『王子音無川堰棣世俗大瀧ト唱』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第3回

「王子音無川堰棣世俗大瀧ト唱」は、「おうじおとなしがわえんたいせぞくおおたきととなう」と読む。現在は、桜の名所として知られる飛鳥山の北西に隣接する「音無川親水公園」辺りを描いた1枚だ。

小さなダムを「大瀧」と呼ぶ江戸っ子の粋

かつての王子は、日本橋や神田の江戸っ子が日帰りで出掛ける、自然豊かな行楽地だったようである。広重は、そんな王子の春の盛りをこの絵に残している。

描かれているのは石神井川であるが、王子権現(現・王子神社)の辺りでは音無川と呼ばれていたようだ。奥の方にはダムのような貯水の役割を持つ堰棣(えんたい)があり、そこから水が流れ落ちるのを見て、人々は「大瀧」と俗称を付けていたようだ。

現在の石神井川は、飛鳥山の地下をバイパスしているので、かつての川床は「音無親水公園」となっている。桜や紅葉する樹木が多数植えられているので、季節ごとの自然を感じることができる憩いの場である。

元絵に描かれている左側の丘は飛鳥山である。何とか写真に収めたいと思い、探し回って稜線(りょうせん)だけは写し込めそうな場所を見つけた。ファインダー越しに、川のカーブ、満開の桜、飛鳥山が同時に見えた時、往時をしのべる写真になったと感じた。

●スポット情報

音無親水公園

昭和30年代に河川改修工事が行われる前まで、王子神社と飛鳥山公園の間には石神井川が流れていた。その旧流路を利用して造られたのが「音無親水公園」。飛鳥山同様、春には桜、秋には紅葉が美しいことで知られ、「日本の都市公園100選」にも選出されている。

  • 住所:東京都北区王子本町1-1-1
  • アクセス:JR京浜東北線、東京メトロ南北線「王子」より徒歩3分、都電荒川線「王子駅前」より徒歩3分

浮世写真家 喜千也「名所江戸百景」――広重目線で眺めた東京の今
「名所江戸百景」は、ゴッホやモネなどに影響を与たことで知られる浮世絵師・歌川広重(うたがわ・ひろしげ)の傑作シリーズ。 安政3年(1856年)から5年にかけて、最晩年の広重が四季折々の江戸の風景を描いた。大胆な構図、高所からの見下ろしたような鳥瞰(ちょうかん)、鮮やかな色彩などを用いて生み出された独創的な絵は、世界的に高い評価を得ている。その名所の数々を、浮世絵と同じ場所、同じ季節、同じアングルで、現代の東京として切り取ろうと試みているのが、浮世写真家を名乗る喜千也氏。この連載では、彼のアート作品と古地図の知識、江戸雑学によって、東京と江戸の名所を巡って行く。

『亀戸天神境内』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第1回
『日本橋江戸ばし』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第2回
『上野清水堂不忍ノ池』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第4回
『蒲田の梅園』:浮世写真家喜千也の「名所江戸百景」第5回
『水道橋駿河臺』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第6回
『綾瀬川鐘か渕』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第7回
『堀切の花菖蒲』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第8回
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