試される日本の「移民」政策

政策転換で実質「移民受入国」となった日本:政府は真正面から国民に説明を

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2019年の「特定技能」在留資格導入で、日本は実質的に「外国人の移民を受け入れる国」となった。人口減による労働力不足と少子高齢化の高まりを受け、地方の自治体では「外国人受け入れは地域社会の維持に必要」だとの認識も広がっている。筆者は、多文化共生の推進に向け、「政府が真正面から政策の転換を国民に説明すべきだ」と指摘する。

人口減見据え、問われる「社会の在り方」

総務省が公表した2023年1月1日時点の住民基本台帳に基づく人口動態調査では、日本の人口はこの1年間に80万人以上も減少した。このペースが続けば、今後10年間で大阪府とほぼ同じ人口(800万人)が消滅することになる。今回の調査では、東京都を含め、初めて全都道府県で人口が減少した。

人口減少率が全国で最も高いのは秋田県。上記の住民基本台帳をもとにまとめた秋田県の人口統計では、この1年で1.65%も減少し、94万1021人となった。県は少子高齢化対策として、これまでもさまざまな取り組みを行ってきたが、効果は上がっていない。年齢別人口構成を見ると、0歳から14歳の「年少人口」が9.26%、15歳から64歳の「生産年齢人口」が52.47%、65歳以上の「老年人口」が38.27%。つまり子どもの数は1割未満で、4割近くが高齢者だ。

地元紙の秋田魁(さきがけ)新報は2023年5月2日、「将来推計人口3割減見据え変革急げ」と題した社説を掲載。「外国人を受け入れて共生していくことを含め、社会の在り方を根本から変えていかなければならない」と主張した。公的年金制度は国籍に関係なく適用されるため、外国人を受け入れることで年金財政の支え手が増え、労働力の減少を補い、経済縮小を抑えることができるからだ。

これは人口危機に直面して外国人受け入れの必要性を認識し始めた地方の一例といえるが、これまでも在留外国人の多かった自治体などでは1990年代から共生に向けた支援活動を実施。近年は在留外国人の増加に伴い、より多くの地域で多文化共生の活動が活発化している。

群馬は「共生推進月間」を制定

日系ブラジル人の多い群馬県では、2021年10月に多文化共生・共創推進条例を制定した。この条例では「県をさらに飛躍させ、県民の幸福度を向上させていくためには、共に暮らす外国人との共生・共創を図っていくことが不可欠」として、多文化共生を推進する上での県や市町村の責務、事業者の責務などを定めている。特に10月を「ぐんま多文化共生・共創推進月間」と定め、啓発動画を作成し県民に広めている。

人口の12%を外国籍住民が占める東京都新宿区では、条例で区の「多文化共生まちづくり会議」が制定され、活動している。20名余りのメンバーは、筆者を含め一部の学識経験者、地元の自治会長等の日本人住民と新宿区に住む外国人コミュニティーの代表によって構成されている。ここでは外国人の生活上の課題を解決したり、日本人と外国人住民との交流を促進したりして、恒常的に話し合いが行われている。結果は新宿区長に報告され、行政に反映される。2022年に実施した区民モニターでは73%が多文化共生の活動が進んでいると回答した。

筆者が直接策定メンバーの一員として関わったもう一つの例は、2023年5月に策定された山梨県の「やまなし多文化共生社会実現構想」。外国人の日本語能力の向上、日本の文化・社会制度の理解の促進、社会参加の機会の増大、相談体制、労働環境の整備などを進めるとしている。県内の中小企業などで働く外国人従業員の日本語能力向上を図る目的で、「外国人活躍企業支援補助金制度」を設置。新たに外国人を企業が雇用する場合、日本語学習や地域住民との交流にかかる費用の一部を、県が補助金として支出する制度として活用されている。また県内の企業に対して外国人の不正な雇用の撲滅を図る「「外国人労働環境適正化推進ネットワーク」も構築している。

