日本の新たな半導体戦略

先端ロジック半導体製造を目指す「ラピダス」の今後:経産省の西川和見参事官に聞く(後編)

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nippon.comの竹中治堅・編集企画委員長(政策研究大学院大学教授)による西川和見・大臣官房参事官・経済安全保障室長へのインタビュー。後編は、これまでの日米半導体研究の積み重ね、新会社「ラピダス」の狙いと今後について。

西川 和見 NISHIKAWA Kazumi

経済産業省大臣官房参事官・経済安全保障室長。1973年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業後、96年に通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業庁金融課、シンガポール赴任(アジア担当産業調査員)などを経て、20年商務情報政策局産業課長、22年同局総務課長。23年7月より現職。

(前編はこちら)

次世代の半導体狙うラピダス

竹中 次にラピダスについて伺う。2022年8月に日本の主要企業8社の支援を受けて設立され、米IBMとの2ナノの技術での連携が11月に発表された。欧州のIMECとも協力覚書を締結し、27年の生産開始を目標としているということだが、設立の経緯を教えてほしい。

西川 もともと2020年の段階から、次世代半導体の技術開発の重要性は認識されていた。その課題は2つあって、一つはフィンフェットに代わるGAAテクノロジー。もう一つは先端後工程組み立てだ。この2つの課題に対処して21年の春に最初の技術開発投資を筑波でしている。前者は、日本のキヤノンや東京エレクトロンといったような製造装置メーカーと、インテルとかも入っているが、半導体関係者が集まってビヨンド2ナノの要素研究をやる。予算は420億円ほどだ。後者は、TSMC(台湾積体電路製造)が3D icセンターというのを日本につくるというのを21年2月に決めて、これも稼働している。

フィンフェットに代わるビヨンド2ナノについては、米ニューヨーク州のオールバニで20年ぐらい前に、IBMや東京エレクトロンなど日米の半導体関係者が集まって微細化の研究開発を始めた。その成果としてできあがったのがGAA構造を持つ、IBMのビヨンド2ナノの試作品だ。IBMの試作品と言っているが、もう少しフェアに言うと日米の企業が研究開発の上に生み出したものだ。

この試作品開発を量産化できないかという話がIBMからあり、小池(淳義、ラピダス社長)さんや東(哲郎、同会長)さんがリードして、この実現のためにつくったのがラピダスということだ。

会社設立は東、小池両氏が主導

竹中 2021年6月に最初に出た半導体デジタル産業戦略には、日米連携の話は出ていない。しかし、同年11月のペーパーには明確に打ち出されており、この間に経産省と米商務省とか、それともIBMと小池さんの間でかなり具体的に話が進展したのかなと感じる。それは的確な理解と言えるか?

西川 その答えは、イエス・アンド・ノーだ。まず政府の方から見ると、2021年6月の半導体デジタル産業戦略に最先端ロジックの技術開発として、先に述べた二つの課題をやろうと打ち出し、実際につくばでやり始めている。それは要素技術開発なので、(日米連携を)さらに先に進めなければいけないという議論をしていたのは事実だ。ただ、会社を作るとかではなく、結局日本だけでやっても(技術開発は)無理で、米国や欧州のIMECのような研究拠点と繋いでやっていかないと無理だということを、当時議論して11月に書いた記憶がある。IBMからのアプローチの話は東さんや小池さんに聞いていただいた方が良いと思う。東会長は20年だとか19年だとか、話されていると聞いているが。

竹中 ラピダスの設立に経産省はどのように関与しているのか。

西川 ラピダスの会長に就任した東哲郎さんは、「半導体・デジタル産業戦略」の取りまとめの座長をされていた方。東さんからいろんな形でビヨンド2ナノの重要性とかを聞いているのは事実だが、会社の設立という観点で言うと、これは本当に東さん、小池さんのリーダーシップによるものだと思う。

