特集 巨樹をたずねて
巨樹をたずねて③~島の巨人たち

高橋 弘【Profile】

[2016.08.22] 他の言語で読む : ESPAÑOL | Русский |

日本で最も有名な巨樹と呼べる縄文杉が屋久島にあるように、離島に生息する巨樹は少なくない。温暖な気候と清らかな空気に恵まれて大きく育ち、島のシンボルとなった「巨人たち」の威容を紹介しよう。

島の巨樹

日本は6000以上の島からなる島国。やはり各地の島にも巨樹は存在しており、島根県隠岐島や、東京都御蔵島などは巨樹の島として愛好家の間では知名度も高い。島おこしのために巨樹をPRする自治体も増えてきた。

島に存在する巨樹の代表は何といっても屋久島の縄文杉だろう。世界自然遺産に登録された屋久島原生林の盟主である。発見当初(1966年)は樹齢7200年と言われたこともあり、そのインパクトは絶大で、日本を代表する巨樹の一つとして全国にその存在を知られることとなった。

朝鮮半島からイチョウが渡ってきた際の経由地である長崎県の対馬や五島列島、また瀬戸内海の島々は、その温暖な気候の影響で巨樹も数多い。大都市からは離れて存在するためか、健康的で樹勢の旺盛な巨樹が多いという印象を受ける。今回はその中から3本を厳選してお届けしたい。

縄文杉(鹿児島県屋久島)

樹種:スギ(Cryptomeria japonica ヒノキ科スギ亜科スギ属)
生息地:〒891-4205 鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦
幹周:16.1m 樹高:30m 樹齢:2000年以上
国指定特別天然記念物(屋久島スギ原始林として)
大きさ ★★★★★
樹勢  ★★★
樹形  ★★★
枝張り ★★
威厳  ★★★★★

言わずと知れた日本を代表するスギの巨樹である。屋久島のユネスコ世界自然遺産登録(1993年)で一躍脚光を浴び、今や日本の巨樹の代名詞となった感がある。

全国各地に日本一を宣言するスギは数多いが、そのほとんどが「合体木」(同種の枝や幹が接するうちに融合し合体した木)か、根元部分から枝分かれして計測部分が肥大した木だ。根元から一本の幹で立っているスギとしては、やはり縄文杉が頭一つ抜けた存在であり、日本一のスギと断言してもよいだろう。

スギと言えばスラッとした直幹で樹高が高いというイメージがあるが、縄文杉はそれとはほど遠い樹形だ。背が低くずんぐりして規則性のない枝の暴れ具合は、台風の常襲地帯に育つ屋久杉の特徴をよく表している。樹皮に凸凹の激しい節くれ立った紋様を浮かび上がらせていて、建材としては利用できないため、幸運にも伐採から逃れることができた。

発見当初には樹齢7200年と言われたが、放射性炭素年代測定を行った結果、2170年という値が得られた。幹の中心部が空洞になっているために正確な樹齢は不明であるが、2000年を下らないということは実証されたわけである。

私が初めて訪問したのは今から26年前のこと。当時は縄文杉を訪れる者も少なく、ゆっくりと観察することができた。根元に立つことも、木肌に触れることも可能であった。しかし、すでに周囲の原生林は縄文杉を鑑賞するために伐採されており、徐々に根元部分の土砂の流出が問題となっていった。やがて根元を踏まれ続け、樹勢の衰えが心配されるようになる。当時の対策としては、見学者に一握りの砂を縄文杉の根元まで運んでもらう「生命の砂、一握り運動」という活動を行っていたが、ついに1996年には縄文杉から10メートル離れた場所に展望デッキを設置し、根元付近への立ち入り規制が行われることとなった。

縄文杉へは往復で徒歩10時間ほどかかるため、ついに出会えたという達成感がより強烈な印象を与えるのだろう。太古より原生林の中でひとり生き抜いてきた孤高の巨樹の威厳が強く感じられるはずだ。

宝生院のシンパク(香川県小豆島)

樹種: ビャクシン(Juniperus chinensis ヒノキ科ビャクシン属)
生息地:〒761-4122 香川県小豆郡土庄町上庄北山412
幹周:17.3m 樹高:17.5m 樹齢:伝承1500年
国指定特別天然記念物
大きさ ★★★★★
樹勢   ★★★★★
樹形  ★★★★
枝張り ★★★★★
威厳  ★★★★★

