地球を俯瞰する安倍外交―谷内正太郎内閣官房参与インタビュー(2)
安倍政権の「右傾化」批判は当たらない
[2013.07.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

安倍政権の外交参謀役・谷内正太郎内閣官房参与は、単独インタビューの後半で、日米関係や日ロ関係などをめぐる安倍外交の課題を語った。

谷内正太郎

谷内正太郎YACHI Shōtarō内閣官房参与。1944年生まれ。1969年、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了後、外務省に入省。外務省総合外交政策局長、内閣官房副長官補などを経て、2005年1月から2008年1月まで外務事務次官。退官後、早稲田大学、慶応義塾大学、東京大学、東京芸術大学で教鞭(きょうべん)をとるとともに、2012年12月から現職。

安倍晋三政権の外交参謀役である谷内正太郎内閣官房参与は、「nippon.com」との単独インタビューの中で低迷する日ロ関係について、「プーチン大統領の間に(北方領土)問題を片付けるという決意を持って交渉に臨むべきだ」と強調した。また、同大統領が北方領土問題で述べた「引き分け」決着論についても、「引き分けなど飲めないと言うのではなく、どういう形であれば引き分けになり得るのか」と述べ、大きな構図の中で検討する必要性がある考えを示した。今後の安全保障の全体像では、防衛大綱の改定、集団的自衛権の行使を可能にすることなどが重要との認識を述べた。

集団的自衛権の行使、NSC設置など実現へ

——安倍首相は今年2月に訪米し、最大の焦点だった環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の問題で、農産品の貿易上の例外を米国に認めさせて、交渉参加を表明しました。民主党政権で揺らいだ日米関係の修復に成功した印象を強く与えました。一方で、沖縄の米軍普天間飛行場移設など未解決の問題も多くあります。日米関係で優先すべき課題は何でしょうか。

谷内 普天間飛行場の移設問題については、移設先となっている沖縄・名護市辺野古沖の埋め立て申請を沖縄県知事に提出しました。集団的自衛権の問題も、憲法解釈を変えて行使を可能にすることが、参議院選挙後、時間をおかずに進むと思います。外交・防衛の司令塔たる国家安全保障会議(NSC)の設置も、6月までの通常国会で法案が継続審議になったので、参院選後の臨時国会で処理が進むではないかと思います。これらは、米国は大きな声では言いませんけども、期待している事柄です。

安倍政権の「右傾化」は、政治化された論議

——安倍訪米の際、歴史認識問題の修正をめぐって、米国内に日本の“右傾化”懸念の声が出ました。米国議会の報告書も、首相について「ストロング・ナショナリスト」と指摘しました。現在は、少し沈静化したと思いますが、完全に懸念が払拭(ふっしょく)されてはいません。

谷内 米国だけでなく他の国でも、安倍政権は右傾化するのではないかという議論があります。しかし、そこは訂正しておく必要があります。あえて言えば、安倍政権は、戦後日本のどちらかと言うと左・リベラルの立ち位置から真ん中に行こうとしているのです。もし、集団的自衛権行使の話やNSCの話が右傾化だとすると、米国はもう既に右傾化している。韓国はどうなのかと。今やろうとしていることを「右傾化」と言うのは、非常に政治化された議論だと思いますね。

安全保障では防衛大綱の改定が重要

——しかし、国民には日本の安全保障の全体的な姿がまだ見えているわけではありません。安倍政権は全体像をどう描いているのですか。

谷内 そこは、今まさに国家安全保障会議をなるべく早く成立させる努力をするとともに、基本的な国家外交・安全保障戦略を国民に分かる形で作ろうとしているところです。その中には、防衛大綱の新版を作る動きがあります。今日的な状況を踏まえ、外交・安全保障政策の大筋、骨格を作るということだと思います。

——普天間移設問題は、埋め立て申請しても予断を許しません。安倍政権は長期政権になりそうですが、本当に目鼻をつけることができるでしょうか。もし分岐点になるとすれば、何がきっかけになるのでしょうか。

谷内 沖縄県知事がやがて結論を出されるわけで、その結論次第による部分があると思います。正直言って、今の辺野古地区以外に妙案があるという話ではありません。もし不許可になれば、移転を諦めるのか。しかし、そうならないだろうと思います。安倍首相が判断する話ですが、だから今の段階では許可が正式に下りることを期待するということです。

プーチン時代に決着の構えで日ロ交渉

——こう着状態の日ロ関係ですが、首相は10年ぶりにロシアを公式訪問しました。その結果、冷却していた関係がようやく動き出す気配です。北方領土問題がネックですが、二島返還論だとか、プーチン大統領の「引き分け」発言なども出ています。

谷内 ロシア側は参院選の結果を見て、真剣に交渉に臨むかどうか判断するのではないでしょうか。個人的な持論ですが、日本側はプーチン大統領在任中に問題を片付けるという決意を持って交渉に臨むべきだと思います。また、プーチン大統領が「引き分け」と言っているときに、「引き分けなんて飲めない」と言うのではなくて、どういう形であれば引き分けになり得るのかを考えるべきです。両国民全員が賛成することはあり得ないので、マジョリティーが納得し得るなら、それが引き分けでしょう。そのためには、領土問題以外のエネルギー、環境などいろいろな形の協力や、大きな戦略的な構図が必要。そういうものができてくれば全体として引き分けだなとなる。どちらも大勝ではない構図を作っていくということじゃないかと思いますね。

