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『映画 えんとつ町のプペル』:キングコング西野亮廣が「夢を信じる人々」に贈る「一級のエンターテインメント」

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お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣が「原作・脚本・製作総指揮」を手掛けた『映画 えんとつ町のプペル』が12月25日(金)に全国で劇場公開。2016年の発売以来、累計発行部数60万部(2020年12月現在)を記録する絵本が、壮大なスケールと精緻なクオリティでアニメーション化された。単なる「動く絵本」を大きく超えた、大人も楽しめるエンターテインメントとして完成度の高い作品だ。

絵本『えんとつ町のプぺル』は、人気お笑い芸人の地位を確立しながら、絵本作家としても才能を発揮する西野亮廣(あきひろ)の大ヒット作。クラウドファンディングを活用し、イラスト、着色、デザインなど、総勢33人のクリエイターが分業体制を取るという西野らしい型破りな制作方法も話題を呼んだ。

そこまで力を注いだこの絵本を、西野はかねて「映画の予告編」に過ぎないと公言してきた。「プペル」をめぐる個展や舞台、さらには2019年にパリのエッフェル塔で開催した「光る絵本」展に至るまで、すべて映画化をゴールに見据えて計画された一大プロジェクトだったのだ。満を持して公開された本作は、その練りに練られた構想の実現を目のあたりにできる、驚きと発見に満ちた傑作に仕上がっている。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

物語の舞台は、立ち並ぶ煙突の黒い煙が空一面を覆う「えんとつ町」。厚く垂れ込めた煙の向こうに青い空や瞬く星があることを、「紙芝居」にのせて町の人々に伝えてきたブルーノが、ある日突然姿を消してしまう。「怪物に食べられたんだ」と人々が噂する中、残されたブルーノの息子・ルビッチは学校をやめ、煙突掃除の仕事を始める。父の教えを守り、周囲からのけ者にされても空を見上げ続けてきたルビッチの前に、ハロウィンの夜、ゴミから生まれた「ゴミ人間・プペル」が現れる。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

「くさい」「汚い」と嫌われるプペルだが、ルビッチにとっては初めての友だち。父ブルーノから聞いた星の話を教え、父からもらった大事なブレスレットを失くしてしまったことを打ち明けるルビッチに、プペルも力になりたいと応え、互いに絆を深めていく。ある日、砂浜に巨大な黒い物体が流れ着き、町の人々を恐怖に陥れる。しかしルビッチはこれが父の紙芝居に登場する船であることを知っていた。「船があるなら星もきっとある!」。ルビッチとプペルは「信じれば必ず道は開く」と確信し、次第に増えた仲間とともにえんとつ町の黒い煙の向こうを目指す。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

原作の西野が脚本と製作総指揮を手掛け、米アカデミー賞長編アニメ映画部門にエントリーされた『海獣の子供』や、日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた『鉄コン筋クリート』などで世界から高い評価を受けているSTUDIO4℃が、3Dアニメーション制作を担当。廣田裕介が監督を務め、緻密な絵本の世界をドラマチックにスクリーン上で表現している。

映像と音の相乗効果はこれぞエンターテインメント

大迫力のアングルやまばゆい光で圧倒する映像の美しさもさることながら、聴覚に伝わる魅力もまさにアニメーション映画ならでは。絵本では伝えることができない声、音楽、音響の力によって、物語の世界を立体化するエンターテインメントの素晴らしさを存分に体感できる。

星を信じる少年・ルビッチの声を務めるのは、子役として多くの作品で才能を発揮してきた芦田愛菜。今年10月に公開された映画『星の子』(監督・大森立嗣)で主役を演じ、天才子役から大人の女優へと見事に脱皮した姿を印象付けた。その舞台挨拶で話題になった16歳とは思えぬ深い言葉は、「信じる」というテーマをめぐっての発言だった。「星」「信じる」というキーワードが、まったく違う切り口ながら、この作品のテーマと結びついていたのが面白い。いじめっ子のアントニオ役を務めた女優の伊藤沙莉とともに、圧巻の演技力で「少年」になりきっている。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

