。

平氏 軍事分野は全く知見がなく、お答えできない。ただ、小泉進次郎防衛相は、自律型ドローン、ロボットの導入を積極的に推進しており、AI 関連のスタートアップ企業との連携に努めていると言える。 今までは、防衛省が調達をするメーカーというのは大企業ばかりで、スタートアップや中小企業はその下請けとして存在していた。しかし小泉防衛相は、新しいアイデアを持つ企業と防衛省が直接意見を交わすことができるというエコシステムを作ろうと、熱心に取り組んでいると思う。

平将明氏(左)と竹中治堅・ニッポンドットコム編集企画委員長(編集部撮影)
平将明氏(左)と竹中治堅・ニッポンドットコム編集企画委員長(編集部撮影)

サイバー防御政策を大転換

──能動的サイバー防御関連法を昨年、サイバー安全保障担当大臣として成立させている。この法律を制定することになった経緯を伺いたい。

平氏 ウクライナ戦争をみてもサイバー空間での激しいせめぎ合いがある。ロシアが侵攻に先立ち、ウクライナの鉄道会社のサーバーに侵入して、その侵入した痕跡を消し、いつでも乗っ取れる状態にあったと言われている。英国や米国などがサポートする中でその痕跡を見つけて、無害化した。未然に防げたことで、ウクライナの人たちは鉄道を使って隣国に避難することができた。

日本でも2023年に名古屋港の物流が止まるというサイバー攻撃があった。ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)犯罪だと思われていたが、よく調べたら、外国の意図を受けたハッカーによるものだと指摘されている。その後も航空会社、金融機関などへのさまざまな攻撃が続いている。今回の法律改正は、日本のこれまでの法律体系を考えるとチャレンジングなもので、事前にサイバー攻撃をするサーバーを特定して、無害化する措置を警察や自衛隊が取ることができるというものだ。

この法律ができたことで、通信情報の利用分析ができるようになった。通信の秘密があるので、コミュニケーションの中身は一切見ない。文字列やコマンドという機械的な情報を分析して、どういう攻撃者か、どういうサーバーから送信があるかというのを探る。怪しい情報かどうかは、同盟国、同志国によるハッカー集団による通信の断片情報や、その分析などが手掛かりになる。

無害化措置というのは、例えば電力会社の重要なサーバーがあり、このサーバーを守らなければいけないとする。そこに怪しい機械的情報があり、いろいろ工作されていたことが分かった場合、このサーバーが世界のどこにあったとしても、自衛隊や警察がアクセスして設定を変えるなりソフトを消すなどして、サイバー攻撃を不可能にする。

無害化措置は警察権の行使

──日本の電力や空港、鉄道など基幹インフラが危険な状態にあると判断した場合、能動的サイバー防御関連法では、それを防ぐための事実上の先制攻撃はできるということか。警察権の行使として整理することは、現行法制上可能か。

平氏 先制攻撃にはならないと考えているし、そもそも武力の行使ではない。基幹インフラのシステムに忍び込み、痕跡を消していつでも乗っ取れる状態にする手法を「リビング・オフ・ザ・ランド(Living off the Land)攻撃」と言うが、これがかなりサイバー攻撃の主流となっている。何か起きたら対処するというこれまでの考え方では、この危機は対応できない。犯行の痕跡を見つけたら、無害化しておかないと大変なことになるので、この対処は警察権の行使と考えている。

──相当高い技術が必要だと思うが、現状で警察や自衛隊の能力についてはどのようなレベルにあると考えるか。

平氏 これからまさに能力構築をしていく段階で、同盟国同志国やテック企業などと連携をしながら進めていくということだと思っている。

大事なポイントとしては、外国から日本を経由して外国に行く通信について、日本は独自にそういった機械的情報を読み取り、分析できるようになったことだ。それは同盟国にとっても非常に大きい価値がある。日本は東アジアのコネクタハブなので、インテリジェンスの世界観でいうと大事な場所。通信情報を活用した安全保障の同盟「ファイブ・アイズ」(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)に加え、地理的にも補完的な位置にある日本が能動的サイバー防御をできる立場になったことは、きわめて大きな意味を持っている。

(インタビューは2026年8月3日に行った)

まとめ:nippon.com編集部・石井雅仁

バナー写真:名古屋市の産業用ドローンの工場を視察する小泉防衛相(左)=2026年5月20日(共同)

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