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森林浴の効果を科学する:千葉大学の宮崎良文教授
[2018.04.23]

森林浴によるリラックス効果、健康効果が世界で注目されている。森林浴を専門に研究し、そのセラピーが人間にもたらす科学的エビデンスを解説した著書『Shinrin-yoku: The Japanese Way of Forest Bathing for Health and Relaxation』(日本における森林浴:健康とリラックスのために)を英語で出版した宮崎良文・千葉大学教授に話を聞いた。

宮崎 良文

宮崎 良文MIYAZAKI Yoshifumi千葉大学環境健康フィールド科学センター教授。森林浴研究が専門で、森林医学、森林セラピーに関する多数の著書がある。1954年生まれ。東京農工大学修士課程修了、東京医科歯科大学で医学博士号取得。88年、農林水産省森林総合研究所に入り、90年に屋久島で森林浴に関する科学実験に着手。2007年から現職。

人間は本来、自然の中で生きる存在

——森林浴とは何ですか?

宮崎 人間が森と融合し調和する活動です。森林浴という言葉は1982年に秋山智英林野庁長官が作ったもの。林野庁は、多くの人々に森を訪れてリラックスしてもらうことで、その価値を高めたいと考えたのです。

——森林浴の科学的研究はどのように始まったのですか?

宮崎 1990年に私がリーダーとなり、屋久島で森林浴の効果を分析するための最初の実験を行いました。私は35歳で、研究資金もなかったのですが、NHKから協力の申し入れがあり、番組の一環として実験費用を拠出してくれました。当時、唾液に含まれるストレス関連ホルモンのコルチゾールの値を検出するための新しい方法が開発され、それを用いてストレスとリラクセーションを測定しました。一方、「森林セラピー」という言葉は、「科学的なエビデンスを持った森林浴」を意味するのですが、これは私自身が2003年に作ったものです。

森の中を歩きながら脳の活動を測定する研究者(写真提供=宮崎良文研究室)

——最近、森林浴への関心がこれほどまでに高まっている理由は何だと思いますか?

宮崎 現代人が森林浴を必要とする理由は2つあります。第1は、人工的な社会へ移行したことです。人類の歴史は約700万年に及びますが、人間はその間のほとんど、99.99%の時間を自然の中で過ごしてきました。人間の遺伝子は自然に適応しており、このことは産業革命から2、3世紀を経ても変わっていないのです。人間の体は自然に適応しているため、現代社会の生活ではストレスがかかります。

第2の理由は、コンピューターを用いた情報技術社会への移行です。興味深いことに、森林浴という言葉が誕生した2年後の1984年に、米国で「テクノストレス」という言葉が生まれました。私たちはストレスの第2段階に突入したのです。

ストレス軽減で免疫力が回復

——森林浴の健康改善メカニズムについて教えてください

宮崎 人間は自然から切り離されたことによってストレス状態に陥っているので、自然環境の典型的な例である森林を必要としています。ストレスが軽減されると免疫力が回復し、病気への抵抗力を高めることができます。それがひいては医療費の削減にもつながると考えています。

しかし、誤解されている点もたくさんあります。森林浴で、がんなどの病気を治療することはできません。もちろんインフルエンザが治るわけではないし、この場合は(気温の低い)森の中にいることで、逆に病気が悪化してしまうかもしれません。ただ、森林浴は病気になりにくい、抵抗力の強い身体を作る助けとなるのです。

宮崎教授によると、静かに座って森を眺めるだけでも良い効果が得られるという(写真提供=宮崎良文研究室)

——森林浴で最も良い効果を得られるのはどんな人でしょうか?

宮崎 基本的には、病気にかかりやすい状態になっている人です。分かりやすい例を挙げると、高血圧は自然セラピーによって緩和することが可能です。

現代社会において、若者は自然との関わりが減っており、かつてないほど強いストレス状態にあるようです。もともと人間の体は自然に対して適応しているため、そうなっても不思議ではありません。現在は子どものうつ病が増加傾向にあります。

私たちは高校生を対象にした実験を行い、彼らにバラや観葉植物を眺めてもらいました。思春期の子どもたちは、植物を見るだけで生理的にリラックスすることが明らかとなっています。

好きな方法で自然との触れ合いを

——なぜ日本で森林浴が発展したと思いますか?