インドは「多角的、戦略的外交」の柱

——南アジアのインドはどうですか。5月末にマンモハン・シン首相が訪日しました。

谷内 非常にいい会談だったようですね。インドは大変な親日で、日印間にはシリアスな対立要因がない。しかも、中国を追いかけるライジングスターです。非常に大事な国で、日印関係を深めていく必要があります。インドは日本の“多角的・戦略的な外交”において大きな柱の一つです。

——安倍首相は4月末からの大型連休中に中東諸国を歴訪しました。サウジアラビアとの首脳会談は非常に良かったようですね。エネルギー協力だけでなく、人的交流、原子力協力など含めて。

谷内 中東情勢はシリア、イランなど難しい問題があり、複雑な歴史的経緯もある。日本が乗り出せば何とかなるという地域ではありません。他方、日本は中東では“手が汚れてない”ところがある。親日的な国も多く、もっと日本は中に入っていく必要があります。その一つは、「平和と繁栄の回廊」と言われるパレスチナのエリコ(ジェリコ)地域開発計画です。非常に大事な構想で、日本、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンが参加する共同プロジェクト。イスラエル、パレスチナが共に参加する数少ないプロジェクトで、日本が積極的な役割を果たせれば、いろいろな波及効果が期待できます。安倍首相にもさらに推進していただきたいと希望しています。

 TPP、RCEP、日中韓FTAの3つに軸足を置く日本

——経済外交についてですが、アベノミクスの日本再生戦略の中で経済外交を重要視し、自ら日本のセールスの先頭に立つと言われています。その戦略をあらためて伺いたい。 

谷内 その柱の一つはTPPですね。日本は16カ国で構成する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓自由貿易協定(FTA)という、アジア・太平洋地域の多国間経済統合の主要な枠組み全てに参加しています。そうした国は日本だけで、まさに地域経済統合の“要の国”であり、大きな役割を果たすことになります。もちろん農業など国内的な困難もあるので十分な手当てをしつつ、アジアの成長ダイナミズムを自ら取り込んでいくポジティブな姿勢が大事。また、安倍首相は原子力発電所も含むインフラ輸出の売り込みを中東などで率先して行ってきました。日本は今でも世界第3位の経済大国で、力があります。しかも、43年間、世界第2位の経済大国、技術大国としての蓄積も大きい。日本企業は多くの宝の山を抱えているので、実際の経済成長につなげていける底力は十分にあると思っています。

アフリカで日欧協力も

——財政・金融危機に揺れた欧州はどうですか。首相は北アイルランドでのG8首脳会議(サミット)の後、ロンドンのシティーで演説してアベノミクスをアピールし、評判も良かったですが、安倍政権の欧州外交はどうなるのですか。

谷内 歴史的に言うと、戦後、欧州の旧西側陣営諸国と日本は共に民主主義国として、友好関係を当然視していた部分がある。日本から見れば自由、人権、民主主義のマザーランドだから、尊敬の念もある。しかし、今のような欧州の国際的地位の相対的低下を考えると、本来親友であった関係をもう一度、未来志向の親友関係にしていく必要がある。欧州諸国から見れば、停滞していた日本経済がアベノミクスでよみがえるのではないかという期待感が非常に大きい。政治、経済両面でさらに関係を深めていくべきです。

6月に第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が横浜で開催され、安倍首相はアフリカ39カ国の首脳と会談しましたが、アフリカ諸国に対しては欧州の影響力も強いわけで、日本がさらにアフリカに進出し、発展に協力していくことは欧州も歓迎するでしょう。大きな可能性を持つアフリカの将来を考えると、日本は欧州と十分なコーディネーションをしていく必要がありますね。

——最後に中南米はどうですか。

谷内 TPP交渉には、中南米からメキシコ、ペルー、チリが参加していますが、この3カ国をはじめとして、中南米諸国との関係はとても大事です。ただ、安倍政権の「地球を俯瞰(ふかん)する外交」の中での中南米の位置付けはまだ十分にできていないところもあります。そういう意味で中南米での布石をどう打つのかは今後の大きな課題ですね。 

安倍外交の足跡(2013年1月~6月)

日程 訪問国 主要なポイント
1月16日~19日 ベトナム、タイ、インドネシア 東南アジア重視の安倍ドクトリン「対ASEAN外交5原則」
2月21日~24日 米国
2月22日 日米首脳会談
日米同盟の再確認、TPPに関する共同声明発表
3月30日~31日 モンゴル 日本とモンゴルの「戦略的パートナーシップ」確認
4月28日~5月4日 ロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ 日本の首相として10年ぶりのロシア公式訪問。「日露パートナーシップの発展に関する共同声明」を採択。
中東3カ国とはエネルギー・経済協力、安全保障、文化・人的交流などの多層的関係構築で合意
5月24日~5月26日 ミャンマー  日本の首相として36年ぶりの公式訪問。両国関係の強化と経済支援で合意
6月15日~20日

ポーランド、英国、アイルランド

6月16日 「ビシェグラード4カ国(V4=ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)+日本」首脳会合(ポーランド・ワルシャワ)

6月17日~18日 G8サミット (北アイルランド・ロックアーン)

6月20日 日・アイルランド首脳会談

「V4+日本」協力10周年で「21世紀に向けた共通の価値に基づくパートナーシップ」の確立で合意
G8サミットで「アベノミクス」をアピール

(インタビュー日=2013年6月27日、聞き手・構成=原野城治・一般財団法人ニッポンドットコム代表理事、写真撮影=花井智子)

谷内正太郎内閣官房参与インタビュー(1)=「日中関係」「日韓関係」などはこちら

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