日本の若者の海外旅行はどう変わったのか

社会

バックパック1つで身軽に異国を長期間旅する若者は、おそらく今では少数派だ。格安航空会社(LCC)の利用やインターネットの進化、SNSの普及などにより、多様化した若者の海外旅行の現在を解説する。

かつての若者の海外旅行

2003年以降の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」、08年の観光庁の設置など、日本では訪日外国人旅行(インバウンド)が大きな注目を集めている。16年には初めて訪日外国人旅行者数が2000万人を超え、18年は3000万人到達への期待がある。その中で、日本人の海外旅行(アウトバウンド)への注目はあまり高くはなく、2000年代後半には「若者の海外旅行離れ」が話題となることもあった。本稿では、若者にフォーカスして海外旅行の最新の状況を解説したい。

まず1980年代以降に見られた若者の海外旅行の傾向を見ると、以下の4つの特徴が挙げられる。

第1は「バックパッカー」の旅。沢木耕太郎が1986年から92年までに書き下ろした『深夜特急』などの旅行記に啓発され、『地球の歩き方』(79年創刊)などのガイドブックを活用した長期間の旅行をする若者が一定層を形成していた。

第2は「卒業旅行」。80年代初頭から、大学卒業直前・就職を前に実施する友人と一緒に欧州や米国など遠方に異国の文化を求めて旅行する若者が目立つようになった。就職したら長期間の旅行に行くことが困難になるので「今のうちに行こう」という気持ちが影響していたといわれる。当初は3週間から1カ月程度の長期間だったが、90年代に入ってからは2週間以下に短期化している。

第3は「ショッピング・ツーリスト」。香港やハワイ、欧州などの海外旅行先でブランド品をできるだけ安く購入することを目的とする人たちで、80年代後半から90年代にかけて、会社勤めの若い女性などを中心に見られた。

第4は「スケルトンツアー」の活用だ。3泊前後の短期間で、往復の航空券と現地の宿泊がセットとなっており、添乗員が同行せず、個人手配よりも低価格に設定されているパッケージ・ツアーの1つである。とりわけ2000年代以降の「スケルトンツアー」利用者は、『るるぶ』『まっぷる』などの雑誌サイズのガイドブックを手にして、観光地で買い物や食事を効率よく楽しみ、現地の歴史や文化からは切り離された行動をしていることが多かった。

もちろん、現在でも上記のような旅行のスタイルを選んでいる若者は見受けられる。ただし旅行の仕方には変化が生まれている。例えば、「卒業旅行」をする若者の中には、短期間の行程で複数回渡航し、その都度同行者が異なるという人もいる。

LCCとネット活用で脱・旅行会社

前述のように2000年代後半に若者の海外旅行離れが見られたが、この5年ほどは20歳代前半の若者の海外旅行が復活しつつある(関連記事参照)。同時に、新たな若者の海外旅行のスタイルが出現している。筆者が日頃接している大学生の行動などを踏まえて、5つのパターンを挙げよう。

1に、旅行会社に依存せず、個人手配で海外旅行に出掛ける若者

。背景には、旅行会社のスケルトンツアーを使わなくても費用を抑えて旅行を実現できる環境が整ったことがある。まず、格安航空会社(LCC=Low Cost Carrier)の普及だ。日本では2000年代後半から海外へのLCCのフライトが出現、今やアジアやオセアニアへの移動手段として日常的に定着した。LCCを組み込んだパッケージ・ツアーは少ないため、おのずと個人手配になる。

もう1つはOTA(Online Travel Agent)の普及だ。「エクスペディア(Expedia)」や「ブッキング・ドットコム(Booking.com)」などを活用、さらにインターネット上の口コミなどを確認しながら海外の宿泊予約を行っている。最近では「エアビーアンドビー(Airbnb)」のような民泊のプラットフォームを活用する若者も見られる。そして、「スカイスキャナー(Skyscanner)」などのメタサーチ (複数の検索エンジンを用いてキーワードを横断的に検索するシステム) を用いて航空券などの料金比較を行い、低価格のものを効率よく探している。

なお、個人手配の海外旅行である程度の経験を積んできた若者の中には、旅行会社のパッケージ・ツアーと個人手配を自由自在に使い分ける人もいる。

SNS普及による脱・ガイドブック

第2に、海外旅行の際にガイドブックを購入しない若者。

2000年代前半まではガイドブックを購入し、それを用いて現地で来訪する場所を決定することが当たり前の状況であった。しかし、SNSの急速な普及により、ここ数年で学生の旅行前の意思決定プロセスが変化している。

