中国車が輸出攻勢、日本と熾烈な競争:異業種ファーウェイが「クルマの知能化」で先行も

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中国の自動車輸出台数は日本を抜き、ここ数年世界一の座を維持している。品質も向上させている。さらにテック大手ファーウェイが自動車産業に参入、自動運転など「クルマの知能化」で世界に先行する可能性を秘めている。今後、世界市場で日中の競争は激化しそうだ。現地で取材したジャーナリストの井上久男氏が中国の現状を解説する。

日本を抜き世界一の自動車輸出大国

共同通信の報道によれば、米国のトランプ大統領は2026年9月の米FOXニュースとのインタビューで、中国の自動車メーカーの米国進出は、現地生産するのであれば、問題視しないと発言した。米国での雇用拡大に貢献するなら中国車の米国内での生産を認める考えとも取れる。

世界第2位の自動車市場である米国は、トヨタ自動車やホンダ、日産自動車、マツダ、スバルなどが収益源とする日本勢のドル箱市場だが、このトランプ氏の発言通りになれば、中国車との熾烈(しれつ)な競争が始まることになるだろう。

中国の自動車メーカーは北米市場を喉から手が出るほど欲している。それには理由がある。

中国では25年に3440万台の新車が売れた世界1位の自動車市場ではあるが、経済成長の鈍化とともに伸び悩んでおり、26年1-7月の新車販売は前年同期比3.7%減の1760万台だった。新車販売1760万台のうち電気自動車(EV)を中心とする新エネルギー車(NEV)は9.6%増の900万台だったが、国内では値引き販売競争が激化しており、収益性も低下しているとみられる。そこで中国勢の自動車メーカーは、海外市場に目を付け、輸出や現地生産を強化している。

一方、中国からの自動車輸出は23年に491万台となり、日本を追い越して初の世界1位の自動車輸出大国となって以来、3年連続でその地位を維持している。今年も7月までで前年同期比66.8%増の614万台と、既に前年実績を上回っており、4年連続の首位は確実だ。日本の自動車メーカーは世界各地での現地生産化を進めてきた影響もあり、輸出では中国に追い抜かれた。特に中国が輸出攻勢をかける東南アジアや欧州、オーストラリア市場でのつばぜり合いが激しくなっている。

日中の自動車輸出台数の推移

中国EVの輸出先は米国以外のほぼ全世界にわたっている。日本で26年7月に発売されたBYDの軽自動車EV「ラッコ」も中国内で製造された輸入車だ。その仕様やデザインを見ても日本メーカーの軽自動車と遜色ない。販売会社であるBYDオートジャパンは9月、同社の8月の受注台数が単月としては過去最高の1260台になったと発表した。「ラッコ」が受注増をけん引した。

中国のBYDが日本で発売したEV軽自動車「RACCO(ラッコ)」(時事)
中国のBYDが日本で発売したEV軽自動車「RACCO(ラッコ)」(時事)

日本に学び高い品質

中国車の輸出が増えているのは、中国内での販売不振だけが理由ではなく、「中国の部品メーカーや設備メーカーが力を付けたため、自動車の品質が向上している」と、中国に駐在する日系の設備メーカー役員は指摘する。

筆者は今年7月、中国に視察に出向き、安徽省内や上海の自動車関連企業などを訪れた。現在、上海ではトヨタが「レクサス」のEV新工場を建設中だった。2027年から生産が始まる。

前出設備メーカー役員がこう説明した。「トヨタのレクサスEV新工場はテスラの上海工場などをベンチマークして世界最先端のスマートファクトリーになる。しかし、日系企業ではなく、中国企業の設備や部品を多く使っている」

たとえば、業界ではテスラが軽量化のために一番先に取り入れた車体の一部をアルミ合金の鋳造で造る「ギガキャスト」の生産設備も中国企業のものを使うという。トヨタ内にも「今や日本の下請け企業は、中国の部品・設備メーカーにコスト低減力と開発のスピードでは太刀打ちできない」といった指摘がある。

奇瑞汽車はロボット開発にも力を入れている。本社の受付のホールではロボットが出迎えた 提供:井上久男氏
奇瑞汽車はロボット開発にも力を入れている。本社の受付のホールではロボットが出迎えた 提供:井上久男氏

その中国自動車メーカーの中で、最も輸出台数が多いのが奇瑞汽車だ。安徽省蕪湖市が出資する地方政府系の企業である。筆者は7月21日、奇瑞汽車の本社も訪問した。その際、尹同躍董事長(会長)は「われわれが中国最大の輸出自動車会社になれたのは、創業以来、トヨタのモノづくりを学んできたからだ」などと述べ、今後はカナダやインドネシアで現地販売・生産を強化していく考えを示した。

