日印関係のこれから

第2期モディ外交と日印関係:当面は密接な関係の継続か

国際・海外 政治・外交

中国、米国という大国をにらみつつ、日本とインドの両国は緊密な関係を近年構築してきた。しかし、モディ政権の極端な「ヒンドゥー国家主義」、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉離脱など、先行き不安な材料も出てきている。

モディ外交が2期目に入った。モディ首相率いるインド人民党(BJP)が、前回2014年に引き続き、2019年の総選挙でも勝利を収めた結果である。

なぜ、本論タイトルのようにモディ外交と呼ばれるのか。それは、モディの指導力や政策・情勢的な考え方が色濃くインド外交に反映され、外遊・首脳会談などの頻繁な外交活動を展開されているからである。おそらく、インド独立(1947年)以降、首相名が冠せられた外交としては、非同盟に象徴されたネルー外交やインディラ・ガンディー外交に次いで3番目であろう。海外の類例としては、トランプ、安倍、プーチンなどによる外交が連想される。

そこで、第1期モディ政権(2014-19年)のインド外交を第1期モディ外交、第2期モディ政権(19-24年)を第2期モディ外交と便宜的に名付ける。安倍外交とは、第1期モディ外交では全期間、第2期でもしばらくは任期が重なる。あらかじめ結論めいたことを述べれば。日印両国はそれぞれの外交政策上、相互に不可欠な相手国であり、当面は密接な関係が続くだろう。

第1期モディ外交:大国指向を打ち出す

まず、第1期モディ外交を概観してみたい。おそらく、最大のポイントは、従来とは異なり(※1)、インドが大国指向(※2)を明確にしたことであろう。インド外交が非同盟というのは、もはや神話である。

BJPは2014年の総選挙綱領で「卓越したインド」を目玉に掲げ、モディ首相も15年2月に開催されたインド在外公館長会議で「インドが、単なる均衡勢力(国)よりもむしろ、世界的に主導的な役割(leading role)」を演じるよう要請した。続く同年5月、今度はジャイシャンカール外務次官が国際戦略研究所(シンガポール)で講演し、「単なる均衡勢力になるよりも、リーディング・パワー(leading power)になる」と強調した。両者の発言は単にroleをpowerに置き換えたという違いだけでなく、単純化すれば、「大国」(major power)と同義的な意味合いが付加されよう。大国化の意図を明言したことは、インド外交の転換を意味する。

この転換には、インドが経済的・軍事的に大国化しつつあるという背景がある。インドのGDPは世銀統計によれば、モディ政権が登場した14年には2.04兆米ドルで世界第9位だったが、2018年には2.73兆米ドルと7位に躍進している。防衛面では、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が算出した防衛支出も、14年の461億米ドル(世界8位)から2018年には665億米ドル(4位)に浮上し、9位の日本を追い抜いた。

世界の軍事費トップ10

軍事費(億ドル) 2009年からの増減(%)
1 米国 6490 -17
2 中国* 2500 83
3 サウジアラビア* 676 28
4 インド 665 29
5 フランス 638 1.6
6 ロシア 614 27
7 英国 500 -17
8 ドイツ 495 9
9 日本 466 2.3
10 韓国 431 28

出所:ストックホルム国際平和研究所
*は推計値

しかし、現実のインドは、中ロと協調する一方で日米と協力もするという不可思議な外交を進めている。全方位外交という物差しで見れば簡単だが、それだけではインド外交の戦略的な構造を理解するためには不十分である。単に大国化の要件を具備しただけでなく、これに伴う枠組みを整えつつあると見ることで納得しやすい。この枠組みとは、インド外交がグローバル、リージョナル(インド太平洋)、ローカル(南アジア)の3つのレベルで展開されているという点にある(※3)。この枠組みは第1期モディ外交に徐々に鮮明化されたが、具体的に進展したとは言いがたい。

第2期モディ外交:米中の双方に配慮

ただ、大国化指向といってもそれは将来のグローバル・レベルでの話であり、当面はリージョナル・レベル(インド太平洋)がインドにとって最大の外交的な主戦場である。そうなると、インドにとっては日本が最も重要で不可欠な相手国になる。その理由は2点に集約できる。