ルビッチの相棒「ゴミ人間・プペル」役には、NHKの朝ドラ『エール』で主演を務めた窪田正孝が扮し、コミカルながらも哀切さが漂うキャラクターを絶妙に体現している。そのほか、ルビッチの両親役を立川志の輔と小池栄子、煙突掃除屋のボス役を國村準、口のうまい鉱山泥棒のスコップ役を藤森慎吾と、個性豊かなキャストが好演。それぞれのキャラクターに息を吹き込み、物語の世界観をさらに豊かにしている。

オープニング主題歌『HALLOWEEN PARTY』は、L’Arc~en~CielのボーカリストHYDEが歌う。冒頭で流れ出したとたん、きっと大人も子どもも心が湧きたち、作品の世界に引き込まれてしまうに違いない。そして西野自身が作詞・作曲を手掛け、アーティストのロザリーナが美しい声で歌い上げるエンディング主題歌『えんとつ町のプペル』も、一度聴いたら耳から離れないほどの存在感を放ち、映画の余韻を最高潮まで引き上げてくれる。

まさに各界のプロフェッショナルたちが存分に力を発揮して、ビジュアルと音の相乗効果が生まれ、その総合力がとてつもない高みに到達した作品と言えるだろう。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

西野流「無謀な挑戦」の総決算

子ども向けのおとぎ話なのかと思いきや、その中身は想像以上に深い。人間社会に対する考察が直接的にも間接的にもさまざまな形で巧みに盛り込まれ、時にはチャップリンの名作『モダン・タイムス』を思わせるような描写も登場するなど、卓抜した文明批評になっている。西野がミヒャエル・エンデからヒントを得て、ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルの著書『自由地と自由貨幣による自然経済秩序』などと出会ったことで発想したという、時間が経てば経つほど価値が下がる=「腐るお金・L」の概念もとても興味深い。

孤独なルビッチとプペルの関係も、決して単純な友情物語に行き着くわけではない。ある出来事がきっかけで二人は一度すれ違う。「厄害をもたらす異端」として町の権力者たちに追われるプペルと、彼を信じることができなくなったルビッチ。誤解を乗り越えたからこそより強固になる二人のかけがえのない友情は、観る者に震えるほどの感動をもたらす。まさに「大人にこそ観てほしい」1本なのだ。

「夢を持てば笑われて、声を上げれば叩かれる」。西野が作詞した主題歌の一節だが、『映画 えんとつ町のプペル』は、夢見ることをあきらめた人たちが、夢を追い求めて挑戦し続ける人たちを笑い、寄ってたかって引きずり降ろそうとするいまの日本の風潮を、ファンタジーと想像力によって覆そうと試みた、西野による壮大な実験であるとも言えそうだ。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

ファンの裾野を広げるために絵本を無料公開したこと、絵本や映画のチケットを全国の子どもたちにプレゼントするためにクラウドファンディングを活用したこと、著作権をほぼフリーにしたこと、エッフェル塔で日本人アーティストとして初めて展覧会を開催したこと......。その無謀とも思える数々の挑戦の成果は、すべてこの映画の中に集約されている。“芸人らしからぬ”戦略的な立ち居振る舞いにより袋叩きにあってきた西野自身が、もっともクリエイティブな形で遂げた“華麗なる復讐”は、まばゆいほどの輝きを放っている。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

作品情報

  • 声の出演:窪田 正孝、芦田 愛菜、立川 志の輔、小池 栄子、藤森 慎吾、野間口 徹、伊藤沙莉、宮根 誠司、大平 祥生(JO1)、飯尾 和樹(ずん)、山内 圭哉/國村 準
  • 製作総指揮・原作・脚本:西野 亮廣
  • 監督:廣田 裕介
  • アニメーション製作:STUDIO 4℃
  • 配給:東宝=吉本興業
  • 製作:吉本興業株式会社
  • 製作年:2020年
  • 製作国:日本
  • 上映時間:100分
  • 公式サイト:https://poupelle.com/
  • 12月25日(金)より全国順次ロードショー

予告編

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