瀬戸内海では淡路島に次ぐ大きな島で、人口約3万人の小豆島。一般にはオリーブの産地、あるいは小説『二十四の瞳』の舞台として知られるが、巨木好きなら是非訪れたい島でもある。そのお目当てとなるのが「宝生院のシンパク」だ。小豆島の玄関口、土庄(とのしょう)の中心部から県道を北東に約1.5キロメートルほど進むと、左手に宝生院が見えてくる。

樹名がシンパクとあるが、一般にはビャクシンとして知られる。この木は日本最大のビャクシンと断言してもよいであろう。3株に分かれて成長したものか、「株立ち」(一本の木の根元から複数の幹が分かれて立ち上がっているもの)であるか定かではないが、それぞれの幹の断面の形状が隣り合った面と似通っているところを見ると、あまりにも大きく成長したために自重を支えきれず幹が裂けたのかもしれない。2015年に行われた診断でそう判断した樹木医もいた。

単幹ではないために幹周の正確な計測は難しいが、幹分かれしていない地際(木が地面と接するところ)の幹周でさえ17.3メートルに達する。いかにこの木が巨大であるかご理解いただけるであろう。同じ樹種で巨樹となったものは、そのほとんどに幹の白骨化や樹勢の陰りが見られるが、このビャクシンはまだまだ元気で、いまだ成長途上であるかのようだ。日本に生育する針葉樹で、おそらくこれだけの樹冠(幹から伸びる枝や葉を総合した部分)の広大さを持つ木は他にないであろう。

幹には深い皺が刻み込まれており、樹皮に潜むと言われる数十種類の動物(カメ、サル、竜、インコ、トラなど)の形を探す観光客も多い。応神天皇お手植えと伝えられており、それが本当ならば樹齢は1600年あまりとなる。全国で9本しかない単木の国指定特別天然記念物のうちの一つで、日本の宝ともいえそうな巨樹である。もし日本三大巨樹を選定するならば、有力な一本となるであろう。

志々島の大クス(香川県志々島)

樹種:クスノキ(Cinnamomum camphora クスノキ科ニッケイ属)
生息地:〒769-1109 香川県三豊市詫間町志々島172
幹周:11.64m  樹高:28m  樹齢:伝承1200年
香川県指定天然記念物
大きさ ★★★★★
樹勢  ★★★★★
樹形  ★★★★★
枝張り ★★★★★
威厳  ★★★★

香川県三豊(みとよ)市の詫間(たくま)港から北西5.5 キロメートルにある周囲3.8キロメートルの志々島(ししじま)。その小さな島の大きなシンボルとなっている巨樹、それが「志々島の大クス」である。

島周辺の海域は良好な漁場で、最盛期には人口1000人を数えたこともあるというが、高度経済成長期以降は過疎化が進み、現在の島民は10数名とか。滅多に人が訪れることのない静かな島ではあるが、大クスへの案内板があちらこちらに設置されており、迷うことなくたどり着ける配慮がありがたい。港から古い町並みを抜け、いきなりの急坂を約20分登った所に大クスはある。地面と平行に伸びる大枝が思いきり手を広げているような、雄大な樹形を持つクスノキである。空洞なども見当たらず樹勢も申し分なし。訪問客を大歓迎してくれているかのような姿に感動を覚える。

かつて地滑りがこのクスノキを呑みこんだとされ、根元付近は今でも5メートルほど埋もれた状態であるという。根元部分から大枝が枝分かれする奇妙な樹形の謎が解けたようだ。埋もれる前は間違いなく現在よりも巨大だったはずで、その姿を是非見てみたかったものである。もしかしたら日本最大級のクスノキであったかも知れないのだから。

大クスやその周囲の手入れも十分に行き届いて、昔からの環境がそのまま保たれているのには感激の一言。近隣から30名を超えるボランティアの方が保全のために汗を流してくれているという。眼下に瀬戸内海を眺める風光明媚な高台の斜面に立ち、まるで時が止まったかのような素晴らしい空間を演出している。帰りの船の時間を気にしなくてよいのであれば、何時間でも眺めていたいと感じさせるクスノキである。

文・撮影=高橋 弘

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  • [2016.08.22]

巨樹写真家。1960年、山形県に生まれ、北海道で育つ。1988年より巨樹の探訪を開始し、2016年現在まで撮影した数は3300本以上におよぶ。主な著書に『神様の木に会いに行く』(東京地図出版)、『日本の巨樹』(宝島社)、『千年の命 巨樹・巨木を巡る』(新日本出版社)など。奥多摩町森林館で解説員を務め、環境省巨樹データベースを管理するほか、「東京巨樹の会」を主宰。

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