犬山紙子対談「この女性(ひと)に会いたい」

福寿 満希(ローランズ原宿代表): 「障がい者と貧困家庭の子どもへの社会支援のあり方とは」: 犬山紙子対談 第8回

社会

コラムニストの犬山紙子さんが各界で活躍する女性とさまざまな問題について語り合う本連載。今回お会いしたのは、東京都渋谷区でカフェ併設の花屋「LORANS. (ローランズ)原宿」を運営するローランズ代表兼フローリストの福寿満希さん。従業員65名のうち50名が障がいや難病と向き合うスタッフというローランズは、2021年8月より子どもの貧困や孤食の問題に対する新たなプロジェクト「お花屋さんのこどもごはん」をスタート。今回は社会支援のあり方などについて語り合います。

福寿 満希 FUKUJU Mizuki

株式会社ローランズ代表。1989年石川県生まれ。大学を卒業後、スポーツマネジメント会社勤務を経て、2013年フローリストとして独立。障がいや難病と向き合う人の雇用を積極的に行っており、東京・原宿のショップは就労継続支援A型に認定されている。21年より貧困などの事情から食事を必要とする子どもへの支援を行う「お花屋さんのこどもごはん」を開始。22年春には、花を通じた職業訓練学校(就労移行支援施設)も開校予定。

障がい者雇用に取り組む思い

犬山 障がい者の方が中心になって事業をされていると記事で拝見して、今日はお話をうかがえるのをとても楽しみにしていました。障がい者雇用を始められたきっかけを教えていただけますか?

福寿 最初に就職した会社でプロ野球選手の社会貢献活動を立ち上げる仕事を担当したことがあって、必要なものを本当に必要な人に届けることの重要性を実感したのが、社会貢献活動に興味を持ったきっかけです。同時にそれまで自分は誰の役にも立てていないのではないかと感じていたのですが、自分の存在に意味を見つけられたと感じることができて、自分に何ができるか考えるようになりました。

犬山 人に頼ってもらう体験はすごく大切ですよね。私も児童虐待をなくすための活動を行っていますが、私自身、自分を肯定できるようになって、パワーをもらっていると感じています。

福寿 分かります。それで2013年、23歳のときに花屋として起業をして、3年目ぐらいから障がい者雇用を始めました。これまで障がい当事者は社会課題の対象と言われることが非常に多かったのですが、障がい当事者も与える側となり、社会課題の中の一人と言われるのではなく、自分たちも解決者になっていくというプロジェクトにしたいと考えていました。支援される側からする側にシフトをする人をたくさん作りたいと思ったんです。

福寿満希さん
福寿満希さん

子どもの7人に1人が貧困層という日本の現実

犬山 確かに人間はすごく多面的で、支援されるだけの人は絶対にいませんよね。私もボランティアを行っていますが、一方で子どもを保育園に預けたり、社会に支援してもらっている立場でもある。支援されるだけの人と決めつけるのではなく、支援を循環させていくことが大切で。ローランズさんはそれができているのが本当に素敵だと思います。子どもたちの支援を始めたのはなぜだったのですか?

福寿 最初は渋谷区が取り組んでいる「こどもテーブル」という活動の一環として、月に1〜2回みんなでご飯を食べる、地域の子どもたちのための食堂という感じでスタートしました。ところがコロナ禍になって、集まることができなくなり、宅配で食事を届ける形にシフトしたところ、一緒に取り組みたいという企業が増えてきて。そんな時、ニュースで一人親世帯の方の雇い止めなどによって、子どもたちに影響が出ていると知りました。ちょうど同時期に子ども支援の活動経験のあるスタッフが入社し、日本の子どもたちの現状を教えてもらったんです。例えば、日本では子どもの7人に1人が貧困層と言われています。

犬山 そして貧困であることは隠れてしまいがちで、その事実はなかなか伝わりにくかったりします。

福寿 そうなんです。そこでコロナで休業をしたり、時短営業になっている私たちのカフェを地域の子どもたちに提供できないかと考えました。ただ食事をするだけの空間ではなく、学校と家の中間になるような子どもの居場所を作れないものかと。現在は宅配での配食も続けながら、日本財団の助成を受けて平日17時〜19時の間、カフェで子どもの受け入れを行っています。

犬山 食事にお花を添えていると聞いたのですが、私、それがすごくいいなと思っていて。

福寿 あくまでベースは花屋なので、「お花屋さんが子ども食堂をするなら、どんなことが提供できるのか」と考えた結果です。お花を持って帰って、お母さんにプレゼントするお子さんもいて、家庭でコミュニケーションの一つになっていればうれしいです。

ローランズ原宿店店内
ローランズ原宿店店内

身近な大人の必要性

犬山 食事を提供されることもすごく大事ですが、生活するために必要なものだけではなく、心の潤いを感じられる時間を持つことって、実はすごく大切ですよね。実際に始められて、いかがでしたか?

