配偶者と死別した“没イチ”シニアの生き方から考える日本の「高齢多死社会」

社会 暮らし 家族・家庭 文化

核家族化、高齢化が進む中で、配偶者が「没」して「一人」になった(=没イチ)シニアが増えている。頼れる友人も少ない日本の“没イチ”シニアたちの現状から、より良い高齢期の生き方を探る。

上昇し続ける配偶者との死別年齢

今後20年間、世界有数の高齢多死社会に突入する日本では、配偶者と死別したシニアたちがどう生きるかが切実な問題になっている。

総務省「国勢調査」によれば、1990年に65歳以上の女性の56.6%は死別者、夫がいる女性は40.1%で夫と死別した人の方が多かったが、2015年には死別者38.7%に対し、夫がいる女性が51.4%と過半数を占めた。75歳以上に限ると、女性の57.6%が死別者となることから、この25年間で夫と死別する年齢がざっと10歳は上昇していることが分かる。

これは、男性の寿命が長くなっているためだ。1990年には80歳を超えて亡くなった男性は30.5%しかいなかったが、2016年には51.7%に増加している。

かつては、「夫が亡くなると、妻はぴんぴん元気になる」といわれていたが、夫との死別年齢が上がっており、死別後に妻が元気で暮らせる期間が短くなっている。90歳近い両親が共に要介護状態で、別々の高齢者施設に入居させていた知人の場合、父親が亡くなった時には母親の認知症がかなり進んでいたため、父親の死を伝えなかったそうだ。女性は80歳を過ぎると認知症の有病率が急増し、80代後半では58.9%に認知症の兆候が見られるとの調査もある。

隣人にあいさつもしない高齢男性の一人暮らし

厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、1980年には、65歳以上の人がいる世帯の50.1%は三世代同居だったが、2015年には12.2%にまで減少し、夫婦二人暮らしが31.5%を占めた。かつては配偶者と死別しても、子や孫との同居を継続していたが、今では、配偶者との死別は一人暮らしの開始を意味するようになっている。高齢になってからの一人暮らしはたやすいことではない。

男性の死亡年齢も上がっているため、妻と死別する男性の数も増えている。男女で比較すると、死別後の一人暮らしは、人との交流という面で、女性よりも男性に深刻な影響を与えるようだ。

まず、一人暮らしの高齢男性は人とあまり会話しない傾向がある。国立社会保障・人口問題研究所が17年に実施した調査では、一人暮らしをしている65歳以上の男性のうち毎日会話をする人は49%(同女性=62.3%)であるのに対し、15.0%、つまり6、7人に1人(同女性=5.2%)は最も少ない頻度の「2週間で1回以下」しか会話をしないことが明らかになっている。

上記調査の対象となった一人暮らしのシニア男性は、妻と死別したとは限らないが、第一生命経済研究所が妻との死別で一人暮らしになった60代、70代の男性を16年に調査した結果では、別居する家族と週に一度以上会話する人は27.0%(同女性=50,8%)なのに対し、4割以上が「1カ月に1度」「ほとんど話をしない」と回答している。また、4人に1人の男性が近所の人とあいさつさえ交わさないという結果だった。

気の置けない友人が少ない日本のシニア

では友人との関係はどうか。同調査では、同性の友人がそもそもいない男性は33.6%もいた。配偶者と死別し、一人暮らしになっても、お茶や食事を楽しむ程度の同性の友人がいる女性は75.8%いる一方、男性では40.8%と半数にも満たない。困ったことがあれば相談しあえる同性の友人がいるかについて、「いる」と答えた女性54.8%に対して、男性は25.2%にとどまった。男性は、お茶を一緒に飲んだり、趣味を一緒に楽しんだりする友人はおろか、困ったことがあればお互いに相談したり、自分のことを理解してくれる同性の友人はほとんどいない状況だ。

ちなみに異性の友人について見ると、男性の友人がいない女性は59.2%もいる一方、女性の友人がいない男性は44.8%で、女性に比べると異性の友人がいる人は男性の方が多い。とはいえ、妻を亡くした一人暮らしの男性は、同性にせよ、異性にせよ、親しい友人が少ないことに変わりはない。

配偶者と死別したシニアに限らず、日本の高齢者はそもそも、諸外国に比べて友人が少ない傾向がある。2015年内閣府が60歳以上の人を対象に実施した国際比較調査では、「家族以外に相談あるいは世話をしあう親しい友人がいるか」の問いに対し、「いない」と答えた日本人は25.9%だが、米国では11.9%、スウェーデンでは8.9%しかいない。また、スウェーデンでは、6割近くのシニアが同性と異性の友人がいると回答しているが、日本では同性・異性の友人がいる回答者はわずか13.8%だ。配偶者の有無にかかわらず、日本の高齢者には、気の置けない友人がいない場合が多いようだ。

