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特集 日本のウイスキー
ジャパニーズ・ウイスキーの魅力とは
ウイスキーライター、ブライアン・アッシュクラフト氏と川崎祐治氏に聞く

ティム・ホーニャック【Profile】

[2018.08.01]

日本で作られる最高級のウイスキーは、ますます世界の注目を集め、価格が急騰。入手がさらに困難になっている。ウイスキー愛好家のブライアン・アッシュクラフト氏と川崎祐治氏にジャパニーズ・ウイスキーの魅力を聞いた。

ブライアン・アッシュクラフト

ブライアン・アッシュクラフトBrian ASHCRAFT作家兼ジャーナリスト。1978年テキサス州ダラス出身。コーネル大学で歴史を履修。2001年大阪で英語教師の職につく。2003年から『Wired』に寄稿。2005年からビデオゲームニュースサイト『Kotaku』のフルタイムライター、現在シニアエディター。『ジャパンタイムズ』で連載コラム執筆。『Japanese Tattoos: History, Culture, Design』(2016)、『Japanese Whisky: The Ultimate Guide to the World’s Most Desirable Spirit』(2018)など5冊の著書・共著。

川崎 祐治

川崎 祐治KAWASAKI Yūjiウイスキー・ブロガー。広島県出身。日本のウイスキーのテイスティングに関する独立した情報源が少ないと感じ、2013年に日本語ブログ『そのウイスキーをもう一杯』を開設。北海道在住。

世界最高峰のウイスキー

毎年、酒類のニュース・ウェブサイトTheDrinksReport.com(英語)が、ワールド・ウイスキー・アワードで優れたウイスキーを表彰している。2018年のワールド・ベスト・ブレンデッドモルトウイスキーとワールド・ベスト・シングルモルトウイスキーに、日本の『白州25年』と『竹鶴17年』が選ばれたのは、決して驚くようなことではない。ワールド・ベスト・ブレンデッドウィスキー・リミテッドリリースも、まだ若くて小規模な日本のウイスキーメーカー、ベンチャーウイスキーの『イチローズ モルト&グレーン リミテッド エディション』が受賞した。

京都市内にあるバー、コルドン・ノワールにずらりと並ぶウイスキーボトル。

2003年にサントリーのシングルモルトウイスキー『山崎12年』がインターナショナル・スピリッツ・チャレンジの金賞を受賞して以来、日本のウイスキー造りの勢いはとどまるところを知らない。数々のコンテストでは、ジャパニーズ・ウイスキー部門も設けられるようになり、日本の蒸留所が世界の舞台で重要な地位を占めるようになってきている。2017年には「日本がスコットランドのお株を奪い、ウイスキーの世界リーダーに」という見出しのAP通信記事が英『インディペンデント』紙に掲載された。

メーカーにとって予想外だったのは、プレミアム・ジャパニーズ・ウイスキーに対する世界的評価の高まりとともに国内でハイボールブームが起こったことだ。それによってウイスキーの需要と価格が急騰。羽田空港の免税店の一つは、サントリー『響』を毎日12本置いているが、開店後10分で完売してしまう。また『Nikkei Asian Review』によると、東京・銀座では『山崎』のボトルが1本5万円で売られている。投資対象として日本のウイスキーを購入するケースもあり、サントリーは今年5月、原酒不足のため『響17年』(映画『ロスト・イン・トランスレーション』で取り上げられた)と『白州12年』の販売を休止すると発表した。日本では年代物ウイスキーがますます希少になり、よほど運が良くない限り、酒店で年数表記の国産ウイスキーを見つけることはないだろう。

琥珀色に輝くウイスキーグラス。大阪府島本町にあるサントリー山崎蒸留所にて

ジャパニーズ・ウイスキーの「日本らしさ」

日本のウイスキーに興味を持ち始めた人、または既に魅了されている人は、「いつになれば、再び手頃な価格で年代物のジャパニーズ・ウイスキーを楽しめるようになるのだろう?」「引っ張りだこの銘柄の代わりに楽しめるブレンド名は?」、そもそも「何をもってジャパニーズ・ウイスキーと言うのだろう?」などさまざまな疑問を持っているだろう。

ジャパニーズ・ウィスキーは特に独自の蒸留プロセスを採用しているわけではない。大半のメーカーは輸入大麦を原料としているし、年代物国産ウイスキーのほぼ全てが北米産か欧州産の樽(たる)材を使用している。にもかかわらず、ジャパニーズ・ウイスキーには日本らしさが感じられる。