宮崎 それが遠い昔から日本にあったコンセプトだからです。日本人は、自分たちが自然とともにあると考えてきました。英語の新著にも書きましたが、日本人は生け花をする前に、花に向かってお辞儀をします。一般的に、欧米人は自分たちを自然より上だと見ていると言われています。それでも森に行って自然と触れ合うと、良い心地になるのです。その点は欧米人でも、日本人でも、韓国人でも、誰でも同じです。

——簡単に自然と触れ合う環境にない場合はどうしたらよいですか?

宮崎 それはいい質問ですね。森に行くのは素晴らしいことですが、月に一度か年に一度しかチャンスがないという人もいるでしょう。森が好きでない人もたくさんいるでしょうし、日本人には花粉症や虫アレルギーの人もいます。

その場合は、公園に行ったり、庭いじりを楽しんだりすることも考えられます。アパートのバルコニーに出るだけでもいいし、エッセンシャルオイルや花を利用することもできます。ただし最も重要なのは、好きなものを選ぶことです。調査を行った結果、自然のどんな小さな要素でも、生理的なリラクセーション効果を持つことが分かっています。こういったものは、長時間にわたり接していられるという利点もあります。

10年ほど前、アルジャジーラ(注:カタールに本拠を置く、アラビア語主体のテレビ局)の記者がインタビューに来ました。その記者は、彼の国には森林はないが、砂漠にも同じような効果があるのだろうかと尋ねました。私は、そういう研究をした人はまだいないので確信は持てないが、私の直感では、自然環境としてのリラクセーション効果はあると思うと答えました。

効果的な森林浴プログラム開発へ

——なぜ、この分野を専門にするようになったのですか?

宮崎 小学生の時、木や植物が好きだった父を手伝って、庭仕事をよくしていました。木を植えたり、チューリップを眺めたり、土と触れ合ったりしているうちに、気持ちが良くなってリラックスすることに気づいたのです。その気持ちが忘れられず、農業を勉強することになりました。どうしてそういう気持ちになるのかを説明したいと思ったのです。

34歳で、森林総合研究所に入所しました。その時点で、医学と農学の研究成果を組み合わせることによって、森林浴の生理的な効果を研究できるのではないかと気づいたのです。2年後の1990年、世界初の森林浴の生理学的な実験を屋久島で行いました。

——これまでどんな実験をしましたか?

宮崎 嗅覚の刺激を中心とする屋内実験と、野外実験に分けられます。当初はいずれも、実験に参加しやすい20代の男女を対象としていました。最近では、特定のハイリスク・グループに属する被験者の生理的データを集めています。例えば、高血圧、うつ病、脊髄損傷による車いす使用者、高齢のリハビリ患者などです。

——今後はどのような研究をされる予定ですか?

森林アロマを吸い込んだ被験者の、脳の前頭前野の活動を測定する実験の様子。宮崎研究室の池井晴美研究員(後方)も実験に協力。

宮崎 日本ではさまざまな森林浴プログラムが開発されています。ゆっくり歩いたり、座ったりといった基本的なものから、深呼吸、ノルディックウォーキング、木を抱きかかえる、ヨガ、瞑想、ストレッチ、ピクニックといろいろな活動が取り入れられています。夜空を眺める、雲を観測する、水遊び、滝を眺める、森の中でコンサートを楽しむといった活動の可能性も検討されています。

初期の実験では、15分程度の短時間での森林浴の影響を調査していました。最近では、日中の大半を使った森林セラピープログラムの効果を調べています。

ただし、私たちがこれまで集めたデータのほとんどは、1回限りの実験によるものです。こういう実験を繰り返し行い、その結果を基に森林浴プログラムを考案しなければなりません。ゆくゆくは、森林浴が最も効果を発揮するとみられる高血圧、うつ病の患者向けの持続的な森林浴プログラムを開発していく必要があります。

(原文英語)

取材・文・写真撮影=トニー・マクニコル
バナー写真:インタビューに答える宮崎良文教授

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