第1には、米国の消極的な姿勢とも関連する。米国第一主義を掲げるトランプ政権は、オバマ政権が進めた環太平洋経済連携協定(TPP)とアジア・リバランス政策を代替策のないまま放擲(ほうてき)した。アジア政策は不在のままであった。そうなると、2017年11月におこったトランプ大統領のアジア初歴訪では、アジア政策をもたないことから安倍首相が唱える「自由で開かれたインド太平洋」(Free and Open Indo-Pacific。FOIP)に同調せざるを得なかった(※4)。米政府が翌12月に公表した『国家安全保障戦略』は、中ロに対する警戒感をあらわにし、中国が「インド太平洋地域から米国を追い出し、政府主導の経済体制を拡大している」と批判、「われわれは、インドが主導的なグローバル・パワーと強力な戦略的・防衛上のパートナーとして台頭することを歓迎する。米国は日本、オーストラリア、インドとの4カ国協力の増大を追求する」(※5)と強調した。ここで言う協力とは、FOIPの具体的な措置とでも言うべき4カ国枠組み(Quad)である。従来は、事務局レベルだったが、19年9月には外相レベルに格上げされた。

トランプは20年2月に初訪印し、モディ政権は最大限の「おもてなし」態勢で出迎えた。トランプはインドが約300億米ドルにのぼる軍用ヘリなどの米国製兵器を購入すると吹聴するとともに、Quadについても取り組む姿勢を見せた。兵器購入はインドの対米貿易大幅出超への埋め合わせである。

第2には、印中関係がある。インドの対中政策は「関与と警戒対応(ヘッジング)」である。印中間では国境問題が依然として最大の懸案である。しかも、中国が進める一帯一路政策(BRI)とその具体化である中国パキスタン経済回廊は、インドには自国の包囲網に見える。しかし、インドとしては安定的な両国関係を築きたいし、なんとか対中関係をマネージ(管理)したいのである。そこで、インドはFOIPに包摂的な(Inclusive)という言葉を加えてFOIIPとした。包摂的とは中国を排除しないとしたわけで、中国の懸念解消を狙ったのである。

RCEP交渉離脱の衝撃

日印両国の外交にとって最大の成果は、両国関係の緊密化であった。インドは1990年代以降、ルック・イースト政策、次いでアクト・イースト政策を掲げ、東南アジア諸国連合(ASEAN)接近を進めた。その結果、ASEAN対話国(95年)となり、2012年には戦略的パートナーシップを結ぶまでに至った。ASEANはインド総輸出入額で第4位(約1割)を占める。

インドはASEANとの経済関係の強化を目指して、12年から東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉にも参加した。RCEPは、日本のインド太平洋政策上、重要な外交インフラとして位置付けられている。第2期モディ外交では、ASEAN地域との経済・外交の密接化も期待されていた(※6)。しかし、19年11月、インドは、突如、RCEP交渉からの離脱を表明した。その理由は、印中貿易でのインドの大幅な入超や安価な流入品を危惧するインドの産業・農業関係者の強い反対などがあったからである。

離脱の結果、インドの東南アジア政策は、これまで実現した果実を失いかねない。シンガポール生まれのインド系研究者のK・マハブーバーニーは、インドの離脱について「インドが最後の瞬間に撤退したことは、RCEPプロセスを打ち壊し、イギリスのブレグジットと同じであり...インドはそのルック・イーストやアクト・イーストの政策がまったく無意味になることを理解するようになろう」と酷評した(※7)

日本外交からみれば、米国の離脱で環太平洋経済連携協定(TPP)が弱体化し、さらにRCEPでも後退することになり、インド抜きのRCEPはインド太平洋外交にも大きな損失となる。中国は、「早期の協定発効に積極的な姿勢を示し、インドに復帰を呼びかける一方、インド抜きでも署名を目指す構えを示唆」(※8)と伝えられるが、インド離脱でRCEPにおける日本の影響力が弱まることにほくそ笑んでいるだろう。

安倍首相は、インド国内の反政府暴動でキャンセルされた19年12月の訪印(今回で14回目となる日印首脳会談)では、両国関係の緊密化促進を図ろうとしていたと見られていた(※9)。特に、自衛隊とインド軍が物資や役務を融通しあう「物品役務相互提供協定」(ACSA)の大筋合意が眼目だった。安全保障では、日印を「準同盟」関係の象徴と位置付け、共同訓練などを通じ中国への抑止力を強化するとともにインドがRCEP交渉に残るよう呼びかけると言われた(※10)。同年11月には、日印は初の外相・防衛相協議(2+2)が開催され、ACSAの基本合意も成立していた。