ブライアン・アッシュクラフト氏と川崎祐治氏が共同執筆した新著『Japanese Whisky: The Ultimate Guide to the World’s Most Desirable Spirit(英文)』には、ジャパニーズ・ウイスキーの歴史と伝統、日本独自のウイスキー造り、ウイスキーのおいしい選び方に関するアドバイスがふんだんに盛り込まれており、写真とともに日本で使われている大麦やカスク(樽)から、ウイスキーバー、人気銘柄の特徴、さらには2004年に肥土(あくと)伊知郎氏が設立したベンチャーウイスキーの埼玉県秩父蒸留所(秩父市)など、将来有望な蒸留所の数々も紹介されている。

秩父蒸留所でウイスキーをサンプリングするベンチャーウイスキーの肥土伊知郎氏。

「『ジャパニーズ』という言葉には、日本人が作ったものという以上の意味が込められています」と39歳のアッシュクラフト氏は言う。「明治時代(1868–1912)に『和魂洋才』という言葉がはやりました。日本人の魂を失わずに西洋の技術を取り入れるという意味です。つまり、表面的には海外と同じ手法で作られたものでも、文化や言葉、食べ物、気候の違いによって生まれた日本独自の趣が備わっている。これは、ジーンズ、カメラ、自動車、電車など全てのものに当てはまります。出来上がった製品から日本の文化が感じられるのです」

神道の影響もある。ジャパニーズ・ウイスキーの蒸留所には、小さな神社しめ縄鳥居があり、浄化や清めることを重視するなど、酒と神道との深いつながりが見て取れる。日本初の蒸留所が京都と大阪の中間にある山崎に作られたのも、同地が古くから名水の里として知られていたからで、そのことは日本最古の歌集『万葉集』にも記されている。

また日本のウイスキーの場合、造り方に厳しい規制が課されていないことも有利に働いた。例えばスコットランドでは、オーク樽で少なくとも3年間熟成させたものでなければスコッチウイスキーと呼ぶことはできない。一方、日本では、ウイスキー造りの伝統を尊重しつつも、自生のミズナラやサクラ、クリ、ヒマラヤスギの樽を使うなど、いろいろな条件を試してみることができる。日本の蒸留プロセスには他にも特徴がある。大手メーカーのサントリーやニッカウヰスキーは、全てを自社で生産する傾向にあり、蒸留所間で協力し合うことはない。またニッカの余市蒸留所(北海道余市町)は、世界で唯一、石炭のじか火でたく蒸留器を使っており、琥珀(こはく)色の液体に独特の味わいをもたらしている。

ミズナラは世界で最も希少なオーク(ナラ)の一種。樹齢150年以上の大きさがなければウイスキーの樽として使用することができない。日本の蒸留所では1930年代からミズナラ樽が使われており、ミズナラで熟成させると、ココナツ、キャラ、シナモン、アジアで使われる香辛料などの風味がもたらされると言われている。

ジャパニーズ・ウイスキーには日本酒の伝統も影響している。ウイスキー蒸留所の多くは、元日本酒の蔵元が始めたもので、ベンチャーウイスキーの肥土氏も1625年から続く蔵元の21代目だ。ただし最も有名なのは、竹鶴政孝(1894-1979)だ。広島の有名な蔵元の息子で、ニッカを創設し、日本のウイスキーの父と呼ばれている

アッシュクラフト氏が、ニッカのチーフブレンダー、佐久間正氏に日本産ウイスキーのどこが特別なのかと尋ねている。「単に伝統を尊重するだけでなく、そこからさらに良いものを造り上げようとする熱意です。ニッカでは、スコッチウイスキーよりも優れたウイスキーを作らなければならないという使命感を皆が持っています。だからこそ、変化を加えることでおいしいウイスキーが生まれるのです。そこがジャパニーズ・ウイスキーたらしめている点でしょう」と佐久間氏は答えている。

北海道のニッカ余市蒸留所の単式蒸留器(ポットスチル)の上部にはしめ縄が施されている。

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  • [2018.08.01]

カナダ・モントリオール生まれのジャーナリスト。オタワのカールトン大学でジャーナリズムの学位を取得。共同通信社、NHK、CNet、IDGニュースその他さまざまなメディアで20年にわたって活動を続けている。著書に『英文版ロボット-Loving the Machine(原題:Loving the Machine : The Art and Science of Japanese Robots)』がある。東京に12年間在住。

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