奇瑞汽車は日本企業との連携も強化していく方針で、26年5月、車用品販売大手のオートバックスセブンなどと合弁会社を設立し、27年から中国製EVをオートバックスの店舗で販売する計画を発表している。

同社は日産との関係も強化。26年1月、南アフリカにあるピックアップトラックを製造している日産の工場を買い取ることを決めた。日産は現在進めているリストラ計画の中で世界にある17完成車工場のうち7工場を閉鎖することを決めているが、南ア工場はその一つだ。

さらに日産は6月、英国工場で奇瑞車の生産を検討すると発表した。英国工場の生産能力が余っており、他社の車を生産することで稼働率を高める狙いがある。国際化を進めたい奇瑞と思惑が一致した形だが、日本の自動車産業の中には「いずれ日本車の脅威となる中国の自動車メーカーに協力し過ぎると墓穴を掘りかねない」との見方も出ている。

奇瑞汽車の尹董事長 提供:井上久男氏
奇瑞汽車の尹董事長 提供:井上久男氏

ファーウェイが車の「頭脳」開発

今回の訪中で驚いたことがまだある。世界的なテック大手、中国のファーウェイの最大の研究拠点と言われる上海の「練秋湖研究開発センター」を訪れたが、いま自動車産業で大きな変革を起こそうとしていた。

通信機器を主力としてきた同社は2023年頃から自動車事業を本格化させ、自動運転などのインテリジェントント・ドライビングシステム、車内におけるAIによる音声操作などのインテリジェント・コックピットシステムなどに力を入れている。車載OSは、ファーウェイのスマートフォンで採用している「ハーモニーOS」をベースに開発したものを使う。

トヨタも26年3月から中国市場限定のEV「bZ7」にファーウェイの車載OSを採用した。「今や中国ではファーウェイのコックピットシステムを入れないと、若い消費者に評価されない」(ホンダ幹部)と見る向きもある。

トヨタは米国市場も重視している。経済安全保障対策上、ファーウェイの技術を採用した車は米国では販売できない。このため、社内デカップリング(分離)を進め、トヨタの米中の開発部門が直接連絡を取れないような社内ルールも構築しているという。

自動車メーカーの上に立つファーウェイ

ここからが構造的変化の大きなポイントだ。ファーウェイは自社で自動車は生産しない。上海汽車、北京汽車、江淮汽車など5つの自動車メーカーに生産を委託している。5社ごとにブランドは存在し、そのプロジェクトは「HIMA(Harmony Intelligent Mobility Alliance)」と呼ばれるが、協業とは言いながらも、実態は自動車メーカーがファーウェイの下請けと化している。

ファーウェイが企画開発を主導し、自社の知能化に関する付加価値の高い部品やシステムを自動車メーカーに採用させ、生産は自動車メーカーに委託し、販売はファーウェイがスマートフォンなどと同じ店舗で売るというスキームだ。

自動車産業では、ブランドを保有する自動車メーカーが「ティアゼロ」としてサプライチェーンの頂点に位置し、その下に「ティア1(1次下請け)」「ティア2(2次下請け)」といった協力企業が階層的に連なる。しかし、ファーウェイの立ち位置は、自動車メーカーの上に立つ「ティアマイナス1」と見て取れる。これまでの産業構造であれば、ファーウェイは自動車メーカーにシステムを納める「ティア1」だったはずだが、現状のスキームでは「主客転倒現象」が起きているようだ。

自動車産業の構造変化

この構図は、米アップルがスマートフォンを企画開発して、製造は台湾の鴻海精密工業などに委託するビジネスモデルに似ている。このモデルだと、付加価値の大きさは製造よりも企画開発側にある。

ファーウェイの25年の売上高は8809億元(約20兆7892億円)で、そのうち自動車事業は450億元(約1兆620億円)と全体に占める比率は5%とまだそれほど高くないが、前年比で72%も伸びた。成長率は同社の事業の中では最大だ。25年の中国におけるNEV販売台数でも1位のBYDが前年比6.3%減の349万台だったのに対し、HIMAは32.3%増の約59万台となり、6位に付けた。

「プロジェクト・タイタン」。かつて米アップルが自動車事業への参入を検討していた際の極秘プロジェクトの名称だ。24年に中止となったことが報じられた。アップルは、付加価値の高い車の頭脳となるソフトウエア開発は自社で担ってアップルらしい移動体験ができる自動運転車の企画・開発を行い、車体製造は既存の自動車メーカーに委託すると見られた。

アップルがこのようなビジネスに打って出ていれば、自動車産業における覇権を自動車メーカーから奪っていた可能性がある。そうしたアップルの「野望」を実行段階に移したのが、ファーウェイと言ってもいいのではないか。

バナー写真:ファーウェイ主導のプロジェクト「HIMA」の最高級車「尊界S800」。安徽省にある江淮汽車が生産を受託している(提供:井上久男氏)

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