「常識を覆す品ぞろえ」かっぱ橋道具街・飯田屋で訪日観光客が発見する“日本らしさ”とは
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「プロの街」に訪日客が急増
東京屈指の観光地・浅草と上野の間に位置する「かっぱ橋道具街」(以下、かっぱ橋)。900メートル続く大通りの両側に、170近くの“食にまつわる専門店”が連なる。その中ほどで角地に立つ「飯田屋」は大正元年(1921年)創業の、料理道具専門店だ。
6代目社長・飯田結太さんの店づくりは、常識からかけ離れている。展示会や見本市に積極的に足を運び、新製品を実際に試したうえで「お客様の喜ぶ顔」が浮かぶと仕入れを即決。店内の天井から足元まで、所狭しと並んだキッチングッズは8500種類以上もある。例えば、おろし金だけでも250種類というが「まだまだ足りません」。

おろし器コーナー。黄色いPOPには商品それぞれの特長が書かれている
スタッフは、客の「こんな商品があればいいのに」といった要望を聞き漏らさず、どんなにニッチなつぶやきも備え付けのノートにメモする。客の声を元に仕入れた物は、必ず売れる。「欲しい人がいる限り応えたい」との一心で、品ぞろえを増やしてきた。市場になければメーカーに協力を仰ぎ、自ら開発。使い手の発想で作られたオリジナル商品は、今や店の看板アイテムとなった。
そんな飯田屋のあるかっぱ橋に今、訪日客が押し寄せている。飯田さんによれば、かつては「完全にプロ向け」の街だった。15年ほど前からメディアで“台所用品の聖地”として取り上げられ、料理好きの主婦ら一般人が訪れるように。それでも外国人旅行者は珍しかった。
「10年前でも、免税手続きを頼まれるのは年に1回あるかないかでした。その頃は中国、韓国、台湾など近いところからのお客さんでしたね」。飲食店のショーケースに置く食品サンプルが、訪日観光客にもてはやされた時代もあった。今は、食器店や菓子道具店、包丁店などいずれもにぎわい、街全体が観光地化している。「訪日客は、コロナ禍を経て急増した印象です。フランスやスペイン、アメリカなど欧米諸国や、オーストラリア、ブラジルからも多い。近年は中東系、東南アジア系の人も増えています」
日本の料理道具はここが違う!
浅草観光ついでに足を延ばす人も多いが、数年前から「特定の商品を名指しで買いに来る」客が明らかに増えたという。というのも、店内は撮影自由。商品が並ぶ棚や買い物の様子を、訪日客がSNSで拡散していたのだ。中にはインフルエンサーもいて、投稿を見たフォロワーが来店する。「今はSNSの影響が圧倒的に大きいですね。海外で放映された日本の映画やテレビ番組を見て『あの場面で登場したまな板はあるか』と聞かれることも。皆さんよくご存じで、こちらが驚かされます」
とはいえ和食専用ならいざ知らず、海外にも似たようなキッチングッズはあるはず。同じ用途の道具をすでに持っている人も多いのでは。なぜわざわざ、日本で買うのか。
「一つには、“メイド・イン・ジャパン”ならではの品質の良さ。日本製はやはり、壊れにくく優秀です」
もう一つの魅力は“種類の豊富さ”だ。日本では一つの道具にこれだけの種類がある、というのを飯田屋で知った客は「クレイジーだ!」と叫びつつ、興味津々だそう。

1ccから2000ccまであるレードルは飯田屋オリジナル。世界中から注文が引きも切らない
料理道具の研究や海外視察を通じて飯田さんが感じたのは、欧米では使い勝手が悪かろうが「基本、使う人が道具に合わせる」ということ。一方、日本では「道具のほうを、使う人に近づける」。例えば「手が小さい人でも持ちやすい」「左利きでも使いやすい」といった具合だ。少数派の需要にも柔軟に応じ、工夫を加えて改良する。
「より使いやすく……と人に寄り添って作るから、道具のバラエティーが豊かになる。メーカーが多いのも背景にありますね。“ものづくり”が得意な日本ならではのきめ細やかさが、海外から支持されているのかと思います」
料理道具は、100円ショップからホームセンター、百貨店までどこでも手に入る。だからこそ、どこにでもある品ではなく、すき間需要に応じた商品を幅広くそろえる。「これが欲しかった!」と喜ぶ顔を見ることが、飯田屋の喜びでもあるのだ。
【今、訪日客に売れている!ひと味違う「和の料理道具」10選】
- おろし金
- すり鉢とすりこ木
- おにぎり型・巻きす
- 刃付き小物(ピーラー・スライサーなど)
- 鉄瓶・茶こし
- 土鍋・雪平鍋
- フライパン
- 卵焼き器・菜箸
- まな板
- しょうゆ差し・みそマドラー
取材・文=ニッポンドットコム編集部
撮影=野村和幸
バナー写真:「飯田屋」前にて、6代目社長の飯田結太さん

