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特集 日本のビール
再生に挑む日本のクラフトビールメーカーたち

ティム・ホーニャック【Profile】

[2018.12.25]

2018年4月、日本で110年ぶりに酒税法が大幅に改正され、初めて「ビール」の定義が変更された。税率の低下とそれに伴う消費量の増加を見込み、国内外の若く革新的な醸造家(ブルワー)たちがビール市場への参入を目指している。

10月とは思えないほど暖かなある日、神奈川県横浜市にある八景島シーパラダイスの一角に、日本全国からビール・ブルワー(醸造家)たちの販売テントがずらりと立ち並んだ。出店されたビールのメニューは、メロン、黒糖、しょうゆなど一風変わった原料が多いが「横浜金沢クラフトビール&グルメフェスタ2018」を訪れた人々は特に驚いていないようだった。

数十年もの間、「日本のビール」と言えば、国内有数の大手ビールメーカーが製造するピルスナータイプのペール・ラガーのことだった。しかし近年、ビール市場は急速に変貌を遂げつつある。その変化を担っているのは、ビール業界に変革をもたらそうと意欲に燃えるクラフトビールメーカーだ。酒税法の改正に伴って、ソバ、みそ、サツマイモ、サンショウなど新たな風味や原料の個性的なビールが次々に登場している。そして市場が変化していく中で、ビールの種類や消費者も多様化している。

ピーチ風味にメロン風味

このイベントは、水族館と遊園地の複合施設「八景島シーパラダイス」で開催され、ビール醸造が盛んな東京や神奈川だけでなく、遠方の沖縄、岡山、香川の醸造所を含めた合計17のクラフトビールメーカーが出店した。代表格は、オリーブ園としょうゆで有名な瀬戸内海の島、香川県小豆島の「まめまめびーる」だ。

まめまめびーるの創業者でオーナーの中田雅也氏は「これはインペリアルスタウト(エール)スタイルで造られたドライスタウトビールです」とハーフパイントをプラスチックカップに注ぎながら説明した。「うちの醸造所では常に小豆島の素材を使っています。これはしょうゆで、こくと深みと苦味があります」

大阪出身の中田氏は、米国滞在中にブルックリン・ブルワリー社の主力商品「ブルックリンラガー」に魅せられて、2017年4月に小豆島で唯一のビール醸造所「まめまめびーる」を共同設立した。スタウトビール以外にも、イチゴ、デコポン(かんきつの一種)、コリアンダーの種子、ローズゼラニウムなどさまざまなハーブを使用したビールを造っている。

「横浜金沢クラフトビール&グルメフェスタ2018」で来訪者を出迎えるカラフルなメニューの数々(撮影= ティム・ホーニャック)

もう一人、ビールをこよなく愛し、さまざまな素材を使って未知の味を探究し続けているのが、地元横浜市にある「南横浜ビール研究所」醸造責任者の荒井昭一氏だ。横浜金沢ビアフェスタのようなイベントで、ニューイングランドIPA製法(米国北部ニューイングランド地方で造る苦味が少なくて香り豊かなビール)を応用したメロン風味の「メロンすぎるエール」をたびたび出品している。

「とてもフルーティーなので、クラフトビールのイベントで大人気です」と荒井氏は言う。「ビールを飲み慣れていない人やあまり飲めない人にも受けがいいですし、ピーチ風味のビールも人気があります」

南横浜ビール研究所のメロンビール(撮影= ティム・ホーニャック)

真のビール革命

中田氏と荒井氏が造る醸造酒は、2018年4月まで、日本の法律上、ビールではなく「発泡酒(ビール類似商品)」と定義されていた。発泡酒とは通常のビールよりも麦芽比率が低い酒類、または麦芽、糖類、ホップ、コメ、トウモロコシ、コーリャン、ジャガイモ、でんぷんなど法律で定められているの原料とは異なるものを用いる酒類を指し、ビールとは別の税区分だった。一般的な350ミリリットル缶の場合、ビール(1缶約200~300円)には77円もの酒税がかかるのに対し、発泡酒の酒税はわずか47円だった。発泡酒は、酒メーカーに、価格に敏感な消費者にアピールする機会をもたらしたのだ。

フルーティーな欧州産の輸入ビールから麦芽比率67%未満の国産醸造酒まであらゆる商品が発泡酒に分類されるようになり、発泡酒には「コンビニで売られている安い酒」というイメージが定着していった。ビールよりも安価な発泡酒は庶民の味方として広く親しまれるようになったが、ビール通にはあまり魅力的な酒ではなかった。

