ニッポンの就活事情

上原 良子【Profile】

[2016.04.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

2015年春に卒業した大学生のうち、就職を希望した学生の就職率は96.7%に達し、リーマンショック前の水準に回復した。景気低迷からの本格的回復を目指す日本であるが、数字を見る限り、ほとんどの学生は仕事を見つけることができる状況にある。

就職活動、いわゆる「就活」のよくある流れは、大学3年生あたりから将来のキャリアを考え、学内外で開催されるセミナーに参加し、4年生になって企業の求人に応募、選考過程を経て、内定を獲得し、卒業と同時に就職する、というパターンである。この採用選考の日程が、官民学一体となって横並びで設定されている点は、日本的な慣行であろう。

日本の大学には、就職課やキャリアセンターが設置されており、企業からの求人情報の紹介や、就職セミナー、個別面談など、手厚い指導が行われている。ある意味で、教育・研究とは別に、社会常識が不足している「コドモ」を、短期間で「オトナ」へと育成する重要な教育手段となっている。大学で就職部長を務めた私も含め、企業経験のない大学教員に就活指導は無理なので、専門のアドバイザーが指導にあたる。少子化の今日、学生確保は至上命題である。大学別の就職状況はメディアにより報じられ、重要なセールスポイントとなるため、いきおい就職支援は手厚いものとなる(もちろん、過剰な支援は学生の自主性を損ねるのであるが)。

就活の中で、それまで受け身でユルかった学生が、突如礼儀正しく敬語を話し、リーダーシップを見せ始める姿に毎年驚かされるものである。「常識」のある社会人へと脱皮する代わりに、何かを失っているのかもしれないが、とりあえずニッポンの「ビジネスパーソン見習い」が誕生するのである。

就活をめぐる混乱

2015年夏に繰り広げられた「2016年就活」は大混乱に陥った。というのも経団連が提示した「採用選考に関する指針」のもと、採用選考日程が「後ろ倒し」されたからである。従来は、3年生の12月1日から説明会やエントリー等の採用広報活動が始まり、新学期の始まる4月に採用選考活動(いわゆる面接)が解禁されていた。そのため授業期間中に4年生の就職活動が重なり、教育が機能不全に陥っていた。そこで大学の苦言を受けて、政府は企業側の広報活動を3月1日、面接を夏休み中の8月1日以降に「後ろ倒し」することを提案し、経団連加盟企業を中心に日程を調整したのであった。

しかし、このシステムは早々に混乱に陥った。企業の側は、当然早くよい学生を確保したいが、指針を遵守せざるを得ない。一方、経団連傘下ではない外資系企業は、指針に縛られず、早々に優秀な学生を採用した。同じく経団連の会員ではない中小企業も早々に採用を開始したが、実力主義で高給も期待できる外資系と異なり、有名企業・大企業を志望する学生の安定志向を反映して、なかなか人が集まらなかった。

そのため学生は就活の長期化に疲弊し、企業は目標人数を達成できず、フラストレーションのみが残った。その結果、「2017年就活」では、採用活動を2カ月「前倒し」して6月1日スタートとした。とはいえ、どの時期に設定しても問題は噴出するだろう。一斉採用という形態の限界ともいえる。

売り手市場:労働力人口の不足とオワハラ

こうした混乱の背景には、日本経済の回復とともに、「売り手市場」という状況がある。確かに日本の労働市場は近年大きく様変わりした。非正規雇用は4割に達し、平均所得も減少傾向にある一方、少子高齢化による労働力不足が深刻化している。保守的なイメージの安倍内閣でさえ、「一億総活躍社会」や移民の受け入れ緩和策などに取り組んでいる状況である。企業にとっては差し迫った問題だ。

売り手市場を背景に、企業からの評価が高い学生はいくつも内定を獲得している。しかし企業の人事部には胃の痛い状況でもある。優秀な学生の獲得を求められる一方、学生は気軽に内定を辞退し、人員の確保がままならない。「企業も学生を選んでいるのだから、学生も企業を選ぶのは当然」との強気の声も聞かれる。

こうした中で2015年の流行語ともなったのが「オワハラ」(就活終われハラスメント)。人事部が内定を出した学生に、以後の就活を終えるよう強要する新手のハラスメントである。学生からするとハラスメントであるが、採用を担当する側にとっては必死だ。80年代末のバブル時代には、内定した学生が他社に逃げないよう「研修」と称してリゾート地にカンヅメにしたという夢のようなエピソードもあったが、近年の日本企業にそこまでの余力はない。また学生が内定辞退を報告しに行ったら、その会社の人事担当者にお茶をかけられた、という昔話もあった。しかし今日、就活生が企業の潜在的顧客でもあるという認識が高まり、あまり荒々しいことはできなくなった。学生は即座にツイッターや掲示板に書き込むので、一瞬にして悪い企業イメージが拡散するリスクがある。

この記事につけられたタグ:
  • [2016.04.28]

フェリス女学院大学国際交流学部教授。1965年福岡生まれ。専門はフランス国際関係史。1989年東京女子大学文学部史学科卒業。1994年パリ第一大学大学院現代国際関係史DEA修了。1996年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。吉田徹編『ヨーロッパ統合とフランス、偉大さを求めた1世紀』(法律文化社、2012年)、田中孝彦・青木人志編『〈戦争〉のあとに/和解と寛容』(勁草書房、2008年)等に、ヨーロッパ統合やグローバリゼーションにおけるフランスの政治・外交に関する論考を発表。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告