【新刊紹介】世界は「陰」の時代、でも:竹村亞希子著『春の来ない冬はない 時の変化の法則の書『易経』のおしえ』

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東洋最古の書物『易経(えききょう)』の真髄を読み解く新著である。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)など世界はいま、いわば冬の時代。だからこそ、変化に対応できるよう学び続け、春の到来に備えるようにと説く。

今は冬でも「春は必ずやってくる」

著者、竹村亞希子(たけむら・あきこ)さんは1949年、名古屋生まれ。『易経』の研究家として知られ、『「経営に生かす」易経』(2020年、致知出版社)など多くの著作がある。

中国最古の古典『易経』は、5000年にわたり「時の変化の法則」を説き続けてきたという。今春は著者が本格的に研究を開始してから半世紀に当たり、本書は50周年記念の意味合いもある。まえがきで、著者はこう諭す。

いまはコロナ禍ですが、時代はずいぶん前から「陰」の時代です。すべての物事には陰と陽があり、それは男と女、太陽と月、南と北など、さまざまなものに当てはまります。ですから時代も陰と陽を繰り返します。陰はいわば準備の時間。春夏秋冬で言えば、来(きた)るべき春に備えて大地の土壌を豊かに育てている時です。この時に育てる大地が豊かであればあるほど、その後にやってくる季節は、より充足したものとなります。陰があるからこそ陽がある。じっと耐えていれば、どんなにつらい時代であってもいつかは陽に転じていきます。春は必ずやってくるのです。

『易経』には、「時の変化の法則」が64種類の「卦(か)」と呼ばれる物語として書かれている。64の卦はそれぞれ、その卦の示す「時」の全体像と対処法を説く「卦辞(かじ)」と、その「時」の変化の成り行きを6段階で説明する「爻辞(こうじ)」によって成り立っている。

本書では64卦のうち「天雷无妄(てんらいむぼう)」、「火沢睽(かたくけい)」、「艮為山(ごんいさん)」、「天地否(てんちひ)」、「地天泰(ちてんたい)」、「雷風恒(らいふうこう)」、「沢火革(たくかかく)」、「山沢損(さんたくそん)」、「山雷頤(さんらいい)」などを取り上げている。それぞれの卦、卦辞、爻辞の原文と日本語訳を示したうえで、対処法などをエピソードも交えてわかりやすく解説している。

『易経』の真髄はSDGsと同じ

本書は、第1章「不測の事態への対処と心構え」、第2章「変化変通の理」、第3章「永続可能な生き方の条件」で構成している。

第3章の冒頭で、『易経』から「易は窮まれば変ず。変ずれば通ず。通ずれば久し」という言葉を引用。これは、物事は窮まれば必ず変じて化していき、変化したら、また必ず変じて化すという循環を意味していると説明したうえで、SDGs(持続可能な開発目標)との関係を看破する。

この言葉はまさに『易経』の真髄を一言で言い表していますが、実はこれ、いまよくいわれている「SDGs」と同じことなのです。『易経』は何千年も前からどんなに厳しい冬の時代に見舞われても、それに対応できる「持続可能な」、もっと言えば、むしろ「永続可能な」社会を目指して、そのために時と兆しの変化の法則を見て、何をすべきかを説いてきました。

持続可能な個人の人生、持続可能な企業経営、そして持続可能な社会を目指すには何が大切なのか。それは一言で例えるならば「豊かな土壌づくり」です。

「豊かな土壌づくり」とは、「学び続けること」だと指摘。「学び続けてきた人のみが柔軟な発想と柔軟な心で変化に対応することができる」と伝授する。第3章では、教育に関する「山水蒙(さんすいもう)」という卦について詳述しており、「啓蒙(けいもう)」の本来の意味などを説き起こしている。

「帝王学の書」としても知られる『易経』は「王様が学ぶために中国で最初に書かれた本ではありますが、現在の我々が読んでも、十分に学びがある本です」。『易経』のエッセンスをまとめた本書は口語体で読み易く、その一端に触れることができるだろう。

発行:実業之日本社
発行日:2022年4月5日
B6判変型:200ページ
価格:1430円(税込み)
ISBN: 978-4-408-33924-5

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