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日本の若者の海外旅行はどう変わったのか

中村 哲【Profile】

[2018.09.20]

バックパック1つで身軽に異国を長期間旅する若者は、おそらく今では少数派だ。格安航空会社(LCC)の利用やインターネットの進化、SNSの普及などにより、多様化した若者の海外旅行の現在を解説する。

かつての若者の海外旅行

2003年以降の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」、08年の観光庁の設置など、日本では訪日外国人旅行(インバウンド)が大きな注目を集めている。16年には初めて訪日外国人旅行者数が2000万人を超え、18年は3000万人到達への期待がある。その中で、日本人の海外旅行(アウトバウンド)への注目はあまり高くはなく、2000年代後半には「若者の海外旅行離れ」が話題となることもあった。本稿では、若者にフォーカスして海外旅行の最新の状況を解説したい。

まず1980年代以降に見られた若者の海外旅行の傾向を見ると、以下の4つの特徴が挙げられる。

第1は「バックパッカー」の旅。沢木耕太郎が1986年から92年までに書き下ろした『深夜特急』などの旅行記に啓発され、『地球の歩き方』(79年創刊)などのガイドブックを活用した長期間の旅行をする若者が一定層を形成していた。

第2は「卒業旅行」。80年代初頭から、大学卒業直前・就職を前に実施する友人と一緒に欧州や米国など遠方に異国の文化を求めて旅行する若者が目立つようになった。就職したら長期間の旅行に行くことが困難になるので「今のうちに行こう」という気持ちが影響していたといわれる。当初は3週間から1カ月程度の長期間だったが、90年代に入ってからは2週間以下に短期化している。

第3は「ショッピング・ツーリスト」。香港やハワイ、欧州などの海外旅行先でブランド品をできるだけ安く購入することを目的とする人たちで、80年代後半から90年代にかけて、会社勤めの若い女性などを中心に見られた。

第4は「スケルトンツアー」の活用だ。3泊前後の短期間で、往復の航空券と現地の宿泊がセットとなっており、添乗員が同行せず、個人手配よりも低価格に設定されているパッケージ・ツアーの1つである。とりわけ2000年代以降の「スケルトンツアー」利用者は、『るるぶ』『まっぷる』などの雑誌サイズのガイドブックを手にして、観光地で買い物や食事を効率よく楽しみ、現地の歴史や文化からは切り離された行動をしていることが多かった。

もちろん、現在でも上記のような旅行のスタイルを選んでいる若者は見受けられる。ただし旅行の仕方には変化が生まれている。例えば、「卒業旅行」をする若者の中には、短期間の行程で複数回渡航し、その都度同行者が異なるという人もいる。

LCCとネット活用で脱・旅行会社

前述のように2000年代後半に若者の海外旅行離れが見られたが、この5年ほどは20歳代前半の若者の海外旅行が復活しつつある(関連記事参照)。同時に、新たな若者の海外旅行のスタイルが出現している。筆者が日頃接している大学生の行動などを踏まえて、5つのパターンを挙げよう。

1に、旅行会社に依存せず、個人手配で海外旅行に出掛ける若者。背景には、旅行会社のスケルトンツアーを使わなくても費用を抑えて旅行を実現できる環境が整ったことがある。まず、格安航空会社(LCC=Low Cost Carrier)の普及だ。日本では2000年代後半から海外へのLCCのフライトが出現、今やアジアやオセアニアへの移動手段として日常的に定着した。LCCを組み込んだパッケージ・ツアーは少ないため、おのずと個人手配になる。

もう1つはOTA(Online Travel Agent)の普及だ。「エクスペディア(Expedia)」や「ブッキング・ドットコム(Booking.com)」などを活用、さらにインターネット上の口コミなどを確認しながら海外の宿泊予約を行っている。最近では「エアビーアンドビー(Airbnb)」のような民泊のプラットフォームを活用する若者も見られる。そして、「スカイスキャナー(Skyscanner)」などのメタサーチ (複数の検索エンジンを用いてキーワードを横断的に検索するシステム) を用いて航空券などの料金比較を行い、低価格のものを効率よく探している。

なお、個人手配の海外旅行である程度の経験を積んできた若者の中には、旅行会社のパッケージ・ツアーと個人手配を自由自在に使い分ける人もいる。

SNS普及による脱・ガイドブック

第2に、海外旅行の際にガイドブックを購入しない若者。2000年代前半まではガイドブックを購入し、それを用いて現地で来訪する場所を決定することが当たり前の状況であった。しかし、SNSの急速な普及により、ここ数年で学生の旅行前の意思決定プロセスが変化している。

その象徴がインスタグラム(Instagram)の利用である。海外旅行に行こうと思い立ち、目的地も決めたら、ハッシュタグを用いてインスタグラムに公開されている写真を検索し、いわゆる「インスタ映え」する場所を探す。その上で、インターネット上にある口コミを検索したり、現地への行き方を調べたりする。かつては「ガイドブックに紹介された場所を確認しに行く旅」があったと指摘されているが、現在では「インスタにあるフォトジェニックな場所を確認しに行く旅」であり、「目にした光景をインスタ映えする形にしてフォロワーに発信する旅」になっている。

第3に、特定の旅行先を何度も訪れる若者。ここでは韓国を例に紹介する。2000年代に入ってから韓国のテレビドラマや映画が日本で放映されるようになった。2010年前後からはK-POPと呼ばれる韓国のポピュラー音楽が普及し、アイドル歌手は人気を集めた。熱烈なファンの女子大学生は韓国への好意度が高く、何度も韓国を訪れ、韓国の文化に触れている。

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  • [2018.09.20]

玉川大学観光学部教授。専門は観光心理学・観光行動論。1972年生まれ。95年立教大学社会学部卒業。民間企業勤務を経て、2002年立教大学大学院観光学研究科博士課程後期課程単位取得。敬愛大学経済学部専任講師、玉川大学経営学部准教授などを経て17年4月より現職。観光学術学会ならびに日本観光ホスピタリティ教育学会の編集委員。共著書に『「若者の海外旅行離れ」を読み解く』(法律文化社、2014年)など。

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