「いざ、日本の祭りへ」(1) 三社祭と浅草ガイド

祭りには日本の「生きる力」が詰まっている

文化 暮らし

日本全国の“お祭り”の数は、10万とも30万ともいわれる。どんな種類の祭りがあり、その衣装やかけ声にはどのようなものがあるのか。祭り評論家の山本哲也氏が祭りの裏と表を語り、楽しむコツを伝授する。

日本人にとって祭りとは何か。それを理解するためのキーワードは春夏秋冬だ。春の訪れとともに種をまき、夏には台風や害虫、疫病などの被害にあわないことを願い、秋の実りに感謝を捧げ、寒さの厳しい冬にはこもりながら魂を充実させていく……日本には、季節の移り変わりに寄り添うように人々の営みがあり、日本人の季節感が祭りに凝縮されている。

春と秋は豊作祈願と感謝祭

春は稲を植える季節で、日本人にとっては「始まり」を意味する。祭りの代表としては豊作を祈願する「お田植え祭」があり、伝統的な祭りとして全国各地に広がっている。実際に田植えをするものと、田植えの所作を模擬的に演じるものとがある。前者の代表は、大阪住吉区の「御田植神事」(6月15日)で、後者には奈良県明日香村の「おんだ祭り」(2月第1日曜日)などがある。

御田植神事で行われる神楽女(かぐらめ)による八乙女の田舞(やおとめのたまい)。(写真提供=住吉大社)

お田植え祭と対になっている秋祭りは、稲刈りの時期に行う「新嘗(にいなめ)祭」。米が無事に収穫できたことを神に感謝する行事で、新穀を供える祭りとして11月23日の「勤労感謝の日」(国民の祝日)に行われることが多い。中でも神道の頂点に位置する三重県伊勢市の伊勢神宮で行われる新嘗祭と「神嘗(かんなめ)祭」は荘厳な祭りで有名だ。

神社にはほかにもさまざまな祭りがあり、伊勢神宮では、年間1000件を超える例祭が行われている。中でも「式年遷宮(しきねんせんぐう)」は20年に一度、神殿を新しく造り替える大々的な祭りで、690年から、約1300年も続いている。次回の遷宮は2013年だ。

式年遷宮の御樋代木奉曳式(みひしろぎほうえいしき)。(写真提供=伊勢神宮神宮司庁広報室)

夏は疫病退散、虫送り・台風除け

夏の祭りは都市と地方で異なる。夏は疫病が流行し、神の祟りと恐れられていた。そのため、祭りも疫病退散を目的としたものが多い。代表的なものが京都の「祇園祭(ぎおんまつり)」(7月1日~31日)、大阪の「天神祭(てんじんまつり)」(7月24日~25日)だ。京都と交易が深かった都市も、同じように疫病に苦しめられたことから、祇園祭をまねて、独自の祭りを作り上げていった。

天神祭では奉納花火が夜空を彩る。(写真提供=大阪天満宮)

また、害虫の被害が最も多い夏は、台風や洪水に襲われる季節でもあり、農作物の生育が左右されやすい。そこで、農村では病害虫を追い払うための行事で“虫送り”や“台風除(よ)け”の祭りが行われてきた。虫送りの代表的なものが、青森の「ねぶた祭り」(8月2日~7日)。台風除けの代表が、富山県の「越中おわら風の盆」(9月1日~3日)だ。

越中おわら風の盆。(写真提供=越中八尾観光協会)

夏と言えば“お盆”。亡くなった人の霊や先祖の霊をあの世から呼び寄せ、霊を祀(まつ)る行事として全国的に広がっている。楽しい盆踊りや“送り火”という仏教系儀式が行われる。その代表例が京都の「五山送り火」(8月16日)だ。

銀閣寺付近の山に浮かび上がる大文字。(写真提供=京都市文化市民局)

冬は新春祝い、町おこし

農閑期である冬は、厳しい寒さに耐えながら魂を充実させる季節。穢(けがれ)を落とす禊(みそぎ)としての裸祭りや、炎が主役となる火祭りが行われる。裸祭りで有名なのは、岡山県の会陽(えよ)で行われる「裸祭り」(2月の第3土曜日)。長野県の「道祖神(どうそじん)祭り」(1月13日~15日)は火祭りの代表例。

