正念場を迎えた新型肺炎の問題:東京五輪までに収まるか?

社会 医療・健康

中国語で「冠状病毒」と書くコロナウイルスの新型による肺炎。中国の湖北省武漢市で発生し、その感染が世界的に拡大している。日本国内での感染拡大を食い止めることはできるのか、半年後の東京五輪・パラリンピックまでに収まるのか。中国で勤務経験もある感染症専門医の大学病院教授に聞いた。

大都会・武漢で発生

中国政府が1月9日に「新型コロナウイルス検出」を発表してから、わずか3週間で中国全土に広がり、死者170人、感染者は世界で7800人を超えた(1月30日現在)。

コロナウイルスは人と動物の間で広く感染症を引き起こす。今回のような感染者が重症の肺炎を起こしたのは、SARS(重症急性呼吸器症候群。2002年から翌年にかけ、中国が発生源となり、世界で感染者8000人超、死者774人)とMERS(中東呼吸器症候群。12年にサウジアラビアで確認され、韓国などに広がり、世界で感染者約2500人、死者858人)がある。今回の新型肺炎が感染者数では過去の2例を超えることになり、日増しに深刻な事態となっている。

武漢は、人口が東京23区より多い約1100万人、面積が兵庫県とほぼ同じの大都会。発生源と言われている武漢市内の野生動物を扱う海鮮市場は閉鎖された。中国政府は新型肺炎の拡大を防ぐため、公共交通機関などの運行をストップして事実上の封鎖に踏み切った。しかし、1月24日から春節(旧正月)の大型連休のため、市民の半数近くが市内を離れ、中国国内や、日本を含めた世界各地に出たため、感染者はどんどん増えてしまった。

日本国内で「人から人」感染

新型肺炎の流行は、各国の株価を下げ、世界経済にも影響を与えている。そして、日本は今夏の東京五輪・パラリンピックを控え、治安問題に加えて、感染症対策を迫られることになった。今年は外国から4000万人以上が日本を訪れると予測され、五輪開催国として、7月の開始までに国内での新型肺炎の感染拡大を収束させたいところだ。

国内では1月28日に、肺炎患者が最も多い武漢からの観光客を乗せたバスツアーの運転手が、翌日には同乗のバスガイドの感染が確認された。新型肺炎で日本人としては初の感染者となったバス運転手は、中国への渡航歴がない。このため、武漢からの観光客を介しての感染、つまり「人から人に感染」が日本国内で始まったことが確実になった。

武漢に残っていた邦人が29日から連日、政府のチャーター機で帰国し、感染者も見つかって、新たな段階を迎えている。

新型肺炎が流行する中国・武漢市から政府のチャーター機で帰国し、取材に応じる男性ら=2020年1月29日、東京・羽田空港(時事)
新型肺炎が流行する中国・武漢市から政府のチャーター機で帰国し、取材に応じる男性ら=2020年1月29日、東京・羽田空港(時事)

東京五輪までの収束「予想は難しい」

感染症など内外の専門医資格を持ち、中国・北京でクリニック勤務の経験もある神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授は、今後の感染拡大の見通しについて、「今が正念場で、これから拡大するか、しないか、決まってくると思います」と述べる。

海外から日本に入ってきたウイルスは、その感染者や、周辺の数人の患者で感染が収まれば、流行は防げる。「しかし、そこから何十人、何百人と患者が増えていくと、そのコミュニティーは今の武漢と同じになります」と岩田教授は説明。今は、新型肺炎の感染者を増やさないことがポイントになる。

武漢からの邦人帰国について、日本の各府省担当者の会議で、感染拡大を止めるため「帰国者全員を一定期間、隔離するべきだ」との意見が出たことが明らかになっている。厚生労働省側は、「法律上、症状のない人に隔離を強制できない。人権問題になる」と反論。同省は、新型肺炎の症状がない帰国者に対し、帰宅しても潜伏期間が終わる2週間後まで、毎日、体温を測り、外出を控えるよう求めている。

岩田健太郎・神戸大学教授
岩田健太郎・神戸大学教授(同大学ウェブサイトより)

岩田教授は「14日間の観察期間が置かれており、日本政府の対応でおおむね良いでしょう。一般の人は、帰国者に対して、普通にしていれば良いと思います」。警戒するなど、特別なことをする必要はないと強調している。

夏の五輪・パラリンピックに関しては、それまでに国内の感染が収まっているかが気になる。同教授は「予想は難しい。SARSは自然になくなったが、2009年の新型インフルエンザは10年以上たった今も流行しているから」と述べる。今回のコロナウイルスについては分かっていないことが多いので、専門家もまだ判断が下せず、今後を見極めているのが実情のようだ。

「過度に恐れず、普段の生活で健康維持」

岩田教授は中国でSARSが猛威を振るっていた2003年に、北京で勤務した。その時にことをこう思い出す。「熱が出る患者はみんな『SARS疑い』だったので、非常に緊張感を持って患者さんを見ていた。何千という患者が発生したが、ただ、市民の日常生活はいつも通りでした。中国、北京も大きな国、街ですから」 

今回、日本の一般市民がとるべき感染症防御法について、岩田教授は「極めてシンプルだが、十分な睡眠や休養、過労や過度のストレスの回避、栄養バランスがとれた食事など、ごく当たり前のこと」と強調する。今回の新型肺炎に効く薬は開発されていない。しかし、もし感染者と街ですれ違っても、すぐに病気がうつることはない。濃密な接触がなければ感染しないので、「過度に恐れることなく、日常生活で健康を保っていることが大事だ」と説いている。

バナー写真:新型コロナウイルスへの感染が疑われ、救急隊員に搬送される患者=2020年1月30日、中国・武漢(撮影:Hector Retamal/AFP/アフロ)

▼あわせて読みたい

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客を乗せたとみられる救急車=2020年2月7日、横浜・大黒ふ頭(時事)

新型肺炎:無症状者が広げるウイルス感染-封じ込めは困難か(2020年2月7日)

健康・医療 感染症