佐藤可士和(クリエイティブディレクター) 「アイコンの力でコミュニケーションの壁を突破する」

文化

日本を代表するクリエイティブディレクターの一人、佐藤可士和が新たに打ち出すデザインの方法論「アイコニック・ブランディング」とは何か。ブランド戦略で数々のプロジェクトを成功に導いてきた秘密に迫る。

佐藤 可士和 SATO Kashiwa

クリエイティブディレクター。1965年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。博報堂を経て、2000年に「SAMURAI」を設立。グラフィックデザインから、プロダクトデザイン、アートディレクション、空間ディレクション、企業や地場産業のブランディングまで幅広く手がける。『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)、『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)など著書多数。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。2016年度文化庁文化交流使。http://kashiwasato.com/

2000年に「SAMURAI」を設立して以来、さまざまな領域でブランド戦略を統括し、成功に導いてきた佐藤可士和。これまでに依頼を受けた主なクライアントは、国立新美術館、ユニクロ、楽天、セブン‐イレブン、ホンダ、ヤンマー、三井物産、NTTドコモ、今治タオル、カップヌードルミュージアム、ふじようちえん、千里リハビリテーション病院、明治学院大学、歌舞伎・八代目中村芝翫など幅広い分野にまたがり、手がけた仕事も、ロゴ、シンボルマークやプロダクトのデザイン、広告キャンペーン、ブランディング、建築のディレクションなど多岐にわたる。

情報があふれ、多言語化も加速する世界の中で、佐藤は「ひと目でメッセージが伝わること」を重視する。そのために有効なデザインの方法論が「アイコニック・ブランディング(ICONIC BRANDING)」。ロゴ、プロダクト、空間などすべてを「アイコン」ととらえ、「言語外言語」の力で、コミュニケーションの壁を突破していくアプローチだという。これまでのプロジェクトをいくつか振り返りながら、佐藤が考える「アイコン」とは何かを探っていこう。

「日本発」というイメージ 【ユニクロ】

佐藤が手がけた世界的に有名な「アイコン」にユニクロがある。最初のプロジェクトは、2006年11月にオープンしたニューヨークのグローバル旗艦店のクリエイティブディレクションだった。これが、その後ロンドン、パリ、上海と続くユニクロのグローバルブランド戦略の皮切りとなる。佐藤は、カタカナとアルファベットで独自の「ユニクロフォント」を作ってブランドのロゴを一新した。

ユニクロのニューヨーク・グローバル旗艦店のオープニングに向け、佐藤可士和がデザインした新ロゴのポスターが街中にあふれた。

佐藤可士和  当時はGAPやH&Mなどアパレル産業が急速にグローバル展開していた時期。このときは、ユニクロの製品を貫く「服は『服装』の部品である」というポリシーの上に、「日本発」という核心的な表現が必要でした。僕が直感したのは、キービジュアルはカタカナだ、ということ。「しっとりとした和風」の対極にある、無機的でポップな日本の「今」です。日本人が見ても、外国人が見ても「ん?」となるような「絶妙な違和感」を狙いました。その計算が海外の街角でうまく作動したことで、自信が持てたのです。「日本発」のイメージは、フォントや色という記号でコントロールできる。そんな「アイコン」の力を強烈に感じた経験でした。

空間のブランディング 【ふじようちえん】

クリエイティブディレクションは企業戦略にとどまらない。「ふじようちえん」(立川市)では、幼稚園という空間そのものをブランディングの対象にした。このときは、旧園舎の老朽化という物理的な課題とともに、日本が少子化時代に突入し、園児募集が難しくなっているという社会的な背景があった。

佐藤  僕の仕事は、課題の解決です。何が課題の本質にあるのかをひたすら考えます。評判の幼稚園をいろいろ見て歩いて気づいたのは、幼稚園という空間にとって遊具が大事なんだな、ということでした。ふじようちえんの敷地には、立派なケヤキがあり、ツリーハウスも作られていました。上に登ってみたら、すごく楽しい気分になったんです。そこから「園舎=巨大な遊具」というコンセプトがひらめきました。ただ走り回るだけで面白い場所、子どもが毎日行きたくなるような空間――そんなグランドコンセプトを設計し、これを実現するプランを建築家の手塚貴晴さん、手塚由比さんと一緒に練り上げて、ドーナツ型の園舎が誕生したのです。

佐藤可士和のディレクションの下、ドーナツ型の園舎に生まれ変わった「ふじようちえん」。

佐藤のディレクションで新しい園舎に生まれ変わったふじようちえんには、入園申し込みが殺到し、経済協力開発機構(OECD)が選ぶ世界の教育施設のアワードでは、グランプリを受賞した。

佐藤  コンセプトの明快さが、世界にも通じたのだと思います。建築も「アイコン」になる。その思いを強めました。

対象の本質をつかむ 【今治タオル】

課題を解決する、という佐藤の姿勢は、四国の地場産業「今治タオル」のブランディングでも同様だ。世界レベルで通用する技術があるのに、ブランドの構築ができずに衰退していく。良質なタオルの産地である今治は、日本の地場産業が抱える共通の課題に悩んでいた。佐藤にとって、課題解決の決め手は何だったのだろうか。

