女優・成海璃子、体を張った新作『ゴーストマスター』を語る
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壁ドンから始まる地獄絵図
12月6日(金)より全国公開の映画『ゴーストマスター』。TSUTAYAが映像作品の企画を公募し、受賞作を映画化する「TCP」(ツタヤクリエイターズプログラム)」で、第2回(2016年)準グランプリに輝いた。深夜ドラマや短編映画など、さまざまな映像制作の「ブラック」な現場を体験してきたというヤングポール監督が、その鬱憤を悪霊の邪悪なエネルギーに託して思う存分放出するホラータッチの作品だ。
舞台は、学園ラブストーリーのロケが行われている廃校。流行に便乗して低予算で企画された、いわゆる「壁ドン」映画の撮影現場だ。金もうけにしか興味のないプロデューサーと、適当に仕事を片付けたい監督の下、映画を深く愛するスタッフが働く。主演俳優が「そもそも壁ドンとは何か」と悩み始めて撮影が中断してしまい、助監督の黒沢明(三浦貴大)が事態の収拾を押し付けられる。
巨匠と同じ名前を持つ、ホラー映画オタクの彼は、「いつか監督になる」という夢を唯一の心の支えに過酷な労働環境に耐えてきた。しかし現場の混乱に苛立つ人々の心ない発言によって思いは砕かれ、大切に温めてきた脚本「ゴーストマスター」は悪霊に憑依されてしまう。
現場は「ゴーストマスター」が猛威を振るう阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、ホラーやスプラッターにサイバーパンクの要素を織り交ぜながら、アクションからSFまで、さまざまなジャンルの映画をリミックスしたシーンが展開していく。物語のテーマも「究極の映画愛とは何か」という方向へと導かれる。
「あんなにひどい現場は…」
ヒロインは「アクション俳優を父に持つ2世女優」という設定の渡良瀬真奈。現場を仕事と割り切ってクールにこなしながら、最終的には黒沢をはじめとするスタッフの映画愛を全身で受け止める。この特殊メイクや激しいアクションが求められる役柄を、成海璃子が演じた。子役からテレビや映画で活躍し、来年にはドラマデビューから20年を迎える彼女に、今回の撮影の舞台裏や映画への思いについて聞いた。
——数々の作品に出演してきた成海さんから見て、あの「映画の中の映画」の撮影現場をどう思いましたか。
さすがにあそこまでひどい現場は経験したことがないです(笑)。「キラキラ系の壁ドン映画が流行っているから撮ろう」みたいな現場は、正直キツイだろうなあと思います。やっぱり自信を持って面白いってオススメできる作品を届けたいですから。
——映画には、そんな現場ながら一生懸命に仕事するスタッフたちも登場しますね。
私は結構クールに考えるタイプなので、あそこまで映画愛をストレートに出すのは、ちょっと恥ずかしいかなあと…。
——でも成海さん自身も、映画に懸ける思いは特別ですよね?
もちろん私も映画の仕事がすごく好きですが、「食べられなくてもやる」っていう選択肢は自分にはないですね。テレビドラマも年間に1本は絶対出たいし、CMにも、舞台にも、そして映画にも出る。そういうふうにちゃんとバランスよくやりたいと心掛けています。
——作る喜びだけではやっていけないと?
たとえどんなに思い入れのある映画を作っても、お客さんに観てもらえなければ意味がないと思うんです。それこそ「スクリーンに映っているものがすべて」だと思うから、自分が現場でどれだけ頑張ったかなんて関係ないんです。
——『ゴーストマスター』自体の撮影現場はどうでしたか。
撮影は去年の6月で、校舎の屋上や体育館のシーンはものすごく暑くて、かなり過酷でしたね。でも、脚本を読んだ時点で大変だろうなと覚悟していましたから(笑)。
「電球を口に含んでピカーッ」
——物語は「キラキラ恋愛青春映画」から「戦慄と笑いのホラーコメディ」へと、怒涛の展開を見せる内容でしたね。最初に脚本を読んだ感想は?
