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現代にも続く藤原氏の権勢―佐藤、伊藤、加藤上位に:日本人に多い名字ベスト10(後編:4〜10位)

家族・家庭 文化 歴史

高校時代の卒業アルバムを開けば…クラスの集合写真の右隣は佐藤くん、左隣は加藤さん。中央に立つ担任は伊藤先生。振り返ってみると、「藤」の字を持つ藤原氏の流れをくむ人が多かったようだ。日本人に多い名字ベスト10の後編、4〜10位をみていこう。

日本人に多い名字(前編 : 1~3位)はこちら

順位 名字 総数(万人)
4 田中 135
5 渡辺(渡邊など含む) 115
6 伊藤 110
7 山本 109
8 中村 107
9 小林 104
10 加藤 87

第4位 : 田中

歴史は古く、『古事記』にも記載されている名字である。

天照大神(あまてらすおおみかみ)と須佐之男命(すさのおのみこと)の誓約によって生まれた5人の男神の1人、天津日子根命(あまつひこねのみこと)の後裔に「倭田中直」(やまとのたなかのあたい)の名がある。歴史上、初出の田中だ。

『古事記』はあくまで神話であり、実際の田中は読んで字のごとく「田んぼの中」、つまり日本の稲作文化から、自然発生的に誕生した名字と考えられる。西日本に多いのは、大陸から渡来した稲作が九州に上陸し、西日本から広まっていったからだと考えられる。

須佐之男命が天照大神の勾玉を嚙み砕くと五柱の神が生まれた。「倭田中直」は、その五柱のひとりの子孫とされる。(国立公文書館所蔵)
須佐之男命が天照大神の勾玉を嚙み砕くと五柱の神が生まれた。「倭田中直」は、その五柱のひとりの子孫とされる。(国立公文書館所蔵)

第5位 : 渡辺(渡邊などを含む)

第52代嵯峨天皇の皇子・源融(みなもとのとおる)の玄孫・源綱(みなもとのつな)が渡辺津(大阪府大阪市)に移住し、渡辺綱(わたなべのつな)を名乗った。渡辺の始祖である。

渡辺綱は源頼光の配下となる。武芸に長けた豪傑だったらしく、それがもとになって、頼光とともに大江山(京都府北部)に住む鬼・酒呑童子(しゅてんどうじ)を退治するという伝説が生まれる。この説話は『御伽草紙』などに載り、広く知られることになった。

大江山の酒呑童子の手下と戦う、源頼光と勇士たち。その中に渡辺綱がいた。『源頼光大江山鬼退治』(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)
大江山の酒呑童子の手下と戦う、源頼光と勇士たち。その中に渡辺綱がいた。『源頼光大江山鬼退治』(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)

渡辺綱の子孫たちが武士団・渡辺党を組織し、1180〜1185(治承4〜元歴2)年の源平合戦では源氏方として源義経を支援したという。拠点とした渡辺津の「津」は港のことで、つまり臨海部を支配した水軍だったと考えられ、このため群馬や長野など内陸部に少ない名字である。

第6位 : 伊藤

「藤」が付くのは、第1位の「佐藤」と同じく、藤原氏の流れをくむため。藤原北家の(藤原)秀郷の支流に当たる尾藤基景(びとうもとかげ)が伊勢国(三重県)に移り住んだことから、「伊」と「藤」が合わさって伊藤になったという。

伊藤氏は平家に仕えたが、源平合戦で敗北すると尾張国(愛知県)、美濃国(岐阜県)に散らばった。今も三重・愛知・岐阜県に多い。

藤原(伊藤)景清は悪七兵衛(あくしちびょうえ)と呼ばれた勇猛な武士で、源平合戦でも活躍。この人物は、伊藤の祖・尾藤基景の末裔。『武将豪傑錦絵帖 悪七兵衛景清』(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)
藤原(伊藤)景清は悪七兵衛(あくしちびょうえ)と呼ばれた勇猛な武士で、源平合戦でも活躍。この人物は、伊藤の祖・尾藤基景の末裔。『武将豪傑錦絵帖 悪七兵衛景清』(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)

第7位 : 山本

「山の麓」から来ている。日本は国土の7割が山地と丘陵地帯のため、全国各地にまんべんなく存在する。

第8位 : 中村

村落の中心地が「中村」と呼ばれ、そこに住む人々が名字にしたというのが定説。「田んぼの中」一帯が田中であっても、その中心には中村がいたと考えていい。中心にいた者だけに、武士の家系が多いのが特徴だ。

第9位 : 小林

「小さな林」が起源の地形由来の名字。
群馬県藤岡市小林には鎌倉時代、桓武平氏の流れを汲む武士団・小林党が勢力を誇っており、関東の小林の源流となった可能性が指摘されている。 この他、長野県飯田市、千葉県茂原市などにも小林の地名があり、いずれも小林の名字を持つ豪族が支配したと考えられる。

第10位 : 加藤

藤原北家出身の藤原景通(ふじわらの・かげみち)が始祖。奥州(東北)を舞台とした前九年の役(1051 / 永承6年〜1062 / 康平5年)で戦功をあげた景通が、加賀国(石川県)の高官・加賀介に任じられ、「加賀の藤原」となり、転じて加藤となった。子孫が美濃に移ってさらに東へ拡大し、現在は発祥地の石川より中部・関東・東北に多い。

〔参考文献〕

ベスト10のランキングと本文は『決定版 面白いほどよくわかる! 家紋と名字』(家紋監修 / 高澤等、名字監修 / 森岡浩、西東社)をもとにした。また、各名字の総数は『日本人の名字』による。

バナー写真 : PIXTA

名前 源氏 名字