ジョシュ・グリスデイル:「アクセシブル・ジャパン」で日本のバリアフリー情報を世界に発信

社会

英語ウェブサイト『アクセシブル・ジャパンー行けるよ、ニッポン(Accessible Japan)』は、障害者向けに日本を訪れる際のアクセスや観光情報を掲載している。サイトを開設したジョシュ・グリスデイルさんから見た日本のバリアフリーの現状と課題を聞いた。

バリー・ジョシュア・グリスデイル Josh GRISDALE

カナダ生まれ。四肢まひ性・脳性小児まひを患ったため4歳より車いす生活を送る。2007年に来日。普段は、介護施設、老人ホーム、幼稚園、保育園などの日本語ウェブサイト制作業務に携わる。余暇にアクセシブル・ジャパン(Accessible Japan)英語ウェブサイトを制作、運営する。16年に日本国籍を取得。

カナダ生まれのジョシュ・グリスデイルさん。自分と同じ障害者にも、ぜひ日本に来てもらいたいと、アクセシブル・ジャパンのサイトを立ち上げた。「初めて来日した時は、英語の障害者向けアクセス情報がほとんどなくて、本を調べたり、日本に住んでいる人から情報を収集したりするのにかなりの時間がかかりました。日本で暮らすようになって、今のバリアフリー環境はかなり良くなってきていると思います。そこで、障害を持つ外国人旅行者のための情報サイトが必要だと思ったのです」

グリスデイルさんは、赤ん坊の時の高熱が原因で脳性小児まひを患った。四肢がまひしているため4歳の時から車いすの生活だ。自分の経験や知見から得た情報をサイトに掲載していたが、徐々に自分と異なる障害に関する情報も取り入れるようになった。

東京の自宅、バリアフリー・アパートでウサギのウシャと暮らすグリスデイルさん。ここでアクセシブル・ジャパンの制作を行っている。

「例えば、『日本に介助犬を一緒に連れていってもいい?』というような質問が届きます。こうした疑問に答える形でサイトを制作していきました」。グリスデイルさんによると、平衡障害や膝痛などは、同じ車いす利用者でもニーズが異なっていると言う。読者からの質問を受けているうちに、観光地を見る目も変わってきた。「観光地に腰かける場所があるかどうかも気になるようになりました。僕は(車いすがあるので、いすは)いりませんけどね」

障害者にお勧めの東京観光スポット

グリスデイルさんの勧める昔の面影を残す東京観光スポットは、浅草寺と明治神宮だ。「この2カ所は、かなりバリアフリー化に力を入れています。浅草寺には比較的新しいエレベーターがありますが、工夫を凝らしていてまるで昔から寺の一部であったかのように作られています」。デザインが本堂とよく調和していて、一目見ただけでは後付けとは分からない。雰囲気を壊さないので周りの観光客にも、エレベーター利用者にとってもありがたい。

浅草寺本堂横のエレベーター。まるで本堂の一部のように作られている。

お勧めを聞かれたら、「一般の人が訪れる場所に障害者もアクセスできるか」を基準に判断すると言う。もし、全体の5割にしかアクセスできないなら、観光地として魅力的だとは言えない。それでも、できるだけ多くの情報を掲載し、なるべく読者が自分自身で判断できるように心がけている。最近は東京だけでなく、京都や大阪、金沢の情報も掲載。ほとんどの文章は、グリスデイルさんが執筆しているが、時々、読者が体験談を投稿してくれる。

障害を持つ外国人旅行者にとって「一番の難点はレストラン探し」と、グリスデイルさんは言う。狭いスペースと、建物の造りが問題だ。「日本に来る多くの人は、伝統的な和食を食べたいと思います。でも、ほとんどの和食料理店には玄関があるのです」とグリスデイルさん。玄関は一段高くなっているので、車いす利用者はそれを見てがっかりする。「(京都などでもそうですが)日本的な佇(たたず)まいは、デザインが魅力的ですが、非常にアクセスしにくい構造なのです」

浅草寺に続く、仲見世(みせ)通り。

選択肢の一つとして、デパートのレストランを勧めている。日本的な趣(おもむき)には少し欠けるかもしれないが、バリアフリーのレストランとトイレを確保するには格好の場所だ。アクセシブル・ジャパンでは、レストランのガイドサイト『ぐるなび』を使って、車いすで入れるレストランを探し出す方法も紹介している。また、障害で手が使いにくい人には、自分用のフォークなどを持参するようにも勧めている。日本料理店では箸しか置いていなかったり、フォークがあっても子供用だったりするからだ。

2020年に向けて、もっと進歩を

スポーツの大ファンではないが、2020年のパラリンピックをとても楽しみにしていると言うグリスデイルさん。日本ではすでに、障害者に対する意識や理解が高まっていると言う。しかし今後、さらに外国人観光客が増えるのであれば、他国で使われている補助具・支援機器などが使えるように柔軟な対応が必要だとも指摘する。「ハンドル式電動車いす(mobility scooter(※1))は、日本ではまだあまり一般的ではありませんが、世界では広く使われています。障害をもつ多くの観光客がハンドル式電動車いすで来日しますが、往々にして電車への乗り込みを断られることがあります。日本ではまだ、『車いすの車輪は2つ』という概念から抜け切れていないのです」

駅では、車いす利用者にスロープを提供し、介助してくれる。しかしハンドル式電動車いす(mobility scooter)の乗り込みを許可していないところも多い。

ホテルの客室にもまだまだ課題がある。「全体的に宿泊施設が足りません。そして車いす仕様一つとっても、障害者向けの客室が不足しています」とグリスデイルさん。「バリアフリー客室」と書かれていても、バスルームに手すりがついているだけのものから、まるで病院に泊まっているような医療用品に囲まれた白タイル床の部屋まで千差万別だ。「各部屋のバリアフリー基準を法制化するべきだと思います」

いくつかの課題はあるものの、グリスデイルさんは、障害者に対する日本の取り組み全般を肯定的に捉えている。母国、カナダで車や補助なしには移動できなかった彼にとって、日本の整った公共交通システムは自由への扉だ。日本での生活を充実させ、社会の一員として取り組んでいこうと、グリスデイルさんは昨年日本国籍を取得した。生まれ故郷のトロント近くの小さな田舎町、ウックスブリッジから東京はかなり遠い。たまたま、高校で第2外国語に日本語のクラスがあり、札幌に住んだことのある高校の先生が第2外国語として日本語を教えてくれたのだ。「両親は自分の夢を追いかけろと、いつも言ってくれました」。先生の熱意が、グリスデイルさんの夢に火をつけたと言う。

日本で暮らして10年がたち、道路のでこぼこの解消やエレベーターの設置など数多くのバリアフリー化と変化を目にしてきた。こうした動きは、小さな子供を乗せてベビーカーを押す親たちや、増えつつある高齢者にとっても朗報だと言う。「長生きするようになると、誰でもいつの日か体に不調や不具合を訴えるようになります。ですから、障害者支援のコストは、みんなの将来にとっても決して無駄な投資にはならないと思います」

【YouTube】車いすで日本の地下鉄に乗る方法(英語)、提供=アクセシブル・ジャパン

原文英語
取材・文=リチャード・メドハースト(ニッポンドットコム編集部)
バナー写真:浅草寺を訪ねるジョシュ・グリスデイルさん
写真=ベンジャミン・パークス

(※1) ^ 充電式バッテリーで動き、ハンドルで進む方向を変えられる。手や指で細かい操作ができない障害者や高齢者が利用する。

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