インド外交と日印関係の展望

インド大国化の成否は、今後のグローバルな秩序形成にとって大きな意味合いを持っている。その焦点はインドが中国とどう向き合うかという課題に収斂(しゅうれん)される。さらに根源的には、印中の対立関係を勢力圏争いと見るだけでなく、中国の独裁的な国家体制に対してインドのリベラルな国家体制という基本的な対立と見ることも可能であった。しかし、第1期と第2期のモディ政権が進める、ヒンドゥー教を優先しムスリムを排除するというヒンドゥー国家主義は、国内だけでなくイスラム圏の反発をも招き、“民主国家”のイメージに傷がついた。

インド太平洋の国際政治は、中国の影響力が増大する中で、米国の地位が相対的に低下とする情勢にある。中国の狙いは米国に代わる覇権の確立にある。特に2020年に入ってからの新型コロナウイルス(COVID-19)まん延については、米国が中国批判を繰り返す間、中国が医療物資をイタリアやイランなどの困窮国に提供するとともに、積極的な海外広報戦略を展開し、米国からグローバル・リーダーの役割を奪おうとしているとの警戒感も浮上している(※11)

インドはFOIPやQuadで中国と対峙するとともに、SCO(上海協力機構)、BRICS首脳会議、ロシア・インド・中国のRIC外相会議で中ロと協力するという両面作戦に依拠せざるを得ない。しかし、インドが大国化を実現しない限り、いつまでバランス的な外交で乗り切れるのかは疑問であり、当面、日本との関係が有効な外交カードになるのである。

日本は明治以降、日英同盟、日独伊三国同盟、次いで第二次大戦後には日米同盟を外交の基軸に置いた。インドの場合、非同盟とは米ソいずれの陣営にも加わらないだけでなく、もう一半の意味は非同盟諸国が連携することだった。1970年から80年代の印ソ同盟は明らかに連携外交である。日本とインドには米国のようなナショナル・パワーがないため、相手国との関係を貴重な外交インフラとして維持・発展せざるを得ない。従って当面、日印両国とも、外交に関する限り、予断を許さないものの、両国関係を重視する外交を進めざるを得ないだろう。

バナー写真:G20大阪サミットを機に開かれた日米印首脳会談の冒頭、笑顔を見せる(左から)米国のドナルド・トランプ大統領、安倍晋三首相、インドのモディ首相=2019年6月28日、大阪市住之江区(時事)

(※1) ^ 堀本武功編『現代日印関係入門』東京大学出版会、2017の第1章参照。

(※2) ^ 詳しくは、『インド 第三の大国へ―〈戦略的自律〉外交の追求―』岩波書店、2015年と「モディ外交:大国化指向外交の展開」『現代インド・フォーラム』2019年夏季号を参照。

(※3) ^ Takenori Horimoto, ”Explaining India’s Foreign Policy: From Dream to Realization of Major Power” International Relations of the Asia-Pacific (OUP), Volume 17, Issue 3, September 1, 2017.

(※4) ^ 堀本武功「「自由で開かれたインド太平洋戦略」:インドの対応は“不即不離”」NIPPON.COM 18.9.14

(※5) ^ The White House*, National Security Strategy of the United States of America, December 2017, p.46.

(※6) ^ Prabir De, “Act East to act Indo-Pacific: Agenda for the new government,” The Economic Times, June 1, 2019.

(※7) ^ Kishore Mabhubani, “ASEAN’s quiet resilience,” East Asia Forum, December 8, 2019

(※8) ^ 2019年11月17日付『日本経済新聞』(「中国がRCEPに積極姿勢」)。

(※9) ^ Jain, Purnendra[2019]“Abe’s India visit to further deepen bilateral ties,” The Japan News, 11th December 2019

(※10) ^ 2019年12月11日付『日本経済新聞』(物品相互協定、大筋合意めざす 首相、15日に訪印「準同盟」の象徴に)。

(※11) ^ Kurt M. Campbell and Rush Doshi, “The Coronavirus Could Reshape Global Order China Is Maneuvering for International Leadership as the United States Falters, The Foreign Affairs, March 18, 2020

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