意外に知らない「ニッポン入門」

月見

旅と暮らし 文化

日本には古くから満月を鑑賞する習慣がある。特に秋は、空気が澄み、満月が適度な高さに位置して美しく見える。全国各地では、観月やそれに付随するイベントが行われる。

自然の恵みに感謝する

秋になると、団子やススキを供え、米など農作物の収穫への感謝と豊作への祈りを込めて月をめでる。毎月旧暦の15日は満月で、特に8月15日(新暦の9月)の月を鑑賞することを「十五夜の月見」という。2019年の「十五夜」は、9月13日だ。 

旧暦は、月の満ち欠けを基に1カ月を定めていた古い暦で、1872年まで使われていた。旧暦では7~9月を秋としており、8月15日はその真ん中に当たるので「中秋(ちゅうしゅう)」という。中秋の頃は、北半球では観月に最も適した位置に満月が出て、空気が澄んで美しく見えるため、十五夜を特別に「中秋の名月」と呼ぶ。 

中国では唐の時代(618~907年)から、旧暦の8月15日の夜に満月を眺める風習があり、それが日本に伝わった。奈良時代(710~794年)や平安時代(794~1185年)には貴族が月見の宴(うたげ)を開き、楽器を演奏したり、歌を詠んだりしていた。江戸時代(1603~1868年)になると、この風習が庶民にも広まった。新米などの作物を供える秋祭りと十五夜が結び付いて、豊かな実りを感謝する行事になった。

「月見」後醍醐(ごだいご)天皇(1288-1339年)が吉野の皇居で催した宴(うたげ)のようす。月を眺め賞する風習は、古くから上流階級の間で行われていた。楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)画『吉野皇居月見御筵之図(ぎょえんのず) 』©国立国会図書館デジタル
「月見」後醍醐(ごだいご)天皇(1288-1339年)が吉野の皇居で催した宴(うたげ)のようす。月を眺め賞する風習は、古くから上流階級の間で行われていた。楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)画『吉野皇居月見御筵之図(ぎょえんのず) 』©国立国会図書館デジタル

月見飾り

縁側や窓など月見をする場所を月見台といい、そこに米で作った月見団子やサトイモなどを供え、ススキを飾って月が出るのを待つ。この月見飾りと呼ばれるお供え物は、地域によって異なる。茶道や華道でも特別なしつらえをする。

1)月見団子

地方によっていろいろあるが、 一般的には丸くする。形が月に似ているところから丸い団子が定着した。丸は縁起が良く、団子を食べると健康で幸せになれると考えられていた。団子の数は十五夜にちなんだ15個または1年の月数に合わせた12個などがある。供えた後は、おいしく食べる。

月見団子
月見団子

2)ススキ

5本または10本のススキを飾る。稲穂に似た形は穀物の実りを表していると考えられている。

満月とススキ
満月とススキ

3)サトイモ

サトイモは一つの株から子株がたくさん増えることから、子孫繁栄の縁起物として供える

4)秋の作物

豊作を感謝して秋に収穫したエダマメ、栗、カボチャなどを供える。

月でもちをつくウサギ
月でもちをつくウサギ

月にみえる影を日本では「月でウサギが餅をついている」と言う。月にウサギがいるとされた仏教の説話が伝わったことに由来する。また満月を望月(もちづき=餅をつく)という説もある。

「月見」は、卵黄を月に見立てた卵を使った料理のネーミングとして使われることも多い。月見バーガー、月見そば、月見カレー、月見ラーメンなどがその例だ。

月見うどん
月見うどん

季節限定の月見イベント

9月末から11月初頭にかけて、神社仏閣や庭園、商業施設などで中秋の名月にちなんだイベントが開催され、ひと味違った秋の月見を楽しむことができる。

1. 東京タワー(9月十五夜の当日)

特別な月を主役にしたライトアップと「月見階段ウオーク」というイベントが行われる。通常の夜は閉まっている東京タワーの約600段の外階段が、午後10時まで開放され、メインデッキまで歩いて上ることができる。

地上150メートルのお月見  東京タワーでは、中秋の名月を楽しんでもらおうと、地上150メートルの大展望台のフロアにススキと月見団子を飾り、観光客らを迎える(時事)
地上150メートルのお月見  東京タワーでは、中秋の名月を楽しんでもらおうと、地上150メートルの大展望台のフロアにススキと月見団子を飾り、観光客らを迎える(時事)

2. 姫路城(9月十五夜前後)

世界文化遺産、国宝である姫路城(兵庫県姫路市)では、中秋の名月をめでる観月会が開催される。和太鼓演奏などの郷土芸能の披露、姫路おでんや地酒、月見団子などの販売があり、お茶席も設けられる。望遠鏡を使った月の観測コーナーもある。

3. 東京スカイツリー(9~10月)

東京スカイツリーから月を鑑賞するイベント。ジャズライブなども行われる。

4. 三渓園の観月会(9月)

神奈川県横浜市にある三渓園では、中秋の名月に合わせて観月会が開催される。開館時間が延長され、三重塔など園内の古建築がライトアップされる。また、元は紀州徳川家の別荘だった「臨春閣」では、日替わりで音楽や舞踊のイベントが催される。

5. 伊勢神宮(9月十五夜の当日)

三重県伊勢市にある伊勢神宮では外宮(げくう)また池奉納舞台で、「神宮観月会」を開催している。全国から応募された短歌と俳句の秀作を、神宮の楽師が古式により読み上げた後、節をつけて歌う(披講という)。また、管弦と舞楽が演奏される。

バナー写真:YsPhoto / PIXTA 満月の夜に月見団子とススキを飾る 

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