福寿 まず感じたのは、今の子どもたちにとって”身近な大人”が少ないということです。学校の先生や友達のお母さんはいるけれど、それ以外の人を見つけるのが難しい。私は石川県出身で、子どもの頃から地域のつながりみたいなものを感じていましたが、東京ではなかなか見つけるのが難しい気がします。

犬山 確かに我が家も全くいないです。

福寿 カフェのスタッフや大学生のボランティアスタッフなど、身近な大人からいろいろな社会での体験を聞くことは、子どもの学びや成長につながるのではと感じました。また、兄弟とも学校の友達とも違う、一緒の居場所を共有する仲間のような関係が子どもたち同士でできているのも、すごく良いことだと思っています。似た境遇の子どもが多いので、親が共働きで、自宅で一人の時間を過ごす寂しさを共有できたり……いい意味でケンカもしたりしています。

犬山 ケンカできるぐらい仲良くなっているんですね。

福寿 兄弟とも家族とも違う、また別の特別な関係ですよね。

子ども支援を継続する難しさ

犬山 私も子どもの第三の居場所はコロナ禍でより重要になったと思っています。虐待を受けている子どももそうですが、家や学校を自分の居場所だと思えない子どもが、夜の街に出て、集まるようになることもある。そういう場に行く方が悪いわけではなく、そこにつけこもうとする悪い大人がいることが問題で。子どもたちを見守る目線の大人がいる第三の場所が、社会としては必要です。

犬山紙子さん
犬山紙子さん

福寿 そうですね。例えば、今は公民館を借りて、子ども食堂を行なっているところも多いのですが、体制がしっかりしていないと運営できないとなるとハードルが高い。飲食店にはアイドルタイム(ランチとディナーの間の休憩時間)がありますから、その時間、お店のスペースをうまく活用すればいい。子どもたちも自宅から近ければ近いほど、毎日行きやすいですから。それとこれは行政側の話になりますが、一部補填はあるものの、やっぱり持ち出しが出てしまう現状もありますので、町の飲食店が取り組みやすい制度ができると、子どもたちの居場所はもっと増えていくんじゃないかと思います。

犬山 助成金をもらっても、持ち出しがあってマンパワーもかかるとなると、どうしても継続が難しいですよね。ローランズさんはどうしているんですか?

福寿 私たちは企業のCSR活動の一環として協賛をいただいて、食事代や、運営に関わるスタッフの給与を出しながら運営しています。プロ野球選手の社会貢献活動を作った時に、選手のお金だけで回っているものは、彼らが引退した時に終わってしまうことが多いことを知りました。ボランティアも素晴らしいことですが、収入源の不安定さから継続できなくなる恐れがあるよりも、活動自体が自走して、長く続く仕組みが大切です。私たちの活動が一つのモデルケースになるよう、まずは自分たちができることをしっかりとやる。もちろん、できていないことも山ほどあるので、一つずつ課題をつぶしながらではありますが。

当事者と同じ目線で考える

犬山 ところで、「お花屋さんのこども食堂」の運営には障がい者の方も関わっているそうですが、彼らの反応はいかがですか?

福寿 障がいと向き合って生きるようになるきっかけはさまざまで、家族や身近な人との関係性から発症することもあるのですが、あるスタッフからは自分がお母さんにしてもらいたかったことを子どもたちにすることで、自分が救われたような気持ちになったと聞きました。してもらうことだけが全てではなく、してあげることで満たされる心を知ることは素晴らしいと思います。

ローランズ原宿でフラワーアレンジメントを行うスタッフたち
ローランズ原宿でフラワーアレンジメントを行うスタッフたち

犬山 何かをすることで癒される気持ちというのは、私も子育てをしていて感じます。

福寿 もう一つ、これまでは誰かの指示があって動く「待ち」の姿勢が多かったのですが、自分で考えて動くようになってきたのが大きな変化です。障がい者雇用の現場では、障がい当事者は単調な仕事を任せられることが多いんですね。例えば物を作るにしても業務を細分化した結果、この作業が最終的に何の商品になるのか分からない。そういう作業が向いている方も多いのですが、自分がやっていることが、誰に届いてどんな人が喜んでくれるかをちゃんと伝えることが大事なのだとあらためて実感しました。子どもたちのために始まったプロジェクトではありますが、スタッフも何かをしてあげることのうれしさと、してもらうことの有り難みを知ることができた。実際「ありがとう」という言葉がすごく増えました。当事者のためにやるという一方向の考えはおこがましくて、当事者と一緒に同じ方向を向いて、目線を合わせて、一緒に雇用を増やしていきたいし、一緒に子どもたちのプロジェクトをやっていきたい。私たちの方向性を整理できた、とてもいい経験になっています。

犬山 すごく素敵なプロジェクトですね。障がい者と言いますが、それは多様な人たちが生きていくことを妨げている障がいが社会にあることだと改めて感じます。誰かに必要とされる喜びに、障がいがあるかどうかが関係あるわけでもない。こういった「やりがい」をしっかり感じられて、働きやすい職場が今後増えてほしいと強く思います。ローランズさんの今後の活動も楽しみにしています。今回はありがとうございました。

対談まとめ:林田順子 撮影:上平庸文

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