しかし今年、政府は110年ぶりにビールの酒税法を大幅改正し、麦芽比率の条件を50%に引き下げるとともに、果実、香辛料、海藻、貝類、かつお節などを副原料として使用することを認めた。また、ビール、発泡酒、そして麦芽を使わないため最も税率が低い麦芽なしの第3のビールとの間の税率差が縮小されることになった。

こうして中田氏と荒井氏のビールは正式にビールの仲間入りを果たしたのだ。

「クラフトビール業界は今、熱くなっています」と荒井氏は述べる。「品質と味わいを高めるだけでは不十分です。アメリカやドイツのビールを手本にするのではなく、日本らしい独自の商品を造り出すことが求められています」

移りゆく市場

日本のクラフトビールブームは今に始まったことではない。1994年、政府はビールの醸造免許取得に必要な最低製造量を緩和し、いわゆる「地ビール」または「マイクロブルー」の一大ブームが巻き起こった。一夜にして数百ものマイクロブルワリーが誕生したが、その多くは後に閉鎖された。人目を引くラベル・名称の地ビールを売り出して温泉や観光地に客を呼ぶ込むことが主な目的で、しっかりとした醸造の専門知識に基づいて造られておらず、ビールの品質が悪かったからだ。これに対して最近は、品質・実験・食べ物との相性がより重視されるようになった。「地ビール」が「クラフトビール」という言葉に置き換えられるようになり、新たなブルワリーやブルーパブが毎月のように誕生している。現在クラフトビールメーカーは日本国内に300以上あり、国内市場の2%を占めている。

東京商工リサーチの調査によると、主要クラフトビールメーカーの2018年1~8月の売上高は前年比で1%上昇した。小幅に増加してはいるが、日本の大手ビール会社にとって決して明るい状況とは言えない。なぜなら、アサヒ、サッポロ、キリン、サントリー、オリオン各社のビール、発泡酒、および麦芽ゼロの第3のビールを合計した今年度上期売上高は、2017年同期比3.6%の減少だった。6半期連続の減少で、過去最低を更新した。

このような中、日本の大手ビール会社が、新商品、ブルーパブ、クラフトビール子会社設立などを通してクラフトビール業界での存在感を高めようとしている。例えば、キリンは15年に100%出資の子会社「スプリングバレーブルワリー」を設立し、東京のおしゃれな街・代官山や横浜、京都にブルーパブをオープンした。

2018年8月に東京の銀座ソニーパークにオープンした「“BEER TO GO”by SPRING VALLEY BREWERY」のカウンター(撮影= ティム・ホーニャック)

2018年8月、スプリングバレーブルワリーは、東京・銀座にあるソニー銀座ビル跡地「銀座ソニーパーク」の地下にクラフトビール&デリスタンド「BEER TO GO」をオープンした。ファストフード店のような外観だが、ターゲットにしているのは普通の居酒屋とは異なる雰囲気を楽しみたいオフィスワーカーだ。同店で販売しているのは約10種類のクラフトビールで、ラインナップには、ユズとサンショウを使ったジャパニーズホワイトビール「Daydream(デイドリーム)」や、ラズベリー果汁を加えたフルーツビール「Jazzberry(ジャズベリー)」などがある。これらは指定原料以外のものが5%以上含まれているため発泡酒に分類されるが、ミニハンバーガーやサラダ、フライドポテトを持って並んでいる客たちはそんなことなどお構いなしのようだ。

「今回の酒税法改正は、ビールをより楽しむ絶好の機会です」とスプリングバレーブルワリーのマーケティングマネジャー鈴木雄介氏は指摘する。「日本人は、ビールとは黄色くて泡のある冷たい飲み物というイメージを持っています。これは典型的なピルスナータイプで、クラフトビールとは全くスタイルが異なります。今こそ多様な種類や風味を持つ日本独自のクラフトビールを生み出すチャンスです」

スプリングバレーブルワリーがオープンした「BEER TO GO」の飲み比べセット(撮影= ティム・ホーニャック)

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  • [2018.12.25]

カナダ・モントリオール生まれのジャーナリスト。オタワのカールトン大学でジャーナリズムの学位を取得。共同通信社、NHK、CNet、IDGニュースその他さまざまなメディアで20年にわたって活動を続けている。著書に『英文版ロボット-Loving the Machine(原題:Loving the Machine : The Art and Science of Japanese Robots)』がある。東京に12年間在住。

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