今治タオルのロゴには、白に映えるデザインが考えられた。

佐藤  今治のタオルは、複雑なジャガード織の技術を売り物にしていたのですが、それ以前に、肌触りがとてもやわらかで、吸水性にすぐれているんです。僕にとっては、そこが一番驚くところで、その「安心・安全・高品質」を、「真っ白なタオル」に集約して打ち出すべきだと考えました。だから、白いタオルに映えるという前提で、ビジュアル・コミュニケーションの核となるロゴマークをデザインしたのです。やさしさを表す「白」、今治のやわらかい水と安心・安全をイメージさせる「青」、太陽と活力を象徴する「赤」を使った、シンプルで鮮やかなものです。このマークは織ネームだけでなく、店舗の看板になったとき、紙に印刷したとき、写真に撮ったとき、スマートフォンで見たとき……と、あらゆるコミュニケーションの場面を想定してデザインしました。

僕が業界の内部にいたら、ジャガード織という技術にもっと目が行っていたかもしれません。人間って、自分では気付いていない当たり前のポイントを見つけることが、実はとても難しいんです。ブランディングは、その対象の本質をつかむことから始まります。その意味で、外部の人間だからこそ、よく見えるというところはありますね。

伝統からポップまで、製品から街まで

最近は有田焼創業400年記念事業で有田焼の作品を発表したり、歌舞伎の八代目中村芝翫襲名披露公演の祝幕を手がけたりと、日本の伝統文化に関わる仕事も少なくない。ところがそのアプローチは、伝統文化の既成概念を打ち破る斬新なものだ。

歌舞伎・八代目中村芝翫襲名披露公演の祝幕。

佐藤可士和デザインのロゴをフィーチャーした襲名記念公演のステッカー。

佐藤  僕の中ではこれらもやはりブランディングなのです。歌舞伎も有田焼も400年にわたる伝統と技術があります。そのすばらしさを国内だけでなく、もっと広く世界中の方々に知ってもらいたい。そのためには、伝統や技術の話を長々と語るだけではダメなんですね。有田焼でいえば「いかに新しく見えるか」が勝負。歌舞伎も同じです。「リビングヘリテージ(Living Heritage)」と僕は呼んでいるのですが、単なるヘリテージじゃない。現在も、古典から新作までさまざまな作品が上演され、エンターテインメントとして社会の中で評価されているという「息づいている感」が大事で、その本質と哲学を、シンプルでクリアな、一度見たら忘れないイメージに凝縮して伝えたい。

現代はコミュニケーションのスピードが、ものすごく速くなっている。一瞬で対象物の価値を伝えないと、劇的な効果が得られないんですね。僕はメディアも限定しません。SMAPのCDアルバムのキャンペーンを手がけたときは、街のビルボードをはじめ、路上で駐車中の車も全部カバーで覆って、渋谷の街ごとメディアにしました。そのように、街も建築もプロダクトも、全部アイコン化できるのです。

コミュニケーションをデザインする

佐藤は2016年4月、文化庁から文化交流使に任命された。アーティスト、文化人、研究者などを外国へ派遣する事業で、これまで、茶道、書道、建築、文学、舞台芸術、現代アートと幅広いジャンルの人々が活動してきたが、クリエイティブディレクターが任命されたのは今回が初めてだ。佐藤は2017年3月から4月にかけて、ニューヨーク、ロンドン、パリの三都市で講演を行い、パリでは展覧会が開催される。全体を貫くキーワードは「アイコニック・ブランディング」だ。

佐藤可士和が制作した有田焼「Dissimilar」シリーズ。

佐藤  僕がやっている「コミュニケーションをデザインすること」が文化としてとらえられるようになったのであれば、とてもうれしいことです。クールジャパンとはまた別の切り口で、日本の可能性を見せたい。今回の活動場所となるニューヨーク、ロンドン、パリはどこも大好きな都市。中でもパリは、日本文化と親和性が高い場所だと感じています。アウトプットのテイストは全然違うのですが、根幹にある美意識が通じ合うのがパリじゃないかな、と思っています。

日本の文化は、まだまだ海外で知られていません。僕自身、海外の人と「これぐらいは、知っているだろう」と思って話していても、実は通じなくてがっかり、ということがたくさんあります。でも「アイコン」という手段を使えば、困難が一瞬で解決することがある。コミュニケーションというと、人はたいてい言語を思い浮かべますが、僕はアイコンが持つ突破力を追求していきたい。その方法論を海外でも、もっと実践していきたいですね。

インタビュー・文=清野 由美
インタビュー撮影=大河内 禎
ビデオ=花房 遼
佐藤可士和 文化庁文化交流使 日程
  • 講演:
    2017年3月22日(水)18:30~20:00 ジャパン・ソサエティー(ニューヨーク)
    3月27日(月)18:00~20:00 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)
    4月4日(火)18:30~20:30 パリ日本文化会館(パリ)
  • 展覧会:
    4月4日(火)~4月15日(土)パリ日本文化会館
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佐藤可士和がこれまでに手がけた「作品」の数々をスライドショーで。 【Photos】クリエイティブディレクター・佐藤可士和の世界

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