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特集 「移民」と日本社会
「骨太の方針」: 外国人労働者受け入れ拡大を「成功」に導くために

岡部 みどり【Profile】

[2018.09.26]

外国人労働者受け入れ拡大の下で、今後いかに多くの外国人との共生を図れるか。必要とされるのは、効果的な出入国管理戦略や外国人、日本国民双方の便宜を調整するバランス感覚を持つ政策だ。

「移民政策」の有無を問うのは時代遅れ

2018年6月、政府はいわゆる「骨太の方針」を閣議決定し、外国人労働力の受け入れ枠拡大に踏み出した。今後は、日本国内で同等の労働力が確保できない場合に限り、業種別受け入れ方針に基づき新たな外国人労働者が受け入れられることとなる。

今般の政策は、対象となる外国人の在留期間に限りがあり(通算5年が上限)、政府見解では「移民政策とは異なる」。他方で、現行の技能実習制度や高度技能者受け入れ枠組み(「ポイント制度」)との連携や介護士の受け入れ促進を模索するなど、外国人労働者の定住化を緩和する制度改革という印象も受ける。

ところで、「移民政策であるか否か」ということが焦点の1つになっているようだが、そのような問題提起はナンセンスとまでは言えないにせよ、もはや時代遅れである。理由は3つある。

外国人の「同化」は求めない潮流

まず、外国人居住者の言語、文化、社会的帰属性に配慮した政策を移民政策と呼ぶとすれば、いまどきそのような配慮を抜きにした政策形成は自由民主主義国家である日本ではもはや不可能だ。もちろん、外国人への十分な配慮がなされていないという批判は当然あるだろう。しかしそのために「移民政策」が必要であるという前提はもはや成立しないと言える。

次に、対象となる外国人居住者も、もはや伝統的な意味での「移民」という地位を求めていない。彼らは受け入れ先社会への強制的な同化(acculturation)ではなく、生活様式や慣習、言語などの多様性が尊重されることを望んでいる。

最後に、国際的な環境の変化がある。重国籍が取得しやすいような制度改革が欧州で目立つようになった。また、医師や弁護士など資格の相互承認や、年金制度など社会保障についての協定締結が進んでいる。これは、一方では移住希望者の移住のハードルを下げ、他方では、移住先での制度や社会システムに溶け込まない限り安定した生活が送れない「移民」を前提とする社会に代わって、出身国に帰属しているということが支障にならない社会の出現を可能にする。つまり、文化社会的なグループとしてというだけでなく、出身国の国民として国籍国以外で就労したり生活したりできる環境が急速に整いつつある。いわば、「国民性の固定化」である。グローバル化が進む現代において逆行的ではあるものの、興味深い現象である。

ともあれ、以上の理由から、受け入れ国にとっても、移住希望者にとっても「移民」が必要な時代は過ぎ去ったというのが私の見解である。

「還流移民」の概念が日本を後押し

上記を踏まえて、改めて今般の外国人労働力受け入れ枠拡大の意義を考えてみたい。政府は、従来は日系4世の受け入れを通じて非熟練労働力の導入を目指すなど慎重であったのに対し、ここに来て突如性急に大規模な拡大に踏み切った印象を受ける。しかし、おそらく今回の改革の陰の立役者である経団連などは、以前から人口問題を理由に大規模な人の受け入れを提唱していた。そして、治安上の理由から慎重姿勢であったと思われる法務省(入管)や警察庁などを説得して今回の決断に至ったものと考えられる。

このような対立の構図、すなわち財界による外国人労働力導入への積極的なアプローチと、それに反対する治安当局という構図は決して日本特有ではない。しかし、受け入れ解禁を決める環境は国によって異なる。おそらく今回は、旅行者を対象とするインバウンド政策が奏功したという判断に加えて、グローバルな投資、労働環境の整備に関する安倍政権の積極的な方針、産業技術や経営方法などについての日本の独自性への固執が必ずしも比較優位ではなくなった国際ビジネス環境などが背景にあるだろう。

入管政策に即して言えば、「還流移民(サーキュラー・マイグレーション)」という概念が定着しつつある国際環境が、日本の決断を結果的に後押しした面もあるだろう。還流移民とは、外国人労働者が受け入れ国に定住するのではなく、一定期間を経て出身国あるいは第三国へ移動することで、受け入れ国の労働需要を満たすだけでなく、出身国における頭脳流出の解消や社会インフラの発展に貢献しうるという発想に基づく出入国管理戦略である。

途上国援助につながるという観点から国連などが賛同しているが、欧米諸国はこの政策を通じて過度な移民流入の抑制を期待している。ここでは、外国人の(本国)帰還が重要となる。外国人の国外退去を強制送還 (deportation) の形で行うことの限界は多くの先進諸国が体験している。還流移民の利点は、外国人の帰還を本国(あるいは第三国)での経済社会発展に寄与するものとして肯定的に捉えることができ、それが故に帰還を「後ろめたいもの」と考えずに促進できる点である。もちろん、当事者の人権を大きく損なう形での帰還促進は非難されるべきで、国連など国際機関はそのチェック機能を果たすと期待されるが、他方で、このような概念の浸透が、移民解禁に極めて消極的であった日本が、その門戸を開くきっかけになったと考えられる。

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  • [2018.09.26]

上智大学法学部教授。専門は国際関係論、国際的な人の移動研究。専門は国際関係論、国際的な人の移動研究。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻。学術博士 (東京大学大学院)。外務省専門調査員、国際連合大学アカデミック・プログラム・アソシエイト、ケンブリッジ大学国際研究所客員研究員、オックスフォード大学移民研究所 (COMPAS) 客員研究員、上智大学法学部准教授(2007年~14年)などを経て2014年より現職。主な著書に『人の国際移動とEU―地域統合は「国境」をどのように変えるのか?』(法律文化社、2016年/ 編著)。

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