何か大事だという時に、自分が先頭に立つという人がいないと、誰もこの指に止まれない。かつての日本なら、例えば国が奉加帳方式でお金を回して、関連する企業が集まり、じゃあそこから技術者を集めて「どうしましょう?」みたいなこともあったのかもしれないが、ラピダスは全く違う形で、コアとなる2人がこれを作ろうと決め、出資する企業8社を回った。経産省としても相談を受けたのは事実だし、うまくいってほしいという思いがあったのでさまざまなサポートをした。しかし、どこかで書かれているように、経産省がラピダスをつくったというのは事実と違う。

竹中 ラピダスは経産省が設立に深く関与している「国策会社」なのだ、という受け止めは広く認識されているのではないか。

西川 正確に言えば、資金的な面で、またこの分野が重要だと経産省が意思表示することで、企業が(ラピダスに)投資しやすくなるとか、そういう影響があったということはあるだろう。ただ、経産省が作りたいと思っても、東さんと小池さんがいなければ会社設立は絶対なかった。

西川和見氏(左)にインタビューするnippon.comの竹中治堅・編集企画委員長=2023年6月22日(撮影・石井雅仁)
西川和見氏(左)にインタビューするnippon.comの竹中治堅・編集企画委員長=2023年6月22日(撮影・石井雅仁)

設計コストを抑えた専用品を

竹中 ラピダスは最先端のロジック半導体生産の国産化という目標を掲げているが、その行方を冷ややかに見ている人も多い。大量生産はTSMCといったファウンドリーが既に手掛けている。GAFAといった巨大企業は自社で使う半導体を独自設計する時代になってきた。ラピダスはどの分野を狙って事業を展開するのか。

西川 小池さんの説明によれば、少量生産の専用品を狙っていく。例えば米アップルのスマートフォンには最先端の半導体が使われているが、製品は1億個、2億個の単位で入れるので、その半導体も1億個、2億個という需要がある。こういう半導体には、設計に莫大なコストをかけることができる。

少量生産の場合、例えばトヨタやフォルクスワーゲンが高級機種用の自動運転の最先端のチップを発注しても、その需要は多くて数十万枚個といったところではないか。スマホとは桁が2つか3つぐらい違い、同じ設計の手間をかけるわけにはいかない。

ラピダスが挑戦しようという分野は、最先端の半導体を、コストを下げながら、また納期を短くしながら設計できるような工夫をしようということだ。実現に向けては2つの考え方がある。一つはチップレット。半導体を機能別に生産をして、一つのチップに後で合体するものだ。この合体が言うはやすく難しいもので、先端後工程技術の進化がカギとなる。もう一つは、これは私の推測だが、AI(人工知能)の活用だろう。回路設計の部分に生成AIを使うことによって、どこまでコストを安く、設計にかかる時間を短くできるのかが焦点になる。

米欧との協力・連携がカギ

竹中 ラピダスには、すでに巨額の国費が投入されている。

西川 令和3年度の補正予算で1100億円の研究開発予算を積んだうち、昨年11月に最大700億円をラピダスに供与している。また先日、追加で最大2600億円の研究開発資金をラピダスに供与した。これは、令和4年度の補正予算の4500億円の研究開発費の中から出ている。この4500億円は、もちろんラピダス以外にも次世代メモリの開発や光電融合技術の開発などに使う予定だ。

この予算で全て開発できるというわけではなく、プロジェクトの進捗も踏まえながら、研究開発資金を順次供与する考え方を取っている。研究の進行状況をその都度確認して、次を行うという形だ。最初の700億円には、「3つのゲート」を設定した。一つは、最先端の試作品のライセンス契約を適正な価格で、そのノウハウも含めて手に入れられるのかという点。2つ目は、 EUVという最先端の開発をするのに必要な露光装置について。欧州の半導体研究機関IMECと製造元のASML(オランダ)の協力を取り付け、きちんと確保できるのか。3つ目はパイロットライン建設の計画を具体化することだ。

