入管難民法「改悪」から問い直す外国人労働者の受け入れと排除

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政府の新たな入管難民法改正案では、「送還忌避者」の長期収容問題の改善策は示されず、難民申請者も3度目の申請以降は送還可能となる。国際人権基準を満たしていないと国連から批判される日本の入国管理・難民認定政策の背景を探る。

鈴木 江理子 SUZUKI Eriko

国士館大学教授。博士(社会学)。専門は移民政策・労働政策・人口政策。NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」副代表理事。主著に『アンダーコロナの移民たち』(明石書店、近刊)、『新版 外国人労働者受け入れを問う』(岩波書店)、『日本で働く非正規滞在者』(明石書店)など。

収容前提は変わらない

退去強制の対象となった外国人の長期収容問題の解消を目指す入管難民法改正案が2021年の通常国会で審議中だ。改正案は、逃亡の恐れがない場合、収容に代わる措置として、「監理人」の下で施設外での生活を認める制度を設ける一方で、退去強制命令に従わない場合の罰則を盛り込んでいる。また、送還を回避する目的で何度も難民認定を申請する事例があることから、3回目以降の申請では強制送還を可能にした。人権への配慮を欠き、根本問題を解決していないと鈴木江理子国士館大学教授は指摘する。

「一番の問題は、『全件収容主義』(退去強制手続きの対象者は全て収容する方針)を見直していないことです。自由を拘束する収容措置に司法の審査も必要とされず、収容期間の上限も設けられていない。入管難民法改定後も無期限収容が可能な状況は変わりません。刑事手続きでも、身柄の拘束には裁判所の令状が必要とされます。それすら必要とされない現行制度を見直さなければいけません。また、管理を目的とする出入国管理と保護を目的とする難民認定が同じ法律で規定されていること自体が問題です。難民保護に特化した法律をつくるべきです」

出入国在留管理庁(以下、入管庁)によると、在留期間を超えて滞在している不法残留者(オーバーステイ)は21年1月時点で8万2868人、「退去強制令書」(以下、退令)が出ても帰国を拒む「送還忌避者」は、約3100人。

鈴木教授によれば、退令を発付された外国人の「9割以上」は帰国している。なおも日本での滞在を求めるのは、帰れない事情を抱えている場合がほとんどだ。「送還忌避者」は主に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)と大村入国管理センター(長崎県大村市)、あるいは地方入管局の収容場に収容されるが、収容期間が3年以上の長期に及ぶ人たちもいる。「仮放免」を認められる人もいるが、就労は認められず、移動にも制限があり、保険もない。支援者がいなければ生活に困窮する状況だ。

今回の改正案では、仮放免を見直して「監理措置」を導入するとしているが、「どちらにしても、当事者の不安定な状況は変わりません。むしろ、当事者や支援者にとってさらに厳しい状況となります」

罰則規定もある「監理人」に誰がなるのか

2019年6月、大村入国管理センターで、「仮放免」を求めたハンガーストライキをきっかけに、ナイジェリア人男性が餓死したことを受け、収容・送還に関する見直しが検討された。その結果、導入されることになったのが「監理措置」だ。逃亡の恐れがない人などを対象に、「監理人」の監理の下で施設外での生活ができるようにするというものだ。

だが、そのためには従来の仮放免と同様に300万円以下の保証金の支払いが条件となり、監理人には対象者の生活状況を届け出ることが義務付けられる。さらに、虚偽の届け出をすれば10万円以下の過料に処される。入管庁は、親族、弁護士、NPOや宗教組織などを監理人として想定しているが、その想定自体が「無責任」だと鈴木教授は言う。

「弁護士は守秘義務違反や利益相反になるので監理人にはなれません。NPO、仮放免者にシェルターを提供している宗教組織なども、当事者との信頼関係という点から、監理人を引き受けられないというところがほとんどです。退令発付前の人は、一定の条件のもと就労が認められますが、発付後の外国人には認められず、生活支援の予算措置もありません」

退令発付後の外国人が働くと3年以下の懲役の対象になる。国民健康保険にも入れない。さらに、改正案には「送還忌避罪」が盛り込まれた。退令に従わなければ1年間の懲役、または20万円以下の罰金の対象になる。

難民申請者も強制送還の対象に

日本の難民認定率は0.4%(2019年)。欧米と比較すると格段に低いことがかねてから指摘されてきたが、今回の入管法改正により、難民申請中の人たちは、より厳しい状況に置かれる。前述のように、3回目以降の申請中に母国に送還される可能性があるからだ。

