日本企業が再び世界で勝つためには何が必要か

太田 肇【Profile】

[2017.07.21] 他の言語で読む : ESPAÑOL | العربية |

東芝、電通、三菱自動車など日本を代表する大企業で組織ぐるみの不祥事が相次いでいる。自浄作用が働かず、日本企業は構造的な問題を抱えているのではないか。今後日本企業が再び世界に打って出るためには、どんな取り組みが必要なのか? 日本企業の組織論を研究する筆者が、その再生プランを提案する。

低下する労働生産性、国際競争力

日本的経営が揺らいでいる。伝統的な組織とマネジメントが通用しなくなり、その弱点があらわになってきたのである。日本経済は1980年代までおおむね安定した成長を続けてきた。ところが90年代早々、バブル崩壊をきっかけとする不況に陥って以来、長期にわたって経済が低迷し、いまだに国際社会における地位は回復していない。

日本生産性本部の調査によると、日本の労働生産性は1992年の17位から2000年には21位に後退し、その後現在に至るまで22位あたりで推移している。国際競争力も国際経営開発研究所(IMD)の調査によれば1992年に1位だったのが2000年には21位まで低下し、16年には26位と低迷が続いている。また経済産業省のレポートによれば、12年時点における日本企業のROE(自己資本利益率)は米国の4分の1、欧州の3分の1程度にとどまっている。

さらにホワイトカラーの生産性の低さやイノベーションがなかなか生まれない現状をみても、日本企業の組織と人的資源管理に大きな問題があると考えざるを得ない。

90年代半ばを境に、共同体型組織の強みが弱みに変わった!

伝統的な日本企業は個人が組織や集団に溶け込み、「分化」(separate)されていないところに特徴がある。例えば個人の仕事の分担はあいまいで、課や係といった集団単位で行う仕事が多い。オフィスは大部屋で個人ごとの仕切りがなく、全員が向かい合って座る。また非管理職には裁量権が乏しく、こと細かく上司に報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)しながら仕事を進めなければならない。そして定年まで一社で働き続けることが暗黙の前提となっている。

社会学的にいえば企業は本来、目的を達成するための機能集団であるはずだが、日本企業の組織は家族や村落のような基礎集団(共同体)としての性格が強いのである。

このような組織では均質的な人材を大量に育成し、長期にわたって安定した意欲と能力を引き出すことができる。そのため工業社会には適していた。なぜなら工業社会では生産現場でも、オフィスにおいても定型的な業務を安定して正確にこなすことが求められていたからである。

ところが1990年代に入ってIT化が進み、ソフト化やグローバル化も同時進行するようになると、上記のような日本型組織の強みが生かせなくなり、逆に弱点が表面化してくる。まず定型的な業務が機械やコンピュータに代替され、正確な仕事を安定的にこなすことはそれほど重要ではなくなった。一方では機械やコンピュータで代替することが難しい発想力、創造力、洞察力、感性といった人間特有の能力がいっそう強く求められるようになった。そして個人の意欲と能力がビジネスの成功、企業の利益を大きく左右するようになってきた。

従来の日本型組織では、このような個人の意欲と能力を十分に引き出すことができない。その証拠に、近年次々と発表されるワーク・エンゲージメント(日本語では「仕事への熱意」と訳されることが多い)の調査によると、日本人のそれは世界的に最も低い水準にある。労働時間や有給休暇の取得率などで見る限り日本人は依然として勤勉なようだが、イノベーションやブレークスルーをもたらす自発的なモチベーションは極めて低いのが現状なのである。

また大部屋での仕切りがないオフィス環境は、定型的な事務作業を集団でこなすのには適していたが、創造的な仕事や熟慮を要する仕事には適していないし、情報管理や従業員のプライバシー尊重の面でも問題があると言える。

にもかかわらず工業社会仕様の組織とマネジメントが今まで温存されてきたのは、日本が長年にわたって工業社会で成功を収め、発展を遂げてきた成功体験が大きいためである。すなわち、その成功体験がIT化、ソフト化、グローバル化が進んだポスト工業社会への適応を妨げる足かせとなっている。

