「荷物を運べない」宅配便の危機:無料サービス見直し、新たなインフラ構築を

小川 孔輔【Profile】

[2017.05.15] 他の言語で読む : ENGLISH |

ネット通販の拡大で荷物が増え続ける宅配便。客の利便性と引き換えにドライバーは長時間労働で疲弊し、荷物を運べなくなる危機に直面している。物流やサービス業に詳しい筆者が事態の打開策を提案する。

最大手・ヤマト運輸が荷物引き受け抑制へ

日本の宅配便は、配達時間の指定や無料再配達などのきめ細やかなサービスを売りに、成長してきた。ところがこの2月、シェア50%で業界1位のヤマト運輸の労働組合が経営陣に対して、荷物の引き受け抑制という異例の要求を春闘で行った。経営側は昼の時間帯(12~14時)の配達停止を決断し、4月には27年ぶりとなる基本運賃値上げを発表した。

ヤマト経営陣は、2016年度決算が減益見通しであることからも、値上げとサービス見直しに踏み切ったと思われる。通信販売業者などの大口顧客や消費者からの反発が懸念されたが、実際には通販業者も消費者も運賃やサービスの改定に同意する気配を見せている。大口向けの値上げには、佐川急便も追随する方針だ。

荷物が運べないという現実

ヤマト労使が今回の措置を取ったのは、宅配便で今以上の荷物を運べなくなりつつあるからだ。同社の取り扱い個数は16年度に18億6756万個(前年度比7.9%増)となり、2年連続で過去最高を更新。人手不足でドライバーの長時間労働が常態化し、昼休みすら取りにくくなっている。こうした現場の状況は必ずしもヤマトに限ったことではなく、多くの宅配会社に共通する。

このように日本社会で近年、モノが運べないような危機に陥ってしまったのには複合的な理由がある。

第1に、物流に対する需要が増え続けてきたことである。背景にあるのはインターネット通販の拡大。毎年2ケタのペースで電子商取引(EC)向けの宅配便取り扱い個数が増加している。こうした中で宅配業界2位の佐川は13年、ネット通販大手アマゾンジャパンの商品配達を引き受けないことを決めた。そのため、通販の宅配荷物がヤマトに特に集中した。

2番目は、日本のサービス業が消費者の要求に丁寧に対応し過ぎてきたことである。宅配便に関していえば、受け取り手の不在による再配達が20%もあることが問題である。宅配会社は現在、無料で再配達のサービスを提供しているわけだが、そのコストは誰かが負担しているはずである。

それと関連して3番目に挙げられるのが、物流サービス価格とそのコスト負担の関係が不透明なことである。物流コストは実質的には何らかの形で商品価格に上乗せされていると考えて差し支えない。アマゾンに見られるような「無料配達」は、物流に関わる社会的なコストを誰が負担しているのかをあいまいにしているだけである。

最後に、グローバルに見て日本の物流費はかなり安いことがあげられる。製造業・卸売業・小売業の売上高に占める物流費をみると、米国の約9%に対して日本は約5%でしかない(日本ロジスティクスシステム協会調べ)。これは国土の広さの違いだけでは説明がつかない。ガソリンを輸入に依存しているので、米国より燃料費は高くついているはずである。一方、日本の貨物運送業の労働者は、現金給与が国内全産業の平均を下回っている。国際比較でも日本のトラックドライバーは低賃金である。一生懸命働いても報われていない。

「無駄な再配達」削減を

海外に目を転じると、物流を効率よく行うための知恵がみられる。米国の運輸大手UPSは再配達を別料金としている。中国では共稼ぎ家庭が主流なので在宅率が低く、通販で購入した商品は職場に届けるのが普通になっている。日本から進出したヤマトや佐川、日通も中国ではこの方式をとっている。ブラジル・サンパウロ郊外では、食品スーパーに「個人向け宅配ボックス」が設置されている。

日本でも荷物を受け取る側の意識を探ると、事態打開のヒントがある。消費者庁が15年度に実施した「消費者に対する宅配の受取についての調査」では、「追加料金がかかるなら最速のタイミングで受け取らなくてよい」が60.8%に上った。反対に「確実に最速のタイミングで追加料金がかかっても受け取りたい」はわずか5.4%。消費者にコストを意識させることができれば、無駄な再配達は減って全体として社会的な費用を低くできる。再配達に料金を追加することが1つの解決策になり得るのである。

事態打開のもう1つの方法は、都会のマンションなどで徐々に普及が進んでいる「共通の宅配ボックス」といった、物流の新たな社会インフラを整備することである。

社会インフラとしては、既に行われているコンビニエンスストアの活用という手もあるが、コンビニでの荷物受け渡しは期待ほどに増えていない。1つの要因は、売り場面積を含めて100平方メートル程度しかないコンビニのバックヤードを物流のインフラとして活用するには、あまりに手狭だからだ。それどころか、コンビニ各社は弁当や総菜の宅配を物流会社に請け負わせている。コンビニとの関係では、宅配業界の負担がますます大きくなるばかりである。

むしろ、配達先への「ラストワンマイル」で宅配各社が相乗りするシステムが現実的な解決策ではないかと思う。いずれにしても、社会システムとしての物流を政策的に再考すべき段階にある。各社の経営者も便利なサービスは有料にして、不必要な部分は思い切ってカットする決断が欲しいと考える。

サービスの「在り方」再構築へ工夫を

日本ではモノにはお金を払っても、「サービスはタダ」という考えが根強い。それはサービス業の生産性が欧米より低くなる原因にもなっている。

ただ国内でもサービスの生産性を高めるために、提供プロセスに工夫を凝らしている会社がないわけではない。例えば、髪の毛を切ることに特化した10分1000円の理髪店(「QBハウス」など)は手軽で安いと人気だが、実は時間当たりの単価が一般の理髪店より高くなっている。サービスの収益率が高いので、おそらく社員にはきちんとした給与が支払われているだろう。

日本のサービス業でCS(顧客満足度)が最も高いことで知られているのは、ビジネスホテル業界である。「スーパーホテル」や「リッチモンドホテル」は、部屋の装飾を簡素化して宿泊料を低く抑える一方で、客が好きな枕を選べるようにしたり、健康的で美味しい朝食を提供したりしている。CSはトップクラスのシティーホテルの平均を上回っている。

これはビジネスホテル各社が消費者ニーズをくみ取って、サービスを再デザインした結果である。今、日本社会では「宅配危機」をきっかけに、そろそろ過剰なサービスはやめるべきではないかという前向きな議論が沸き起こっている。物流業界にはビジネスホテル業界と同様の工夫を期待したい。行政もまた、民間に努力を委ねるのではなく、物流の社会インフラ構築に手を貸すべきではないだろうか。

バナー写真=東京・銀座のヤマト運輸営業所の前で荷物を運ぶスタッフ(撮影=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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  • [2017.05.15]

法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授。1974年、東京大学経済学部卒業。78年、東京大学大学院経済学研究科博士課程中退。82~84年、米カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。法政大学経営学部教授を経て2010年から現職。著書に『ブランド戦略の実際〈第2版〉』(2011年、日経文庫)、『マクドナルド 失敗の本質』(2015年、東洋経済新報社)など。

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