中国の“シンデレラ”が日本で歌手デビュー:龍夢柔(ロン・モンロウ)さん

文化

中国の人気オーディション番組でグランプリに輝いた湖南省出身のモデル、龍夢柔(ロン・モンロウ)さん(23)が6月20日、「14億分の1のシンデレラ」をキャッチフレーズに日中両国で歌手デビューした。少数民族のトウチャ族に生まれ、わずか160世帯しかない山村で育った。歌と踊りを練習しながら東京で生活する龍さんは「日本は小さい時からのあこがれ」「日本の若者にいまの中国を理解してもらいたい」と語る。

龍夢柔 LONG Mengrou

1994年中国湖南省生まれ、少数民族トウチャ族出身。上海の大学在学中の2014年、テレビの人気オーディション番組でグランプリに輝いたのを機に芸能活動を開始。2018年6月、日中両国で歌手デビューした。

日本のドラマで小栗旬のファンに

龍さんの生まれ育った湖南省の湘西(しょうせい)トゥチャ族ミャオ族自治州は、映画「芙蓉鎮(ふようちん)」のロケ地として知られる景勝地。160世帯ほどしかない山あいの村で「おはじき遊びをしたり、ドジョウをつかまえたりして」子ども時代を過ごした。自宅にテレビはなく、村の売店でテレビを見ていたという。

日本のことを知ったきっかけは、アニメを勉強していたいとこの存在。「このいとこがいろいろなことを教えてくれ、私にとって日本はあこがれ、好奇心の対象となりました」。

10歳の時に見た日本のテレビドラマ「花より男子」に夢中になった。出演していた俳優の小栗旬を好きになり、自分の愛称を「栗子」とした。

高校を卒業し、地元から上海に出たのはわずか2人だけ。列車で23時間かかって到着した中国一の大都会は、すべてが新しいものずくめだった。

「いま私が触れているものはすべて故郷と全く違います。故郷は完全に別世界です」

上海の大学に在学中の2014年、龍さんは国営中国中央テレビ(CCTV)のオーディション番組『おいで!シンデレラ』でグランプリを獲得。日本の女優に似ていると注目され、今回歌手デビューというチャンスを手にした。

故郷の伝統「山歌」が芸術面での刺激に

湖南省の山あいの村から上海へ、そして日本へ。モデル活動に加えて、歌手にも挑戦。絵に描いたシンデレラストーリーだが、龍さんは「故郷を嫌って大都市に出たわけではない」と話す。

トゥチャ族固有の言語を話す人は少なくなり、龍さん自身も簡単なあいさつ言葉しか話せないというが、手と腕の動きが特徴的な民族舞踊の「手踊り(ハンドダンス)」は高校時代にマスターした。また、トゥチャ族の伝統の一つに山間に響き渡る山歌(さんか)があるが、「小さいころ、山にはいつも歌声があふれ、人の姿が見えないのに歌声が聞こえていた」という環境で成長した。

今も、こうした故郷で学んだものを基礎にして新しいことを学んでいる。「小さい時のこと、故郷の山水、父と母、周囲の人たち、それらすべて」が、歌手としての現在の仕事につながる芸術面の刺激を与えてくれたという。

日中の理解促進を助けたい

デビューに向けて東京に滞在し、歌と踊りを練習しながら日本語のレッスンに通う毎日。朝は8時に起き、歌を口ずさみながらジョギングする。一日のレッスンが終わると週に1、2回は街に出る。仕事が終わって家に帰り、自炊するのが一番の楽しみだ。「日本料理は大体あっさりしていて健康的ですね」。来日当初は抵抗があった日本食にも慣れ、湖南料理と組み合わせた料理を工夫して作っているという。味噌汁も毎日食べる。

日本語は簡単ではないようだが、毎日のレッスンと自習のほか、周囲のスタッフやレッスン仲間の日本人とも積極的に会話する。小さなカードをいつも持ち歩き、使ってみたい日本語があるとカードを見て単語を探す。

テレビでドラマを見たり、ニュースを聞いたり、すべての時間が日本語を勉強することにつながる。「とにかくできることは何でも」利用して勉強しているという。

龍さんのデビュー曲「PLANET」は、2006年に日本の音楽グループ、ラムジ(Lambsey)が発表した曲だが、最近中国で大ヒットしている。

「いまとても緊張しています」

歌を歌うだけではなく、同時に自身が日本に来てからの変化を中国にも発信していかなければならないという「懸け橋」としてのプレッシャーを感じているようだ。

東京で頑張る自分の姿を通し、日本を理解する中国の若者が増えると同時に、「日本の若者にいまの中国を理解してもらいたい」と抱負を語る。まず自らが日本の文化をさらに学ぶ一方で、日本のメディアがトゥチャ族や自分の故郷に関心を持ってくれることも期待しているという。

インタビュー・文:李海
翻訳・構成:ニッポンドットコム編集部

バナー写真:龍夢柔(ロン・モンロウ)さん、東京港区南青山で

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