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僕の帰る場所 (2018年10月)

文化 Cinema

日本とミャンマーの合作で、昨年の東京国際映画祭「アジアの未来」部門で作品賞と監督賞の二冠に輝いた限りなくドキュメンタリーに近い劇映画。外国人が増え続ける日本のこれからを考える上で示唆に富む。

作品情報

©E.x.N K.K.

  • 監督・脚本・編集=藤元 明緒
  • キャスト=カウン・ミャッ・トゥ、ケイン・ミャッ・トゥ、アイセ、テッ・ミャッ・ナイン、來河 侑希、黒宮 ニイナ、津田 寛治
  • プロデューサー=渡邉 一考、吉田 文人
  • 共同プロデューサー=キタガワ ユウキ
  • 製作年=2017年
  • 製作国=日本・ミャンマー
  • 配給=E.x.N
  • 上映時間=98分
  • 第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門 作品賞(グランプリ)/国際交流基金アジアセンター特別賞(監督賞)
  • 第11回オランダ・シネマジア映画祭コンペティション部門 最優秀俳優賞
  • 第5回バンコクASEAN映画祭 審査員賞
  • 2018年10月6日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
  • 公式サイト=https://passage-of-life.com/
  • フェイスブック=https://www.facebook.com/passage.of.life.2014/

見どころ

現代に生きる私たちは、生まれた土地だけで一生を過ごすことなどほとんどない。自ら選んだり、何らかの必要に迫られたりして、移動しながら暮らす。異国に住むことも、もはや珍しくはなくなった。日本にも多くの外国人が生活する。最新の統計では263万人を超え、過去最多を記録した。経済協力開発機構(OECD)によれば、いまや日本はドイツ、米国、英国に次ぎ、世界第4位の外国人流入国となっている。人口高齢化に伴う労働力不足が深刻になる中、政府もついに積極的に外国人労働者を受け入れる方向へとかじを切った。

ところが政府は、「移民」という言葉を使いたがらない。外国人を労働力と考えはするが、来年4月に導入する見通しの新たな在留資格でも、家族の帯同や在留期間(5年間)を制限するなど、彼らを生活者として捉える視点に欠けている。日本社会と在留外国人との共生を含めた移民政策を打ち出そうとせず、地域社会や市民団体の「自主的」な対応に委ねているところがある。

『僕の帰る場所』 ©E.x.N K.K.

日本で暮らす外国人には、さまざまな背景の人びとがいる。高度の職能を有し、裕福な人もいれば、母国での経済的、政治的、その他さまざまな理由で、難を逃れてきた人もいるだろう。借金をしてブローカーに多額の費用を払い、留学生や技能実習生として入国し、アルバイトに明け暮れるケースも少なくないと聞く。

家族であれば、内と外の問題が並存する。地域、職場、学校といった外との関係に加え、日本で暮らすうちに、少しずつ夫婦、親子の関係に変化が生じていくことが考えられる。子どもはすぐに学校生活になじみ、流ちょうな日本語を話すようになるかもしれないし、周囲に溶け込めずいじめに遭うかもしれない。母語を忘れて親との関係がぎくしゃくする、あるいはどちらの言語能力も中途半端で学習に支障をきたす、といった悩みを抱える場合もあるだろう。

こうしたさまざまな事情を理解し、想像力を働かせるのがこれからの多様性社会を生きる私たちにできる最低限のことだとしたら、この映画はある在日外国人ファミリーの状況を極めてリアルに描き出している点で、非常に重要だ。もちろんそうした社会に訴える力だけに留まらない映画的な魅力にもあふれている。物語の展開が巧みで単線的になることなく、ユーモアや温かさもあり、詩情豊かな映像も美しい。

難民認定を申請しながら日本に暮らすミャンマー人の親子4人の話で、実話を基にしてはいるが、ドキュメンタリーではない。4人とも演技経験は初めてで、だからこそドキュメンタリーと錯覚するほどのリアリティが生まれている。母と男の子2人は実際に日本に住む血のつながった親子なのだが、父親役が「赤の他人」だとはとても思えないほど、見事に関係が作られている。日本で生まれ育った小学5年生、カウン・ミャッ・トゥは、兄カウンの役を自然に演じてオランダの映画祭で最優秀俳優賞を受賞した。これが初の長編作品となる監督・脚本の藤元明緒は30歳。国境やジャンルを超えたこれからの活躍が楽しみな逸材だ。

文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)

『僕の帰る場所』 ©E.x.N K.K.

『僕の帰る場所』 ©E.x.N K.K.

予告編

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