田中達也:ミニチュア作品の内に広がる豊かな地球

文化

日用品や食品など身近な物を別の物に見立てた作品をSNSで発信するミニチュア写真家・田中達也氏。固定観念にとらわれない自由な発想と独特の世界観で、新たな分野を築き上げた彼に、作品が生まれるまでのストーリーや今後の展望を聞いた。

田中 達也 TANAKA Tatsuya

ミニチュア写真家・見立て作家。1981年、熊本県生まれ。ミニチュアの目線から、日常にある物事を独自の視点で切り取り別の物に見立てた写真「MINIATURE CALENDAR」がインターネット上で人気を呼び、雑誌やテレビなどのメディアでも話題に。広告ビジュアル、映像などを多数手掛けるほか、2017年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックを担当。主な写真集に『MINIATURE LIFE』『MINIATURE LIFE2』(以上、水曜社)、『Small Wonders』(Nippan Ips)など。

緻密で遊び心あふれる世界観が反響を呼ぶ

何の変哲もないコッペパンが、連結してレールの上を走れば『新パン線』。イチゴのショートケーキを倒して傾斜をゲレンデに見立てれば『メレンゲのゲレンデ』―。見立て作家田中達也氏から発信される世界観は、「○○って△△みたい!」と子どもの頃に夢中になって見つけていた何かを、大人にも思い出させる。

日用品や食品など私たちの身近にある物をミニチュア人形と組み合わせて別の物に見立て、独自の世界観で表現した作品を、田中達也氏は「MINIATURE CALENDAR」という名で日々SNS(Facebook・Instagram・Twitter)に投稿している。その緻密で遊び心あふれる作品が話題を呼び、2018年2月現在、彼のSNSのフォロワーは100万人以上。毎週約3000人ずつ増加し続けている。内訳は外国人が圧倒的に多く、閲覧者全体の7割を占めるという。国内だけでなく、台湾や香港でも作品展を開催している。

作品『新パン線』。新パン線は子どもたちに人気が高い © Tatsuya Tanaka

作品『メレンゲのゲレンデ』。このケーキは食品サンプルだが、作品によっては本物の食材を使うこともある © Tatsuya Tanaka

作品『田舎ぶらし』。手作業で一束ずつ刈り取るため毛足が不ぞろいになるが、かえってリアルさを増す © Tatsuya Tanaka

かつてデザイン会社に勤務し、アートディレクターとして雑誌の広告などを制作していた田中氏。Instagramに投稿するのに「何か被写体がほしい」と思い、集めていたプラモデル用のミニチュア人形を何気なく添えてみた。すると、なんともいえないスケール感が出て、Instagramでの反響も上々。次第に作品は多くの人たちに拡散されていった。最初は不定期に更新していたが2011年4月、公式サイト「MINIATURE CALENDAR」も開設。そこに約7年間、毎日1作品を欠かさず投稿している。

彼の作品に登場するのは、洗濯バサミやトイレットペーパー、野菜、フルーツ、パンなど、世界中の人々になじみのある素材ばかり。外国人のファンが多いからこそ、作品は常に「万国共通」を意識している。「小学生にも伝わるような、シンプルで分かりやすい作品になるよう心掛けています」

「いいね!」の数やコメントなどで、閲覧者の反応がダイレクトに分かるのがSNSの長所。これまで海外の人たちに好評だったのが「桜」「サムライ」「忍者」「寿司」など、日本ならではの素材を選んだ作品だ。日々アップする写真への反響を見ながら、オリジナリティーを意識しつつ誰もが親しめるモチーフを追求している。

作品『花いかだ』© Tatsuya Tanaka

作品『決血ャップ』© Tatsuya Tanaka

「毎日制作」のルール守る

田中氏は制作に当たり、物ありきで考える場合とシーンありきで考える場合の2パターンがあるという。物ありきの場合、使いたい素材があり、それに合わせたアイデアを膨らませていく。一方、シーンありきの場合は、例えば海にしようと決めたら、そのシチュエーションに合わせた小物や人形を選び、構図を決めていく。

撮影を開始してSNSに投稿するまで、要する時間は2時間程度。そのうち1時間は、ミニチュア人形などの素材を一つ一つ選んで配置し、照明の当て方を工夫することなどに費やす。そして、撮影した画像を処理したり作品のタイトルやハッシュタグの内容を考えたりし、SNSに投稿する。作品を撮りためることはせず、アップする前日に撮影することが多い。

毎日更新を続けるプレッシャー、あるいはネタが尽きる心配はないのだろうか。

「特にないですね。限られた時間の中で、どれだけ自分が作りたい世界を表現できるか、常にベストを尽くすようにしています」「毎日、とことん突き詰めて考える。その繰り返しが、自分の限界を超えた作品を生み出すことにつながっているような気がします」

撮影や照明の技術も独学で学んだという田中氏。このアトリエから全世界に発信される

所有するミニチュア人形は、職業別、サイズ別などで細かく分類し「整理整頓」を心がけている

最初は約50体だったミニチュア人形は現在、1万体以上に。アトリエにある棚の引き出しを見せてもらうと、季節や服装などによって細かく分類された人形が整然と並んでいた。そのほとんどが、鉄道模型で有名なドイツのメーカー「プライザー」の製品。精密な造形と鮮やかな色彩が特長だ。最も小さい人形は高さ5ミリ程度。田中氏は全く同じ人形をサイズ違いで何種類もそろえている。それは、野菜やトイレットペーパーなど、作品に使用する素材の大きさによって、サイズ感を合わせたいからだ。わずか数ミリの世界だが、そこに彼のこだわりがある。

野菜の中でも、ブロッコリーをモチーフとして好んで使うのは、「ブロッコリーは木に見えやすい。見立てを分かりやすく説明するモチーフとして最適だから、シンボルとしてよく使う」。ブロッコリー自体が好きかと尋ねると「実は、自ら好んでは食べません(笑)」

作品『ブロッコリーもりもり』© Tatsuya Tanaka

オンリーワンの見立て作家、世界へ

田中氏のSNSフォロワーは外国人が多く、中でも香港や台湾の人たちに絶大な人気を誇る。その理由を「日本と同じく土地が限られており、住居が狭いのでミニチュアを楽しむ文化があるのかもしれない」と本人は分析する。

初めて海外で作品展を開催したのが、2016年の香港。現地から「ぜひ開催してほしい」と依頼されたことがきかっけだった。その後、台湾でも作品展を実施し、現地でのサイン会では地元のファンからの熱い反響に驚いた。「海外の人は、私の知名度や世間の評価などは関係なく、作品に興味を持ったらすぐに声を掛けてくれるのがうれしいですね。海外のファンは日本人より関わり方が積極的だなと実感します。自分のSNSに企画展や作品のことをアップしてくれる方も多いんですよ」

田中氏の目標は、世界各地で作品展を開くこと。今後はアメリカやヨーロッパへの進出も見据えている。「でも認知度はまだまだなので、まずは知ってもらうこと。そのためにはMINIATURE CALENDARを1人でも多くの人に見てもらえるよう、魅力ある作品を毎日発信したい」。SNSを通して世界とつながり、そしてリアルへ。「将来的には『新パン線』が、本物の新幹線のラッピング車両で走るぐらいになるといいですね」。数ミリサイズのミニチュア作品から見える未来は、地球(ほし)へと無限に広がっている。

バナー写真:取材当日2018年2月14日に公開された作品『メレンゲのゲレンデ』の制作風景

取材・文=佐藤 史(さとう ふみ) インタビュー写真=草野 清一郎

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