映画『mentor』:磯村勇斗、15年前の事件に揺れる「加害者」役で末澤誠也とW主演
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Z世代を中心とする若者層と上の世代との間には、互いの「遠慮」から生まれる距離がある。パワハラを恐れて「叱れない」大人たちと、必要なときには「叱ってほしい」と願う若者たち。人生の悩みをAIに相談する若者も、生身の頼れる大人を求めているのかもしれない。
そんな時代に現れたのが、吉田恵輔監督の最新作『mentor』(メンター)だ。メンターとは、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物メントールに由来する言葉。若年者や経験の少ない者に助言を与え、その成長を支える者を意味する。今の日本社会の断面を鋭く切り取ることで知られる吉田監督は、現代のメンターをどのように描くのか。

火事でやけどを負い妻子を失った埜本(綾野剛=左)と再会した加害者の拓海(末澤誠也)© 2026「mentor」製作委員会
15年後の再会が運命を変える
発端は15年前の火事だ。少年2人の花火遊びがきっかけとなりアパートが全焼。住人にも大きな被害が出てしまい、亡くなった女性の夫は大やけどを負った。物語は少年たちが大人になってから動き出す。
火事を起こした少年の1人、拓海(たくみ/末澤誠也、Aぇ! group)は、事件のトラウマで引きこもりがちになったが、3年前にようやくニート生活を脱し、自動販売機の補充スタッフとして働きながら賠償金の支払いを続けていた。ある日偶然、被害者の埜本(のもと/綾野剛)と再会する。
妻子を失って後遺症に苦しみ、やけど痕も痛々しい埜本だが、拓海の謝罪を受け入れたばかりか、親しく付き合い、前向きな助言まで与えるようになった。いつしか拓海は埜本を「メンター」と慕うようになる。

龍之介(磯村勇斗=左)は火事以来15年ぶりに幼なじみの拓海と再会する © 2026「mentor」製作委員会
やがて拓海は一緒に火事を起こした龍之介(磯村勇斗)を訪ね、埜本に引き合わせる。アーチェリーのトップ選手として五輪出場を目指す龍之介は、代表選考会を控えていた。果たして2人にどう反応するのか──。
役作りは肉体から
本作は、被害者の埜本と、彼との向き合い方が対照的な2人の加害者による、いびつな三角形を描いていく。3人の中で個性は控えめながら、それゆえの難しさを感じさせるのが龍之介役だ。演じた磯村に話を聞いた。
役へのアプローチについて、磯村はまずアーチェリー選手の体をつくるところから入ったと振り返る。撮影の1年前にトレーニングを始め、その後、アーチェリーの練習に打ち込んだ。一連のプロセスがそのまま、罪悪感を振り払うように競技に没頭する龍之介の心情に重なっていったという。
「アーチェリーは、精神統一が大事なスポーツです。体の動きや筋肉の使い方をコントロールして、どれだけ毎回同じように弓を射ることができるか。その集中力が、拓海たちの登場によって乱されてしまう。それでも深呼吸をしたり、ルーティンの動作をしたりして、無心になろうとする。そうやって内にため込んだ葛藤が自然に外に漏れ出すようになればいいなと考えました」