読みながら思わず笑っちゃいました。面白そうな作品だなあと思ったんですが、脚本を読んだだけでは想像がつかないところがありすぎて(笑)。
——麿赤児さんや、柔道の篠原信一さんなど、個性豊かなキャストが揃っていますね。劇中の撮影現場は混乱の連続ですが、実際の撮影はどうでしたか。
ただでさえ暑い中、特殊メイクもあって、ものすごくハードだったはずなのに、誰ひとりとして文句を言わなかったです。劇中みたいに「どうしてこんなことをするの?」といった疑問を口にすることもなく、皆さん淡々と(笑)。
——成海さんがカチカチに凍った「あずきのバー」を武器に戦うときも?
はい(笑)。アクションは今までほとんどやったことがなかったので、撮影前に特訓しました。すごく大事なシーンだったので、「できるだけ多く練習したいです」って監督にお願いしたんです。
——特殊メイクは今回が初めて?
いえ、これまでも特殊メイクは結構ありました。今回わりと楽に感じたのは、顔半分だけだったから(笑)。確か1時間くらいでできたんじゃないかな。この作品では最終的にほとんどのキャストが特殊メイクをしているんです。こんな「特殊メイク祭」の映画も、なかなかないと思いますよ(笑)。
——映画の中には真奈と黒沢が「フォース」を交わす象徴的なシーンが登場しますが、現場ではどのように撮影されたのでしょう?
あれは、照明部の方から渡された電球を、そのまま口に含んでピカーッて光らせているんです(笑)。監督から『スペースバンパイア』(85年、トビー・フーバー監督)の映像を見せられ「こんなイメージで!」と言われたから、「ハイッ!」って(笑)。
——あとからCGを加えて、実際にその場にはないものを相手に演技していることもあったんですよね?
監督は普段クールな方なんですが、そういう場面は「光、パーッ!夕焼け、パーッ!」って叫びながら、身振り手振りで見せてくれるんです(笑)。
「何でもやってみたい」
——監督や作品に応じて、合わせていくのも大変ではないですか?
台本に書いてあることをやる、っていう一番シンプルなことが大事だと思います。今回は緻密な心理描写が求められるような作品ではないので(笑)、何も疑問はなかったんですが、最後のシーンだけは台本に抽象的な表現しか書かれていなくて。あの一瞬に込められたメッセージが何なのか、監督と話し合って進めました。
——完成した『ゴーストマスター』をご覧になった感想は?
試写でCGがついたものを皆さんと一緒に、笑いながら盛り上がって観ました。現場で想像していた以上にシュールな作品に仕上がっていたので、お客さんの反応が気になりますね。私としては「青春映画」だと思っています。
——作品を1つ撮り終えるたびに、自分の中で何か変わっていくものはありますか?
実はこの映画を撮り終わってすぐに、大林宣彦監督の『海辺の映画館-キネマの玉手箱』の現場に入ったんです。大林監督とはずっと一緒にお仕事をしてみたかったので、ものすごく嬉しかったんですが、その現場でもアクションシーンがあって。今度はダンスシーンもあったんです。去年は苦手なものにも取り組めた1年でしたね。
——やりたいことの幅も広がっていきそうですね。
そうですね。大変だけど、やってみたら意外とどんなことでも楽しめるなあと思いました。何にでも興味がありますし、いろいろな人とお仕事してみたいです。ラブストーリーもあまりやったことがないし…。「キラキラ系」は通らずに済んでよかったですけど(笑)。映画の仕事はこれからもずっと続けていきたいです。やっぱりあれだけ大きな画面に映し出されるのは映画だけだから。私も映画は映画館で観るのが一番好きですし、皆さんにもぜひ映画館で観てほしいですね!
インタビュー撮影=コデラ ケイ
聞き手・文=渡邊 玲子
作品情報
- 出演:三浦 貴大 成海 璃子
板垣 瑞生、永尾 まりや、原嶋 元久、寺中 寿之、篠原 信一、川瀬 陽太、柴本 幸、森下 能幸、手塚 とおる、麿 赤兒 - 監督:ヤング ポール
- 脚本:楠野 一郎 ヤング ポール
- 製作国:日本
- 製作年:2019年
- 上映時間:91分
- 配給:S・D・P
- 公式サイト:http://ghostmaster.jp/
- 12月6日(金)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー