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新ブランド米続々登場の背景に温暖化

片岡 優佳【Profile】

[2018.07.17]

日本人の主食「コメ」の販売競争が激しさを増している。圧倒的なシェアを誇る「コシヒカリ」の牙城を崩そうと、ここ数年で新ブランド米が相次いでデビューし、群雄割拠の時代を迎えている。背景には多様化する消費者ニーズへの対応や地球温暖化による影響がある。

新ブランド米が続々登場 795銘柄に

スーパーや百貨店の店頭に並ぶコメの袋には「○○産コシヒカリ」「◆◆産あきたこまち」など産地とブランド名が記されている。これは、農林水産省の「産地品種銘柄」として認められたものだ。2018年産うるち米の「産地品種銘柄」は、前年から42増えて795銘柄。増加数は過去10年間で最も多く、10年前に比べて銘柄は5割増えた。18年産の傾向は、従来から続く家庭用を意識したブランド米市場の競争に加えて、すしやコンビニ弁当などの業務用や健康面を意識したものなど、特定の用途に絞った銘柄が目立つ。

コメ産地が家庭用に力を入れるのには、高価格帯での販売が期待できるからだ。2017年に本格的にデビューした品種には、東京都内のデパートで5キロ3000円を超えるものもあり、食味にこだわる消費者の心をくすぐる。

日本一の米どころ新潟県は主力の「コシヒカリ」と並ぶブランド米にしようと昨年、「新之助」を売り出した。大粒で甘みとこくがあることを売りに価格は5キロ3780円。岩手県はふんわりとした口当たりと甘みを強調した「金色(こんじき)の風」を5キロ3780円で販売。岩手県は16年にも新品種「銀河のしずく」を投入したので、この秋からは「金」「銀」の二枚看板で産地をアピールする。「コシヒカリ」発祥の地・福井県は、つやと粘りが特長の「いちほまれ」を5キロ3520円で売り出した。都内スーパーでは5キロ2000円前後のものを中心に品ぞろえしていることを考えると、いずれも強気の価格設定だが、評価は高く好スタートを切った。

ブランド米の開発を支える品種改良

多銘柄のブランド米の投入を支えるのは、よりおいしく、病気に強く、育てやすい米を作るための品種改良の努力だ。何年にもわたって地道に交配を重ね、理想にあった特長を持つ変異種を見出していく作業の中で、時としてスターが誕生する。

例えば1956年に誕生した「コシヒカリ」も、そうした品種開発のたまものだ。実は、「コシヒカリ」は、稲の病気「いもち病」にかかりやすく、丈が高いために実りの時期に倒れやすい。病気耐性と育てやすさの点では優等生とは言えなかったが、食味の良さで他品種を圧倒していたために市場で評価され、60歳の還暦を過ぎても、いまだに高い人気を誇る。「西の横綱」と呼ばれるようになったゆえんだ。

1990年代、「コシヒカリ」と人気を二分したのが、かつて「東の横綱」と呼ばれた「ササニシキ」。63年に宮城県で生まれ、東北を中心に広く栽培されるようになった。炊き上がりのつやと香りが良く、あっさりとした味わいが特長で、魚との相性がいいことからすしに向くと言われてきた。

しかし、寒さに弱く、雨や風で倒れやすいという弱点があり、1993年の冷夏では東北の米どころで「ササニシキ」は壊滅状態だった。これがきっかけで、寒さに強いコシヒカリ系の新品種「ひとめぼれ」への転換が一気に進んだ。おいしくて育てやすい「ひとめぼれ」は「ササニシキ」に代わる品種として東北地方で作付面積を広げ、今では「コシヒカリ」に次ぐ全国2位にまで拡大した。

温暖化による水稲への悪影響

振り返ってみれば「寒さに強い」は東西横綱の命運を分けるポイントであり、長らく品種改良の過程で重視されてきた特長の一つだった。ところが、近年の地球温暖化の影響で、「暑さに強い」が品種改良の焦点となってきた。

気象庁が2017年7月に発表した「気候変動監視レポート」によれば、16年の日本の平均気温は1981年から10年間の平均気温に比べて0.9度高くなっていた。これは1898年の観測開始以降、最も高い値だ。世界の平均気温の上昇は、産業革命以降で0.6度。それに比べて日本は急速に温暖化が進んでいることが分かる。

温暖化が作物に与える影響も深刻で、農水省が2017年9月に公表した「地球温暖化影響調査レポート」によると、多くの作物で品質悪化や収量低下などの影響が出始めている。

水稲では、もみ殻の中で米の粒が成長する時期の気温が高過ぎることによる品質低下が、西日本を中心に、年によっては全国で発生。コメ粒が白く濁る白未熟粒や、偏平になって縦溝が深くなったり、亀裂が入り割れやすくなったりする胴割れ粒などが顕著に現れた。これらの症状は検査等級の低下や砕けた米による精米ロスだけでなく、ひどい場合には食味も悪くする。

全国的に記録的な猛暑となった2010年は、各地で一等米比率の低下が問題になった。中でも西日本は深刻で、九州で作付けが多い「ヒノヒカリ」の一等米比率が著しく低下。猛暑による影響は各地に広がり、農林水産省の調べでは16年の水稲で高温障害の白未熟粒が全国の都道府県で半数を超える27から報告があった。他にも気温が高いと害虫の活動が活発になるため、虫害の多発なども報告されている。

温暖化の影響で、農水省は作物の栽培適地が北上すると予測。水稲は東北以南の産地では減収し、北海道では増収との見方をしている。積雪期間が長く、夏場でも冷涼な北海道はかつては稲作に向かないと言われ、北海道米に対する市場の評価は低かった。ところが、品種改良の努力に加え、北海道では温暖化がプラスに働き、ここ10年の間に次々とヒットブランドが誕生している。今や、量のみならず、質も兼ね備えたコメどころだ。

高温耐性品種への転換進む

東北以南のコメ農家は、水田への給水を水が冷たい夜間に行うなど、品質を維持するための管理の工夫をこらしたり、高温耐性品種に転換したりしている。

高温耐性品種は、従来品種より白未熟粒や充実不足の発生を減らせるとして期待が高く、2016年は全国9万1400ヘクタールで高温耐性品種が作付けされ、10年前に比べると2.4倍に増えた。品種開発も進み、作付けられる品種数も13(2010年)から27(2016年)に増えた。

18年産で本格デビューする新ブランド米は、高温にも強い性質を兼ね備えている。例えば、富山県のオリジナル品種「富富富(ふふふ)」は高温や病気に強く倒れにくい稲を交配し、うま味と粘りがあり甘みが強いのが特長。高知県の「よさ恋美人」は甘みと香りの良さが売りで高温に強い。7月に収穫できる極早生品種で、全国にいち早く新米をアピールできる強みも併せ持つ。

業務用米では、宇都宮大学が開発した「ゆうだい21」が注目株だ。冷めても食味が落ちず、電子レンジで加熱すると炊きたてのようなもちもちした食感を取り戻すことから、大手コンビニチェーンがおにぎりや弁当用として採用を決めた。

開発者、生産者の努力で「よりおいしい」コメが増え、近年は卵かけご飯やチャーハン、カレーなどのメニューに合ったコメの小分けパックが登場するなど、より細分化された販売の工夫も進んでいる。あまたの銘柄から好みのコメを選び出すのは難しいので、米の専門家「お米マイスター」の資格を持つ人がいる米穀店などを訪ねて、相談してみるのもお薦めだ。

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  • [2018.07.17]

ジャーナリスト。日本農業新聞の記者として農林水産省や厚生労働省などを担当し、生産現場を取材。2017年に退社し、編集・企画会社を設立。日本の食と農をテーマに取材・執筆をしている。

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