日本の政策停滞の要因
「ねじれ」国会

竹中 治堅【Profile】

[2012.05.21] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS |

近年の「ねじれ」国会は、与野党の対立をより激しくし、法案成立・政策決定を停滞させている。その要因の一つとして挙げられるのが、参議院の存在である。参議院が日本の政治過程に及ぼす影響について竹中治堅教授が解説する。

野田内閣は3月30日に消費税を引き上げるための消費増税関連法案を閣議決定した。関連法案は5月8日から審議入りした。しかし、簡単に成立する見込みはない。また、赤字国債を発行するために必要な特例公債法案や年金の財源に交付国債をあてるための国民年金法案は成立の見通しが立っていない。

以上は日本の政策が停滞していることの一例である。「nippon.com」においてもすでに待鳥聡史氏細谷雄一氏が停滞の要因を挙げている。彼らの指摘も踏まえて、ここでは停滞の要因をさらに分析していきたい。その第一の要因として参議院の存在を取り上げたい。参議院が日本の政治過程に及ぼす影響について説明し、なぜ政策を停滞させる要因となっているのか議論したい。

参院の独特な地位

参議院が政策を停滞させる背景には日本の統治システムにおける参議院の独特の地位がある。

一般に、日本は統治システムとして議院内閣制を採用していると考えられている。議院内閣制の本質とは行政府が立法府の信認に依存していることにある。つまり、内閣は議会の多数派から支持を得ることが成立および存続の条件である。一方、議会が内閣不信任決議案を可決した場合には、内閣は総辞職か解散によって国民に信を問うことを迫られる。

行政府と立法府の意見が対立した場合、これを解消する仕組みを用意することで、国政が停滞することを避けさせようとしているのが議院内閣制の特徴である。

日本の場合、内閣と衆議院の間では議院内閣制の関係が成立している。内閣は衆議院の首相指名投票で多数を得た者が組織する。そして、衆議院が内閣不信任決議案を可決した場合、内閣は衆議院の解散か総辞職を迫られる。また衆議院は不信任決議案可決の場合以外にも衆議院を解散することができる。

しかし、このような関係は内閣と参議院の間では成立しない。参議院も首相指名投票を行うが衆議院の投票の結果が優先する。参議院は内閣不信任決議案を提出することはできない。一方、参議院は解散されることはなく、参議院議員は6年間の任期が保障されている。

それでは、内閣と参議院の意思が対立した場合にこれをどう解消できるのか。日本国憲法は衆議院を参議院に優越させることにより国政の停滞を避けようとしている。

たてまえは衆院優位、実質は衆参対等

しかし、実際にはこれは難しい。予算案や条約案については衆議院の議決が参議院の議決に優先する。しかし、法律案については問題が残る。日本国憲法の下、衆議院が可決した法律案を参議院が否決あるいは修正した場合、衆議院が出席議員の三分の二以上の多数をもって再可決した場合には、法律案は原案通りに成立する。しかし、与党が衆議院で三分の二以上の議席を確保することは困難である。1947年5月の参議院創設以来、与党が衆議院で三分の二以上の議席を確保できたのは、1999年11月から2000年6月、2005年9月から2010年5月にいたるまでの時期に過ぎない。

結局、法律案を制定する上で衆議院と参議院は実質的に対等なのである。憲法は両院協議会も衆議院と参議院の対立を解消するための制度として準備する。しかし、両院協議会を通じて妥協案を作ることも現実的には難しい。

このため、特に国会が「ねじれ」の状態——与党が参議院で過半数を確保できなくなると内閣は法案を成立させるのに苦しむことになる。

近年、自民党政権、民主党政権共に「ねじれ」国会への対処に難渋している。自民党は2007年7月の参議院選挙に大敗し、この結果、連立与党の公明党と合わせても参議院で過半数の議席を確保できなくなる。2007年9月に成立した福田内閣や2008年9月に誕生した麻生内閣は「ねじれ」国会に直面し、税制改正関連法案や海賊対処法案の成立に苦労する。

2009年9月の政権交代とともに「ねじれ」は解消する。ところが、2010年7月の参議院選挙で民主党が敗北したために国会は再び「ねじれ」になる。このため菅内閣は子ども手当法案を成立させることができず、子ども手当の内容を大幅に見直すことを余儀なくされた。また特例公債法案を退陣と引き換えに成立させた。野田内閣にとって消費増税関連法案の成立が容易でない理由の一つは「ねじれ」国会にある。自民党が関連法案に賛成する姿勢を見せていないからである。

「ねじれ」国会は過去にもあった。しかしながら、近年の「ねじれ」国会において与野党はより激しく対立し、このために政策決定が滞ることになっている。与野党対立が激化している背景には2000年以降、衆参両院における二大政党化がある。

二大政党化が進んだために、二大政党は衆参両院を横断する形で政権をめぐり抗争するようになった。野党第一党は「ねじれ」を利用して、内閣の政策立案を妨げ、次期総選挙での自らの立場を有利にしようとするのである。

実質廃止論の「維新の会」

自民党は「ねじれ」を利用し、民主党の看板政策であった「子ども手当」の実現を阻止した。消費税増税法案についても「ねじれ」を次期総選挙をにらんだ民主党との駆け引きに使おうとしている。自民党は次期総選挙の公約として消費税率を10%とすることを掲げる方針である。にもかかわらず、消費増税法案に容易に賛成しようとしないのは、自民党の一部に法案を早期解散との取引材料に使おうという考えが強いからである。

橋下徹大阪市長率いる「維新の会」が一院制論を打ち出したことが注目を集めている。一院制論とは実質的には参議院廃止論である。「維新の会」の主張は世論の参議院への風当たりの強さを象徴している。この背景に参議院のために政策が停滞しているという不満の高まりがあることは間違いない。

たしかに「ねじれ」国会のために政策は停滞している。しかし、その背景に衆参をまたぐ形での二大政党化があることに注意する必要がある。このことを踏まえて、現状をどう改めるべきかについては別の機会に論じたい。(2012年5月11日 記)

タイトル背景写真:久山 城正

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  • [2012.05.21]

nippon.com 編集企画委員。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

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