企業不祥事の続発も、個人の「未分化」が原因

個人が分化されていない日本型組織は、その他にも深刻な問題をもたらしている。その一つが続発する企業不祥事である。

前述したような擬似共同体としての組織は、内部の結束が強い半面、外の世界とは厚い壁によって隔てられている。組織の意思決定は集団的に行われ、決定プロセスが不透明なため、責任の所在があいまいになりやすい。また従業員は組織の一員として振る舞うように強く要求されるので、直接命じられなくても上司の意向を忖度(そんたく)して行動する。その結果、ときには社会的な正義やルールより組織の利益を優先させることになる。しかし上司が直接命令したわけではないし、部下には権限がないので、仮に不正が発覚した場合にも上司・部下の双方が責任逃れをしやすい。そこに「集団無責任体制」ができあがるのである。

東芝、三菱自動車、東洋ゴムなどで近年相次いで発覚した大企業の不祥事には、こうした日本企業特有の未分化な組織構造が深く関わっている。

そこで今後は個人の意欲と能力を引き出して企業の生産性を高め、同時にコンプライアンスを徹底して不祥事の発生を防止するため、組織や集団から個人を分化していく必要がある。

具体的な方法としては欧米型の職務主義を導入することに加え、社内ベンチャーのように1人である程度まとまった仕事を引き受けるとか、チームで行う仕事でも各自の役割を明確にして貢献を「見える化」するといった方法がある。また日本企業に特徴的な匿名主義を改め、仕事に必要な裁量権を与えながら原則として自分の名前で仕事をさせることが望ましい。さらに社員がキャリアの中途で転出しても会社と社員の双方が大きな損失を被らないよう、「短期に清算する人事制度」に切り替えるべきである。

「分化」すれば企業業績も社員満足度も上がる

このように個人を組織や集団から分化すれば社員は仕事の自律性が高まり、努力次第で大きな報酬が獲得できる。また転職や独立の機会が広がれば大きな夢や目標が抱けるようになる。そのため社員のモチベーションが上がり、企業の成長と生産性向上に寄与するはずである。

事実、かつて「社内独立制度」を取り入れた企業では1人当たりの生産性が3倍になったという例があるし、全国の主要な大企業を対象とした研究では分化した方が企業の業績も従業員の満足度も高いことが明らかになっている。

ただ疑似共同体としての日本型組織はメンバーにとって居心地がよいし、役職ポストや処遇などの既得権とも関わっているので内側から自発的に分化が進むことは期待できない。そこで、以下のような分化を促す戦略や仕組みづくりをトップダウンで行うことが必要になる。

第1に、外国人労働者や中途採用、フリーランスなど「異分子」を組織の中に組み入れる。宗教や生活様式、経歴、価値観、志向などが異なる人が一緒に働くようになれば、自ずと一人ひとりの権限と責任が明確化され、多様性を認めざるを得なくなる。

第2に、組織に長くとどまることが圧倒的に有利な処遇制度を見直す。

第3に、社内ベンチャー制度や、若い社員も対象にした独立支援制度を採用するとともに、社員が独立・起業した後も元の企業とアライアンスを組んで一緒に仕事ができるような選択肢を取り入れる。それによって独立のハードルを下げる。

AI(人工知能)やロボット、IoT(モノのインターネット)などの普及によって人間の創造性や個性の発揮が今後ますます重要になる。また情報通信システムの発達により物理的・時間的に拘束されずチームの一員として役割を果たし、組織に貢献できるようになってきている。日本企業が共同体幻想を捨て、思い切って分化を推進すれば、日本の労働生産性も国際競争力も回復するに違いない。

写真=記者会見で、グループ企業の海外販売子会社の不適切会計に関し、陳謝する富士フイルムホールディングスの助野健児社長(右)ら=2017年6月12日、東京都区中央区(時事)

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  • [2017.07.21]

同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授。1954年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。専門は組織論。特に日本の組織について研究。近著『なぜ日本企業は勝てなくなったのか-個を活かす「分化」の組織論-』など著書多数。

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