一方、難民条約上の難民には該当しないが、条約が定める5つの理由(人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見)以外で、迫害の恐れがある人を「補完的保護対象者」として難民に準じて保護する制度が設けられる。

「補完的保護は、これまでの『人道配慮による在留特別許可(在特)』よりも枠が狭まる可能性もあります」と鈴木教授は言う。「日本の難民認定は、政府から拷問を受けたり、指名手配されたりなど、個人に対する迫害の客観的証拠がないと認められないのです。例えばクルド人であることで差別され、迫害を受けているという人たちを難民とは認めていません。従って、補完的保護が設けられても、クルド人難民申請者は保護の対象にはならないでしょう」

法務大臣の自由裁量で決まる在特は、判断の過程や基準が不透明という批判があった。改正案では、判断の際に考慮される項目を法律に明記し、在特の申請手続きを創設するとしている。

「申請を認めるといっても、審査の透明性が保障されるわけではありません。現行の退去強制手続きでは、母語通訳の手配や、口頭審理での弁護士の立ち会いなどが認められていますが、新たな申請制度では、そういった手続き保障が明記されていません。また、すでに退令が発付されている人には在特の申請が認められないので、帰れない事情を抱えている『送還忌避者問題』は、解決されないままです」

「不法滞在者(非正規滞在者)」といわれる人たち

4月に開催された入管法改正に抗議するための緊急オンラインイベント(移住連主催)には、退令が発付されている非正規滞在者も参加して窮状を訴えた。その中の1人、ガーナ人のミラクルさん(17歳)の両親は1992年観光ビザで来日し、埼玉県の工場で働き始めた。ミラクルさんが生まれたのは、2003年。日本で生まれ育ったが、在留資格がない。

小学校に入学した頃、父親が入管施設に8カ月拘束され、解放されてからはずっと「仮放免」の状態が続いているという。就労は認められないので、生活費や教育費は支援者に頼るしかない。母親は地元の子ども食堂や老人ホームでのボランティア活動などに積極的で、地域社会に溶け込んでいる。父親はがんを患っているが、国民健康保健に入れないので、入院も手術も難しい状況だ。

現在高校3年生で、来春は看護大学への進学を目指し、将来は助産師として働きたいと願っている。一家は在特を要望しているが、現時点では、ミラクルさんだけに在留が許可される可能性が高いという。

「私一人だけビザをもらっても、受け入れられない」とミラクルさんは訴える。「家族が一緒にいられなければ、意味がないです」

「ミラクルさん一家のように、仮放免のまま、10年、20年日本に滞在している人たちも少なくありません」と鈴木教授は言う。「2015年ごろから、仮放免中の就労禁止が徹底されたため、仮放免者を支える支援者の負担が大きくなっています。とりわけ、子どものいる家族や、病気治療中の仮放免者の場合には、教育費や医療費の負担が過大になっています」

「半減計画」から始まった排除

1980年代後半、バブル景気の深刻な人手不足を背景に就労資格を持たない外国人が急増し、建設現場や工場、飲食店などで働き、日本社会を支えた。

「不法」就労者の急増を受けて、外国人労働者の受け入れを巡る活発な討議がなされた結果、いわゆる「単純労働者」は受け入れないという閣議決定がなされ、1989年12月に、入管法が改正された(翌年6月施行)。同改正入管法で、就労に制限のない在留資格「定住者」が創設され、かつての日本人移民の子孫である日系3世(とその配偶者および未婚未成年の子)に「定住者」が付与されることになった。

規制強化された入管法が2000年6月1日から施行されるため、その前に本国への帰国を求め、手続きに押しかけた外国人就労者(1989年5月30日東京・大手町の東京入国管理局/時事)
1990年6月1日から規制強化された入管法が施行されるため、その前に本国への帰国を求め、手続きに押しかけた外国人就労者(1989年5月30日東京・大手町の東京入国管理局/時事)