高知は「外国人材確保戦略」を策定

人口減少の対策として、はっきりと外国人の受け入れ・定着を目指す例もある。高知県では2022年に「外国人材確保・活躍戦略ver.2」を策定した。この戦略では、「各産業の継続・発展を支える貴重な人材として、また、地域社会の一員として外国人を受け入れ、育成・定着を図っていくことが重要」とする。さらにフィリピン、ベトナム、インド、ミャンマーとの関係を強化し、これらの国から安定的な人材の確保を目指し、22年度にはベトナムとインドにミッション団を派遣した。地域における日本語教室の運営では、ツールの開発や研修などを実施している。

どの地域も自治体レベルでの多文化共生には限界があることを感じており、国としての政策変更を求める自治体もある。2021年、長野県議会は政府に対して「政府が外国人受け入れについて国としての明確な方針を示すこと」の立法化「多文化共生に係る基本法」を求めた。同県では安曇野市議会が同趣旨の政府への提言を県議会に先駆けて議決している。

特定技能受け入れで国の方針も様変わり

すでに実質的な外国人材の受け入れが始まっている。ブルーカラー分野では、2019年の特定技能制度の創設以来、労働者として外国人の受け入れを認める新たな在留資格、実質的な移民政策と言ってよい方向転換が行われている。

例えば、特定技能の受け入れと同時に行われたのが出入国在留管理庁の創設である。出入国在留管理庁の中には在留支援課が設けられ、単に出入国の管理を行うだけではなく、日本に在留する外国人に対して支援を行う仕組みが作られた。その司令塔として、20年7月には東京・四谷に外国人在留支援センター (FRESC/フレスク)が設置された。

外国人材を迎え入れ、共生社会の実現を図ることにより日本人と外国人が安心して暮らせる社会の実現を目的とする「総合的対応策」も発表された。各省庁が行う外国人支援施策が包括的にまとめられ、毎年改定が行われており、23年には、その数は217施策までに増えた。

重要な政策の変化は、22年6月14日の「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議で、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ 」が決定されたことだ。ロードマップでは、1)日本語教育等の取組、2)外国人に対する情報発信・相談体制の強化、3)ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援、 4)共生社会の基盤整備に向けた取組の4つが掲げられている。「ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援」については、「乳幼児期」、「学齢期」の親子同士の交流、不安・悩みを相談できる場の提供、高齢期を迎える外国人に対する年金制度に関する周知・広報など複数の施策がまとめられており、外国人の定住化を前提とした政策がすでに行われていることを示している。

単なる在留外国人への支援だけではなく、海外から外国人を政府が呼び寄せ、定着を図る事業も実施された。厚生労働省は20年から22年まで「地域外国人材受け入れ・定着モデル事業」を実施。この事業では、北海道、群馬県、福井県、岐阜県、および鹿児島県がモデル地域として制定され、地元企業に東南アジアから特定技能の在留資格を持つ外国人との面接をあっせんし、就業、定着が図られた。政府が直接、過疎地域への外国人の定住促進を図ったことになる。

「変化」を知らせない政府

以上のように政府は2019年の入管法の改正に伴い、実質的な外国人の定住化、移民政策を開始した。22年の「ロードマップ」はまさにそのための中期戦略である。一方、「移民問題は日本人の国のあり方を変える」と保守派の一部の反対が根強いといわれている。問題は、政府が外国人の定住化、実質的な移民政策を打ち出しているにもかかわらず、その事実を国民の多く、また海外にも十分知らせていないことだ。国のトップは、外国人受け入れ政策に転換が図られていることを今まで国民に明示してこなかったのだ。

22年に発足した経済界、労働界、学識者など各界の有志約100名からなる令和国民会議(令和臨調:共同代表 茂木友三郎)の発足1周年大会に出席した岸田文雄首相は人口減少を踏まえて「外国人と共生する社会を考えていかなければならない」と語っている。首相は国民に対して、具体的かつ、明確に外国人との共生が日本の未来にとって不可欠であることを説明すべきである。秋には国政選挙の実施も予想されるが、政府は待ったなしで、移民政策に真正面から向き合う時期を迎えているといえるだろう。

バナー写真=すし研修を受ける特定技能資格取得者。高級すし店などを展開する「銀座おのでら」による独自のすし研修で、包丁の入れ方を学ぶフィリピン出身の特定技能(外食)資格取得者(手前左)。右は講師役のすし職人=2022年11月15日、東京都世田谷区(時事)

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