その象徴がインスタグラム(Instagram)の利用である。海外旅行に行こうと思い立ち、目的地も決めたら、ハッシュタグを用いてインスタグラムに公開されている写真を検索し、いわゆる「インスタ映え」する場所を探す。その上で、インターネット上にある口コミを検索したり、現地への行き方を調べたりする。かつては「ガイドブックに紹介された場所を確認しに行く旅」があったと指摘されているが、現在では「インスタにあるフォトジェニックな場所を確認しに行く旅」であり、「目にした光景をインスタ映えする形にしてフォロワーに発信する旅」になっている。

第3に、特定の旅行先を何度も訪れる若者。

ここでは韓国を例に紹介する。2000年代に入ってから韓国のテレビドラマや映画が日本で放映されるようになった。2010年前後からはK-POPと呼ばれる韓国のポピュラー音楽が普及し、アイドル歌手は人気を集めた。熱烈なファンの女子大学生は韓国への好意度が高く、何度も韓国を訪れ、韓国の文化に触れている。

親しい友達とは旅行に行かない

第4に日常の友人とは旅行に行かない若者。

まず一人旅を選ぶケース。なぜかと聞けば、自分はどうしても旅行したいが、「友人と日程が合わない」「友人は旅行費用を用意できない」などの理由をしばしば挙げる。最近では、「旅行中に友人と意見が合わないことを避けたい」「友人と好みが違うので、無理に合わせて不快な旅をしたくない」など、旅行中に他人に気を使わなくてすむ一人旅をあえて選択し、メンタル(気分・感情)の安定を図ろうとする若者も見られる。

このほか、旅行系のSNSを活用して新たな仲間集めをする者もいる。例えば、自分で旅行を企画して提案し、5名以上の賛同者が現れればツアーの催行が決まる「トリッピース(trippiece)」というプラットフォームを利用して、不特定少数の若者が仲間として一期一会の旅行をしている。

第5に留学を1つのきっかけとして旅行をする若者。

2010年代に入ってから、カリキュラムの中に数カ月から1年程度の留学を必修化する大学が幾つか見られるようになった。かつての留学は自発的に行くものだったが、今は必修だから行く学生が増え、いわば「留学の大衆化」の時代が訪れている。数カ月以上の一定期間の海外滞在の中で、他国から来た留学生との交流の機会が生まれ、さらにはフェイスブック(Facebook)でつながり、帰国後も交流が継続する。その結果、留学中に知り合った友人に会うことを目的の1つとして海外旅行に出掛けるケースが見られる。

リピーターと無関心の二極化傾向

ここまで、海外旅行に出掛ける若者を中心にその特徴を述べてきた。だが、もちろん海外旅行に無関心な層も存在する。

例えば、2016年2月に日本人の18~29歳の独身の若者を対象に実施した調査(下図)によると、海外未経験者は51.8%、15年に1回以上の海外渡航をした人は14.7%との結果が示された。つまり、約85%の回答者はこの年に1度も海外渡航をしていない。属性別に見ると、学生の44%が海外未経験、17.7%が15年に1回以上出国している一方で、アルバイト・無職の若者は71.7%が海外未経験、15年に出国したのは6%にとどまっていた。

これまでの観光研究では、海外旅行の障壁として、海外での滞在や言語に対する不安=「個人内阻害要因」、同行者がいない=「対人的阻害要因」、お金や時間の不足=「構造的阻害要因」が挙げられており、これらを解消することにより旅行が実施されると考えられてきた。

しかし、ここ10年ほどの研究で、障壁を取り除いても旅行への関心が欠如している若者がある程度存在するということが分かってきた。そもそも旅行に興味がない、海外は自分には関係ない、海外旅行は費用対効果がよくないなどの理由で、そもそも余暇時間の使い方の選択肢に入れていないのだろう。

先に述べたように、30年以上も前から存在した若者の海外旅行の特徴はいまもなお見られる。同時に、グローバル化の進展、インターネットの進化とSNSの普及、LCCやOTAなどの新たな旅行手段の登場、人間関係の考え方の変化などを背景として、2010年代以降、特にここ5年ほどの間に新たな動きがあることを提示した。時代の動きと連動して、日本人の海外旅行の在り様は変化する。その一方で、海外旅行に全く関心のない人たちが一定程度存在しており、若者の中では、無関心・低関心層とリピーター層に二極化している。

観光庁は2018年7月に「若者のアウトバウンド活性化に関する最終とりまとめ」を公表し、若者の旅行を通した海外体験を推進しようとしている。今後の動きを引き続き注視していきたい。

バナー写真:PIXTA

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