ロンドン五輪メダルラッシュ 東京招致に生かす戦略を

二宮 清純【Profile】

[2012.08.22] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

8月12日に閉幕したロンドン五輪。日本選手団は13競技で史上最多の38個のメダルを獲得した。スポーツジャーナリストの二宮清純氏が、今大会の結果と東京五輪招致の課題を分析する。

日本、史上最多のメダル38個

オリンピックが「国家間の競争ではない」ことは、オリンピック憲章の中で、高らかに謳(うた)われている。しかし、国・地域別のメダル獲得数に一喜一憂するのは、日本だけではない。

ロンドン五輪で、ホストカントリー(オリンピックは都市の開催だが、実質的には国家の支援なくしては成立しない)の英国は29個の金メダルを獲得し、米国、中国、ロシアの“3強の一角”を崩し、3位に入った。ちなみに29個の金メダルは1908年のロンドン大会に次ぐ個数だった。

日本に目を移すと、日本オリンピック委員会(JOC)が大会前に掲げた「金メダル数で世界5位以内」の目標こそ達成できなかったが、金7、銀14、銅17と合わせて38個のメダルを獲得した。アテネ五輪の37個を上回る史上最多のメダル数だった。

ただ、日本はアジアにおいて、金38、銀27、銅23の中国、金13、銀8、銅7の韓国の後塵(こうじん)を拝した。「人口約13億人の中国はともかく、人口約5000万人の韓国に負けるのは納得がいかない」。そう話した政治家もいた。

順位を決定するにあたっては、金メダル数が優先される。極端な話、銅100個よりも銀1個、銀100個よりも金1個の方が上と見なされるのだ。その是非はともかくとして、これまでの慣例に従って順位付けを行うと、韓国5位、日本は11位という順位になる。金メダルの価値は、かくも重いということだ。

しかし、だからと言って「韓国に負けた」とネガティブになるのは早計だろう。日本は13競技でメダルを獲得した。幅広い競技でメダルを獲得できたことは、つまり、それだけ日本のスポーツの層が厚いということである。

ロンドン五輪 国別メダル獲得順位

順位 国名 金メダル 銀メダル 銅メダル 合計
1 米国 46 29 29 104
2 中国 38 27 23 88
3 英国 29 17 19 65
4 ロシア 24 26 32 82
5 韓国 13 8 7 28
6 ドイツ 11 19 14 44
7 フランス 11 11 12 34
8 イタリア 8 9 11 28
9 ハンガリー 8 4 5 17
10 オーストラリア 7 16 12 35
11 日本 7 14 17 38
12 カザフスタン 7 1 5 13
13 オランダ 6 6 8 20
14 ウクライナ 6 5 9 20
15 ニュージーランド 6 2 5 13
16 キューバ 5 3 6 14
17 イラン 4 5 3 12
18 ジャマイカ 4 4 4 12
19 チェコ 4 3 3 10
20 北朝鮮 4 0 2 6

 

選手強化は「日本のやり方」で

近年、日本国内において中国や韓国型の強化策、すなわち「選択と集中」を導入すべきではないか、という声が大きくなりつつあるが、それでは「国家間の競争」に拍車がかかるだけだ。

「日本には日本のやり方がある」。そう考えるべきではないだろうか。

その代表例が男子フィギュアスケートだ。2010年のバンクーバー五輪では高橋大輔が銅メダルに輝いた。日本が同種目に初めて代表選手を送り込んだのは1932年のレークプラシッド五輪。バンクーバー五輪を含め、これまでのべ29人の代表がリンクに立ったが、表彰台にはなかなか上がることができなかった。もし中国や韓国のように「選択と集中」を強化の軸に定めていた場合、「メダルが狙えない競技種目にこれ以上、資源を投入するのはバカげている」となり、早い時点で切り捨てられていたかもしれない。

日本の男子フィギュアはオリンピックという畑に種を蒔き、果実を手にするまでに実に78年の歳月をかけた。日本のスポーツ界は、このことを誇りに思うべきだろう。

メダルラッシュを東京五輪招致に生かせるか

38個という今回の日本のメダル数に話を戻そう。連日のメダルラッシュにより、日本中が盛り上がったことで「2020年東京五輪招致の追い風になるのではないか」と話す招致委員会の関係者もいた。

周知のように2020年の大会開催地は東京、イスタンブール(トルコ)、マドリード(スペイン)の3都市に絞られた。来年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われる国際オリンピック委員会(IOC)総会で開催都市が決定する。

当初は2000年大会から4大会連続で立候補し、今回が5度目の挑戦となるイスタンブールを本命視する向きが少なくなかった。ここには「イスラム圏初」という金看板がある。しかし、イスタンブールには他の2都市にはない懸念材料がある。それは治安面での不安だ。トルコと国境を接するシリアは内戦状態にあり、終息のめどは全く立っていない。投票権を持つIOC委員も、この点は考慮せざるを得ないだろう。

一方、マドリードには経済面での不安が付きまとっている。過剰な投資が国家財政に影響を及ぼした例としては2004年のアテネ五輪が思い出される。

では東京はどうか。IOCが独自で行った各候補地での世論調査によると、イスタンブール73%、マドリード78%に対し、東京の支持率は47%と半数にも達していない。(※1)これは他ならぬ日本人自身が「なぜ東京なのか?」「なぜ2回目なのか?」という問いに対し、明確な答えを持っていないことの表れと言えるだろう。

ロンドン五輪の開会式に野田佳彦首相、石原慎太郎東京都知事の姿はなかった。本当に五輪を必要としているのなら、政治家自らが先頭に立つべきではなかったのか。JOCにはロンドンでのメダルラッシュの“余熱”を最大限に生かす戦略が求められている。

(2012年8月20日 記)

タイトル背景写真=ロンドン五輪日本選手団帰国記者会見に参加したメダリストたち(2012年8月14日、東京都港区、産経新聞社提供)

(※1)^ 国際オリンピック委員会、Games of the XXXII Olympiad 2020 Working Group Report(2012年4月)

 

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  • [2012.08.22]

1960年生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック、サッカーW杯、ボクシング世界戦、そしてメジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。東北楽天ゴールデンイーグルス経営評議委員。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーター、講演活動と幅広く活動中。最新著書は『プロ野球「衝撃の昭和史」』(文春新書/2012年)、『プロ野球の職人たち』(光文社新書/2012年)、『天才たちのプロ野球』(講談社/2012年)。

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