『日本橋江戸ばし』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第2回

今回の名所は江戸、そして東京のシンボルの一つ「日本橋」。東海道五十三次の宿場町を歌った「お江戸日本橋」という民謡があるように、今も昔も日本道路網の起点としても知られる場所だ。

縁起物の初鰹が集まった“江戸時代の築地

広重は日本橋の上に立ち、東にある江戸橋方向を見てこの絵を描いている。手前下に描かれている、桶(おけ)の中の魚は「初鰹(はつがつお)」である。

昔は、初物を食べると75日長生きすると信じられていた。それが「カツオ=勝男」となると、さらに10倍の750日長生きするのだということで、江戸っ子にとっては「女房を質に入れてでも食いたい」代物だったようだ。江戸時代は、この日本橋に魚河岸(うおがし)があったので、広重は夏の名所の代表としてこの場所を描いたのだろう。

現在、日本橋から江戸橋を望むのは首都高のおかげでかなり困難であり、なんとも絵になりにくい場所だと思っていた。しかし、ロケハンで元絵に合わせるように試し撮りすると、意外と空が映ることが分かったので、初夏の青空の日に再訪して撮影した。

2020年東京五輪・パラリンピック終了後に、日本橋付近の首都高速を地下に移設するという話が持ち上がっている。実現した暁には、あらためて撮り直したいと思う。

●スポット情報

日本橋

東京都中央区にある日本橋は、日本橋川に架かる橋。江戸時代には東海道(現・国道1号)や中山道(現・国道17号)といった五街道の始まりの地とされ、現在に至るまで日本の道路の起点に制定されている要所である。周辺は古くから商業と文化の中心地として繁栄し、現在も老舗店と最新の商業ビルが共存する魅力的な町。日本橋から下流にある江戸橋までの北岸には、1935年に築地市場へ完全移転するまで、300年以上にわたって「魚河岸」と呼ばれる魚市場があった。

  • 住所:東京都中央区日本橋
  • アクセス:東京メトロ東西線、銀座線「日本橋」より徒歩2分、都営浅草線「日本橋」より徒歩3分、東京メトロ半蔵門線「三越前」より徒歩1分

浮世写真家 喜千也「名所江戸百景」――広重目線で眺めた東京の今
「名所江戸百景」は、ゴッホやモネなどに影響を与たことで知られる浮世絵師・歌川広重(うたがわ・ひろしげ)の傑作シリーズ。 安政3年(1856年)から5年にかけて、最晩年の広重が四季折々の江戸の風景を描いた。大胆な構図、高所からの見下ろしたような鳥瞰(ちょうかん)、鮮やかな色彩などを用いて生み出された独創的な絵は、世界的に高い評価を得ている。その名所の数々を、浮世絵と同じ場所、同じ季節、同じアングルで、現代の東京として切り取ろうと試みているのが、浮世写真家を名乗る喜千也氏。この連載では、彼のアート作品と古地図の知識、江戸雑学によって、東京と江戸の名所を巡って行く。

『亀戸天神境内』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第1回
『王子音無川堰棣世俗大瀧ト唱』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第3回
『上野清水堂不忍ノ池』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第4回
『蒲田の梅園』:浮世写真家喜千也の「名所江戸百景」第5回
『水道橋駿河臺』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第6回
『綾瀬川鐘か渕』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第7回
『堀切の花菖蒲』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第8回
『赤坂桐畑』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第9回
『市中繁栄七夕祭』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第10回
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