竹中 半導体産業とその技術に詳しい有識者の一部には「いま線幅40ナノの半導体しか作っていない日本が、一足飛びに2ナノを製造するのはどう考えても無理だ」との指摘もある。この批判についてはどう考えるか。

西川 その実現に、どれだけ時間を短縮できるのかという考え方だと思う。ゼロから始めるなら無理な話だが、先ほど話したように日米の企業はこれまで20年間かけて試作品の開発を一緒にやっている。そのテクノロジーを使えば、相当下駄を履いて研究開発期間を圧縮することができる。さらにIMECやASMLの協力を得ることで、現実的な形にもっていきたい、ということだ。

今後の研究開発に数兆円?

竹中 ラピダスは北海道千歳市を拠点に選んだ。半導体の産業集積が全くない場所だ。選定自体に経産省は関与しているのか。

西川 いろんな相談を受けたが、あくまで選定主体はラピダスだ。最も大きなポイントは、用地の広さだと言われている。100ヘクタールという話だが、それもこれから造成するというのでは間に合わない。候補がたくさんあったわけではない。

これだけの事業規模になると、既存の半導体工場の近くに進出するのは人材確保の面で逆に難しいと思う。最初は外から技術者を呼び、人材育成は長い目で、地場の大学や高専にしっかり育ててもらうということになるのではないか。

竹中 ラピダスは、今後も数兆円の研究開発資金が必要だという。これも今後、国が資金を供与していくつもりなのか。

西川 リスクのある大規模な研究開発をやっている時に、国が一定程度の支援をするということはある。ただそれも、進捗を丁寧に確認しながらやらなければいけない。量産に近づけば近づくほど、当然民間からも資金を確保しないといけない。適切なタイミングで民間からの資金を、大量に投入していけるかというのが課題になる。

日本への関心「高まっている」

竹中 6月に経産省の政策指針となる「半導体・デジタル戦略」が改訂された。改訂のポイントについて説明してほしい。

西川 2030年における日本の半導体の売上高目標を15兆円と明確に提示した。またロジック半導体だけでなく、メモリやパワー半導体、イメージセンサー、先端後工程についても今後何をやっていくのかという個別の戦略を示している。

また、今後大事になるのがAI(人工知能)だ。そのコンピューティング能力を日本で産業基盤として強化しなければならない。今回生成AIが出てきたということもあり、AIの産業基盤をしっかり日本に確立することがそもそも大事だし、またこの生成AIが実はラピダスやTSMCのような先端半導体の需要を爆発させるというような関係にもある。

竹中 5月18日に岸田首相が米国や欧州、韓国、台湾の半導体関連7社の幹部らと首相官邸で意見交換した。米国はインテル、マイクロン、IBMなど、韓国はサムソン電子、台湾はTSMCと、いずれもグローバル企業が顔をそろえた。この会合の意味について解説してほしい。

西川 先端半導体企業誘致の補助金を6170億円補正に積んだのが、岸田政権が始まった直後の2021年12月。この2年間、海外(の半導体関連企業)の日本への関心は高まっている。補助金だけでなく、熊本県なり鹿島のような建設会社がしっかりと仕事をして「TSMC の工場は結構早く、うまくできそうだ」という評判になると他の企業も日本を注目するし、生成AIの分野でサム・アルトマン氏と岸田首相が会うというニュースがあると、「日本は何かやるのか、半導体の投資をするべきかも」という思考になる。残念ではあるが、日本の物価や人件費が相対的に安くなっているという事情も、関心の高まりの背景の一つだ。

あの会合は投資の要請ではなく、日本への関与、大規模投資に一定のコミットをしている企業を招き、我が国が半導体のサプライチェーンでどのような位置づけとなるべきか、議論したということだ。

バナー写真:記者会見で写真撮影に応じるラピダスの小池淳義社長(左)と東哲郎会長=2022年11月11日、東京都港区(時事)

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