会陽の裸祭り。みそぎに水は欠かせない。(写真提供=西大寺会陽奉賛会)

また、1年の始まりを祝う新春の祭りや節分などもある。観光客を集めるために町おこしの一環として行われているものもある。「さっぽろ雪まつり」(2月中旬)がその成功例だ。

さっぽろ雪まつりでは各種のイベントが行われる。(写真提供=札幌市観光文化局)

1年を通じて行われる祭りには、「祈り」「感謝」「願い」といった日本人の「生きるための想い」がすべて集約されている。だからこそ、代々受け継がれてきた祭りを大切に守り、次世代へと伝えていくのだ。

祭りを数倍も楽しむコツ

では、実際に祭りに参加する場合の「楽しみ方」をいくつか挙げてみよう。

1.お祭りの意味・由来を知る

何のための祭りなのか、何を祈願するものなのか、といった祭りの意味や由来を知ることで、祭りのしきたりや所作をより深く理解でき、実際に目にした時の感動もひとしおとなる。

2.テーマを絞る

次に大事なのが、ひとつのテーマに絞って見ること。祭りの持つエネルギーは強く、圧倒されたまま祭りが終わっていた……ということがよくある。例えばお祭りのファッションなど目で楽しめるものに注目してみるのもよいし、かけ声やお囃子(はやし)など耳からの情報に注目するのも面白い。祭りのかけ声で一般的なのが、「ワッショイ」「セイヤ―」「ソイヤー」だが、「ワッショイ」には「和を背負う」という意味が込められているという説もある。

祭りファッションも人によって個性はさまざま。小物類などにも注目してみてはいかが?(撮影=山田 愼二、コデラケイ)

ほかにも神輿(みこし)に施された伝統工芸の技術、神輿の担ぎ方、踊り方といった要素も注目に値する。祭りごとに違うのはもちろん、参加する団体ごとにデザインや所作が違う。

同じ町会でもその場の雰囲気で担ぎ方が変化する。(撮影=山田 愼二、浅草三社祭にて)

神輿の細部にまでこだわって見てみるのも面白い。(撮影=コデラケイ)

3.臨場感を味わう

人びとの熱気やにおいはその場にいないと経験できない。言語をこえて人と触れ合うこともある。青森のねぶた祭りなど、一般の人でも体験できるケースもあるので、思い切って踊りの輪に飛び込んでみよう。

祭りを楽しむ上で重要なのが、スケジュール(タイムテーブル)やアクセス方法の把握だ。数日間にわたる祭りの場合、宿を事前に確保することも必要になる。祭り当日は、想像以上にたくさんの人が集まるため、思い通りに行動できない場合もある。見逃したくない場面は、観覧席を予約したり、事前に場所取りをするなど先回りする余裕も必要だ。

祭りには、数百万人もの人が訪れるものもあるので、混雑を見込んで下調べなども事前に済ませておこう。(撮影=コデラケイ)

観光客の方は、祭りを目的としたパッケージツアーなどを利用する方法もあり、宿や足(交通)、食事、観覧席などの確保が一度に解決する。また、祭りに夢中だと忘れがちだが、トイレの場所もしっかり確認しておきたい。

かなり激しい祭りもあり、見物人が巻き込まれてけがをしてしまうこともある。指示にしたがって安全に祭りを楽しんでもらいたい。

地域の絆を深め、人との結びつきを強くする祭りは、日本人にとってなくてはならない心のよりどころ。「祭りは生きがい!」「1年は祭りで始まり、祭りで終わる」と言う人も少なくない。実際に祭りに参加したり、祭りを楽しむ人と触れ合うことは、日本人が大切にしてきたものを理解することにつながる。ぜひ多くの方に祭りの魅力を生で味わっていただきたい。

(バナー写真撮影=山田 愼二)

▼日本全国のお祭りを紹介した地図はこちら

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