「政府の公式方針としては、専門的・技術的労働者のみを『フロントドア』から受け入れるとしましたが、実際に労働市場が必要としているのは、いわゆる『単純労働』を担う労働者です。『バックドア』からの非正規滞在者に代わる『単純労働』の担い手として、『サイドドア』(労働者としての受け入れではないが、合法的に就労が可能)から、日系人、研修生・技能実習生などの受け入れを創設・拡大しました。建前では『バックドア』の労働者を認めないとしながらも、しばらくの間は『必要悪』として、非正規滞在者の存在が一定程度黙認されていました。“緩やかな排除” の時代です。それゆえ、89年改定入管法施行後も非正規滞在者は増え続け、92年にはおよそ30万人にも達していました。バブル崩壊により、その数は減少に転じましたが、2000年代初めには、25万人以上の非正規滞在者がいました」(鈴木教授)

非正規滞在者に対する摘発が厳しくなったのは、2003年12月に発表された「半減計画(5年間で『不法』滞在者を半減することを目標とした計画)」からだ。「その背景は、バックドアからサイドドアへの労働力置換が進んだこと―つまり、非正規滞在者の労働力が『不要』になったこと―と、政府内でフロントドアからの受け入れ拡大の議論が始まったことです。“緩やかな排除” から “徹底的な排除” への転換によって『不法』残留者数は22万人(04年)から15万人(08年)へと激減しますが、一方で、この時期、在特も積極的に活用され、5年間で5万人近くが正規化されました」

法務省は06年に「在留特別許可に係るガイドライン」を公表し(09年改訂)、日本人や永住者等との婚姻、子どものいる長期滞在家族などの事情が積極要素として示されている。ところが、近年、ガイドラインが必ずしも尊重されていない。「以前ならば在特が認められていたような事例でも認められず、退令が発付されています」

さらに東京五輪を控え、15年以降から仮放免の運用が厳格化された。それまで仮放免者の就労は実質的には黙認状態だったが、入国管理局長名で出された仮放免者への「動静監視の強化」の通達の下に、入管職員が突然自宅を訪問するなど監視が強化され、就労が発覚して収容される人が増えたという。

本人の「責任」だけではない

「送還忌避者」の中には、合法的に入国・滞在していたのに、日本社会の受け入れ態勢の不備によって、在留資格を失ってしまった外国人もいると鈴木教授は指摘する。 

「例えば、搾取的な状況に置かれた技能実習生が、耐え切れず逃げ出したことでオーバーステイになってしまう。本人の責任というよりは、受け入れ制度や劣悪な労働環境が問題ではないでしょうか」

十分な環境整備を怠り、問題が起きれば本人のみに責任を帰す。適切な受け入れ環境が整備されていない故に、困難な状況に置かれている日系人の子ども・若者もいる。「いまでこそ外国ルーツの子どもに対して、日本語教育をはじめとしたさまざまな支援が、地域や学校、文科省などでも取り組まれています。しかしながら、ニューカマーの子どもたちが増え始めた90年代の頃は、学校も地域社会も、異なる言葉や文化を持つ子どもに対する受け入れ環境が十分に整っていなかった。いじめを経験し、学習機会を奪われたまま成長した若者が、日本社会での居場所を見つけようとする中で、犯罪に巻き込まれてしまうケースもあります。刑務所に入って罪を償っても、刑罰法令違反は退去強制事由に該当するため、退令の対象になってしまいます。日本で育ったにもかかわらず、送還された若者もいます。罪を償ったのに、さらに、ここから出ていけという二重の刑罰を与える必要があるでしょうか」

2019年4月の入管法改正では、在留資格「特定技能」を創設し、外国人単純労働へのフロントドアを開いた。日本語教育学習を含め、受け入れ態勢をどう整備していくのか、技能実習制度をどのように改善して特定技能制度に統合していくのかは、まだ不透明だ。現状では、コロナ禍で解雇や雇止めをされた技能実習生に対して、職種の変更、在留期間の延長を認めている。

一方、帰れない事情を抱え、収容や仮放免という不安定な「仮の状態」に置かれている人たちは、コロナ禍で支援者も経済的に困窮する中で、一層、困難な状況に陥っている。

「多くの人たちにとって、合法的な滞在資格を持たない外国人の窮状は『他人事』かもしれませんが、この社会に生きる同じ人間として、もっと関心を持ってほしい。帰れと言われても帰れない事情に、しっかりと耳を傾けてほしい。帰れないのは本人たちだけの責任ではなく、必要な労働者をフロントドアから受け入れてこなかったこの社会、迫害を受ける恐れのある者を難民として認めようとしない日本社会にもあるのですから」

バナー写真:2015年当時、在留資格を求めて都内で抗議デモを行う難民申請者たち(2015年9月9日/REUTERS)

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