特集 日本の果物
ユズで村おこし:人口900人で年間30億円稼ぐ村
[2017.11.02]

ユズを使って村おこしに取り組む人口900人の村。村ぐるみでユズ文化を広めてきた高知県の馬路(うまじ)村を訪れた。

四国・高知空港から真っ青な太平洋を右手に眺めて車を2時間走らせる。山奥に向かうと、ユズの生産で有名な馬路(うまじ)村に到着。高知県は日本で生産されるユズの5割を占め、日本一を誇る。中でも馬路村は、オーガニックのユズを使った商品を開発し、その魅力を日本中に広めた先駆けだ。

世界に名だたるかんきつ王国ニッポン

「日本には、世界で類を見ないぐらい多種類の香酸(こうさん)かんきつがある。ユズ、スダチ、カボス、シ-クワーサー、ジャバラ、キンカン、ダイダイ、ブッシュカン、バンペイユなど、日本はかんきつ王国だ」と馬路村農業協同組合代表理事組合長・東谷望史(とうたにもちふみ)さんは胸を張る。昔は、サンマやマツタケを食べるときにはスダチを、ポン酢にはカボスやダイダイを使う地域が多く、ユズの存在感は薄かった。

ユズは日本を代表する香酸かんきつの一つで、昔からその皮は香り付けに使われてきた。しかし、料理の味付けからデザートにも、皮のみでなく果汁や果肉、種まで幅広く利用されるようになったのは、ここ数十年」と東谷さん。

馬路村「ゆずの森」加工場入り口。見学もできる。

「子どものときからユズをよく食べているのに飽きない。私には、ユズが日本中に広まるという揺るぎない自信がありました」と東谷さんは振り返る。とげが大きく、まっすぐに伸びる性質が強いユズは、栽培にも手がかかる。「昔から『桃栗3年、柿8年、柚子(ゆず)の大ばか18年』と生育年数を表す言い伝えがあるんです」と付け加えた。馬路村には、欧州でワイルドユズと呼ばれる種から育てる「実生(みしょう)ユズ」が多い。接ぎ木で育ちが早まるユズより、実がなるまで時間のかかる実生ユズの方が酸味や香りが強くて料理人たちの間でも人気が高い。

小さな村の大きな挑戦

馬路村は、村おこしの一環として1960年ごろから基幹産業である林業の傍ら、古来からあった実生ユズの生産に少しずつ力を入れてきた。しかし当時、輸入レモン果汁は売れるのに、ユズ果汁はなかなか売れない。高知県では、何百年もの間、酢といえばユズ酢を指し、すし飯にも、しめサバにもユズ酢を使ってきた。しかし県外では、香りの強いユズ酢の使い方は簡単には浸透しなかった。

山菜や野菜を使う高知の田舎ずしは、すし飯にユズ酢を使う。(©ニッポンドットコム編集部)

 

ぽん酢人気を追い風に、商品は全国区へ

大企業のような宣伝力やPRにかける予算は、過疎の村にはない。そこで東谷さんは1970年ごろから、ユズ文化を県外に広めようと自ら車を運転し、日本全国の百貨店物産展を週末に飛び回った。そんな時、調味料メーカー・ミツカンの『味ぽん』が鍋料理をおいしく食べるアイテムとして大ヒット。同時にユズを使った姉妹商品『ゆずぽん』も市場に出回るようになり、その追い風を受けて、徐々にユズが認知され始めた。

何年か一度の大豊作になると、生果を農業協同組合で売り切ることができなくなり、ユズの価格も下がってしまう。そこで30年ほど前から、各地域の農協が絞ったユズ果汁を売る努力を始めた。地域によって、加工原料として果汁を納品したり、加工業者を誘致したりする村もあった。一方、その当時馬路村農協の課長だった東谷さんは、収穫から最終商品まで村内で加工する道を選んだ。メーカーに果汁など原料を納入するだけにとどまっていては、所得の向上は望めない。生産量によっては、買いたたかれてしまうかもしれない。そこで、生き残りをかけ、村内にユズを植え、付加価値を付けた商品を増やしていった。並行して市場を作るなど、村民の就労の場も確保した。

ある日、吉報が届く。1986年に馬路村が発売したユズ果汁や醤油、カツオだしなどを材料とした「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」が、西武百貨店主催の「日本の101村展」(88年)で金賞を受賞したというのだ。

30年たった今、「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」(500ミリリットル、税込み580円)は、年間15億円を売り上げる大ヒット商品に成長した。また、1990年に農産部門賞を受賞したユズ果汁と蜂蜜を使ったジュース「馬路村ごっくん」(180ミリリットル、同130円)の売り上げも年間5億円になる。

人口900人の村が、年間30億円以上を稼ぐ。馬路村は、加工品を手掛け「ユズを使った村おこし」で国内におけるユズブームを巻き起こした先駆け的な存在になっていった。

「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」(左)とユズと蜂蜜のジュース「馬路村 ごっくん」。

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  • [2017.11.02]
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