料理はできない、何を食べたいかも分からない男たち

高齢男性には生活力が低い人も少なくない。現在70歳以上の女性の多くは、専業主婦として家庭を切り盛りしてきたこともあり、家事をしない夫が珍しくない。ある調査機関の結果では、60代男性で、週に一度も夕食を自分で料理しない人が6割を超えている。私の知り合いで、70歳の時に妻を亡くした男性は、死別するまでは、一度も家事をしたことがなかった。一人暮らしになった現在、日中に外出の予定がない日でも、夕食は毎日外食しているという。ひきこもらないためにはいいことかもしれないが、自宅で取る朝食も、スーパーで買った食パンにチーズとハムをのせて食べるだけで、料理は一切できない。

別の知り合いは妻と死別して以降、近所に住む娘に夕食を毎日運んでもらっているが、娘は夕方までパートに出ているので、昼食は、男性がひとりで近所のスーパーに弁当を買いに行くという。この男性の悩みは、「売っている弁当の種類が多すぎて、どれを買えばいいのか分からない」ことだ。妻や娘が作った料理を食べる受け身の生活をしているためか、自分で何を食べたいのかも分からなくなっている男性は意外に多い。

夫が死んで低栄養に陥る女性たち

一方、高齢女性も夫と死別して一人暮らしになると、毎日料理をしなくなる傾向にある。煮物を作ったら何日もそれを食べ続けるとか、簡単なもので済ませる人は少なくない。厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」(2016年調査)によれば、65歳以上の女性のうち、「BMI(体格指数)」が20以下の低栄養にある人の割合は22.0%、85歳以上の女性では34.3%に達する。しかもこの10年間で、低栄養の高齢女性の割合は増加している。これは一人暮らしを対象にした結果ではないものの、高齢になるほど女性の独居率は上がるので、料理ができても、夫と死別して一人暮らしになると、栄養を十分に摂取しなくなる可能性がうかがえる。

ところで、ここ数年、死別した配偶者の親族との付き合い方にも変化が出ている。夫と死別し、「姻族関係終了届」を出す女性が年々増加している。「死後離婚」と一般には言われるが、夫の親族との関係を解消するという意思表示の届けを指す。日本では、婚姻届を役所に提出すると、配偶者との婚姻関係だけでなく、配偶者の両親や兄弟姉妹など姻族との関係も結ばれる。離婚の場合は姻族関係も消滅するが、死別の場合は、婚姻関係は終了するものの、姻族関係は継続される。そのため、夫が長男だった場合、夫が亡くなった後も、妻は夫の両親の介護を一手に引き受け、夫の先祖の墓を守ることが当たり前だとされてきた。

しかし核家族化が進み、「夫と結婚したのであって、夫の親族と結婚したわけではない」と、夫の死亡後に姻族関係終了届を出して、夫の両親の扶養義務を解消したいと考える女性が増えているようだ。

「没イチ会」が目指すこと

私自身は8年前に夫と死別した。そのことがきっかけとなり、2015年、講師を務める立教セカンドステージ大学(立教大学が50歳以上の人たちを対象に開設した学びの場)の学生や卒業生のうち、配偶者と死別した人たちと「没イチ会」(没イチ=配偶者が死んで一人になったことを指す)を結成した。会では、亡くなったことを嘆き悲しむより、先に逝った配偶者の分も合わせて2倍人生を謳歌 (おうか)しようというスローガンを掲げている。その一環で、18年に妻と死別したシニア男性のファッションショー「没イチ メンズコレクション」を開催した。前述したように妻に先立たれた男性は、交友関係が少なく、ひきこもりになりがちだ。お金をかけずともちょっとファッションに興味を持てば、外出してみたくなるのではないかという提案だ。

ロックのリズムにのって登場した「没イチ メンズコレクション」出演者たち(提供:小谷みどり)
ロックのリズムにのって登場した「没イチ メンズコレクション」出演者たち(提供:小谷 みどり)

高齢期は夫婦二人暮らしが主流になった今、「配偶者だけが頼り」という生活は、死別した後の孤立につながりかねない。元気なうちに多様な人間関係を構築しておくことが、一人暮らし高齢者が増える社会に求められている。

 (2019年2月 記)

バナー写真=2018年12月東京・三田の弘法寺で開催した「没イチ メンズコレクション」。中央は筆者(写真提供:小谷 みどり)

高齢者 葬祭 家族・家庭 高齢化社会 高齢化 シニア シニア