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筍(タケノコ) : 伝来から300年足らず、意外と新しい和食の人気素材

文化 環境・自然・生物

シャキッとした歯ごたえ、ほのかな甘みと爽やかな香り―煮物や汁物はもちろんのこと、炊き込みご飯や天ぷらでもおいしい和食必須アイテムのタケノコ。日本にもたらされたのは江戸中期と意外に新しい。

春の代表的な食材・タケノコは竹の地下茎から出てくる若芽のこと。びっしりと産毛の生えた硬い皮に包まれているが、成長するにつれて皮は徐々にはがれ落ち、すべての皮が落ちると「竹」と呼ばれるようになる。タケノコから竹になるまでの期間は、約1カ月とかなり成長が早い。しかも、柔らかく食用に適する期間はわずか10日ほど。だから、漢字ではタケ冠「竹」に10日の単位を表す「旬」を組み合わせた「筍」。

(PIXTA)
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タケノコご飯、筑前煮、若竹煮、青椒肉絲(本来は中華料理だが、日本の家庭の味としてすっかり定着)、タケノコは日本の食卓に欠かせない食材。下処理済のタケノコが真空バックで販売されているので季節を問わずに食べることができるが、やはり旬の時期のタケノコのおいしさは格別。

タケノコは鮮度が命。掘りたての新鮮なタケノコを薄くスライスしてナマのまま食べる「タケノコの刺し身」は産地でしか味わうことのできない最高のぜいたくだ。

収穫して時間がたつとえぐみや苦みが出てくるため、購入したらその日のうちにあく抜きするのがおいしく食べるための基本。外側の皮を2~3枚むき、根本の特に硬い部分と穂先の先端を切り落とし、皮目に切れ目を入れた上で、タケノコがたっぷりかぶるくらいの水を入れて、米ぬかと鷹の爪を加えて加熱する。タケノコの分量にもよるが、30分~1時間程度煮る。火を止めたあとも、タケノコは鍋から取り出さず、そのまま冷ます。

(PIXTA)
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タケノコのあく抜き(PIXTA)
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あく抜きしたタケノコは皮をはぎ、水を入れた容器で冷蔵庫で保存する。毎日、水を替えれば1週間程度保存できるが、うま味が抜けていくのでなるべく早めに食べきりたい。

(PIXTA)
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8世紀初頭に編さんされた古事記には、黄泉の国の醜女たちに追われたイザナギが身に着けていた竹の櫛(くし)を投げると、そこからタケノコがはえ、女たちがタケノコをむさぼる間に逃げたという神話が収録されている。日本では古くからタケノコを食べる習慣があったことが分かる。ただし、現在、一般的にタケノコとして食されている孟宗竹(もうそうちく)が日本にもたらされたのは江戸時代中期のことで、神話に登場するのは淡竹(はちく)と考えられている。

目黒のタケノコ

孟宗竹は薩摩藩4代藩主・島津吉貴が1736年頃、琉球経由で中国から取り寄せ島津家別邸・仙巌園(せんがんえん)に植えたと伝えられる。江戸鉄砲洲の回船問屋・山路治郎兵衛勝孝が安永年間(1772〜1781)に入って、平塚村戸越(現・品川区武蔵小山)の農業振興のために薩摩から孟宗竹をもらい受け、その後、碑文谷村(現・目黒区碑文谷)や衾村(現・目黒区八雲)へと栽培地域が広がっていった。

にわかには信じられないが、昭和の初め頃まで、目黒近辺にはあちこちに竹林が広がり、タケノコが特産野菜だったという。目黒不動前の料亭が春になると「名物・タケノコ飯」で参拝客を呼び寄せたという。

(PIXTA)
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家庭の食卓でもおなじみのタケノコ料理をこちらにまとめました!
→ 「味だけでなく、シャキッとした食感も楽しむ : タケノコのお料理コレクション」

バナー写真 : PIXTA

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