鍛え上げた体幹を感じさせる安定のフォーム © 2026「mentor」製作委員会
アーチェリーに打ち込みながら、磯村は龍之介の心情をどう理解していったのか。
「過去にとどまり続ける拓海と対照的に、龍之介は前に進んでいる。ただその姿勢は、アーチェリーというフィルターを通して、過去から逃げているようにも見える。でも彼は突き進むしかなかった。過去は消せなくても、距離を置くことはできる。共感はできませんが、こういう人生を背負った人はいるだろうなという理解に立って演じていました」
3人の不思議な距離感
過去との向き合い方が異なる龍之介と拓海。その違いは埜本との接し方にも色濃く現れる。3人の間の微妙な距離感こそ、監督が特に重視したポイントの1つだったという。相手役の末澤と綾野に対し、磯村は「受け」の芝居を貫いた。
「2人がその場で何を感じ、何を話しているのかを受け取ればいいと考えていました。龍之介は、拓海が子どもの頃とは変わってしまったと感じる。日に日に言動がおかしくなっていく拓海の過剰さ、滑稽さを素直に受けるようにしていました」
不幸な過去を抱えながらも、ポジティブに振る舞う埜本に拓海は心酔し、自らの生き方を変えていく。
「末澤くんがまっすぐに演じて、役と完全にマッチをしていたので、そこに反応するのが楽しかったです。埜本については、綾野さんが歩き方やしゃべり方、いろんな癖を細かく作っていたので、どんな人物かは会った瞬間に伝わってきました。綾野さんのオーラで、すっと3人の世界に入れた気がします」
一方の龍之介は、埜本に対して拓海ほど心を開かずにいる。そのアンバランスが予想外の展開をもたらし、人の心の複雑さを浮かび上がらせていく。
「龍之介にとって埜本は、思い出したくない事件を意識させる、一番会いたくない人物です。前に進むのを応援すると言ってはいるものの、どこか信じられない。居心地の悪さもありますし、埜本が何を思っているか、理解できずにいる。2人の関係は結局、最後まで不思議な距離感で進んでいきます」

埜本に会っても、拓海とは対照的な反応を見せる龍之介 © 2026「mentor」製作委員会
シリアスの先に見えた吉田恵輔の世界
2015年、『仮面ライダーゴースト』のアラン役で注目を集め、17年のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』でブレイクした磯村。その後、幅広い役柄に挑戦し、23年公開の映画『月』(石井裕也監督)で、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した。同年は、『波紋』や『渇水』『正欲』など、現代社会のゆがみを浮き彫りにする作品への出演が相次ぎ、高い評価を決定づけた。
「確かにトータルで見たら、社会的なテーマを扱った映画に多く出演しています。もちろん意図的にそうしているところもあります。世界の情勢や日本で起きた出来事に対して、自分が日々感じていることとリンクするような作品選びを大事にしています」
出演作の多くに共通しているのは、監督自らが脚本を書いた作品であることだ。本作の吉田監督も、同様にほとんどの作品を自身のオリジナル脚本で撮ってきた。
「オリジナル脚本の作品は、セリフやシーンの意図について迷うところがあっても、監督に質問すればすぐに明確な答えが返ってくるので、やりやすい現場になります」

埜本に感化された拓海は予想外の言動を連発 © 2026「mentor」製作委員会
本作にも、物語を思いがけない方向へといざなう脚本の巧みさと、リアルと誇張のはざまで絶妙なバランスを生み出す演出の手腕がいかんなく発揮されている。
「人間というのは、そう簡単に分かり合えるわけでもないと思っていて。3人が作り出す距離感は、吉田さんの作品ならではの面白さだと思います」
今年6月に公開された吉田監督の前作『四月の余白』では、家庭や学校から見放された子どもたちを支える型破りな人物を描いた。監督自身も前作と合わせて観てほしいと語っていたのがこの『mentor』だ。
「吉田さんは近年、社会的なテーマ性の強いシリアス寄りの作品を撮ってきましたが、『mentor』には、ブラックユーモアを交えたコミカル部分がかなりあります。吉田さんの新たな挑戦が詰まっていたんじゃないかなと。そこまで身構えずに、笑いながら観られる映画に仕上がっていることは、ぜひお伝えしたいです」
インタビュー撮影:花井智子
ヘアメイク:佐藤友勝(Tomokatsu Sato) スタイリスト:笠井時夢(Tom Kasai)
取材・文:松本卓也(ニッポンドットコム)
作品情報
- 出演:
磯村 勇斗 末澤 誠也
木南 晴夏 / 酒井 若菜 川上 麻衣子 二村 仁弥
黒沢 あすか 田村 泰二郎
綾野 剛 - 脚本・監督:吉田 恵輔
- 配給:エイベックス・フィルムレーベルズ、スターサンズ
- 製作年:2026年
- 製作国:日本
- 上映時間:115分
- 公式サイト:mentor-movie.jp
- 10月16日(金)より劇場公開中



