1000万人時代に向かうひきこもりとその対策:斎藤環氏

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「日本のひきこもりは、このままだと1000万人を超えるでしょう」。ひきこもりの存在を世の中に広めた筑波大学・医学医療系教授 の精神科医・斎藤環氏は警鐘を鳴らし、現状と今後の対策について語った。

高齢化がひきこもり急増の理由

著書『社会的ひきこもり:終らない思春期」(1998年)で、広く社会に「ひきこもり」の存在を伝えた斎藤氏が7月末、東京・内幸町のフォーリン・プレスセンターで、外国メディア対象に「ひきこもり対策」について会見した。斎藤氏は、2016、19年に内閣府が行った調査で、約115万人のひきこもり状態の人がいる(15~64歳)という推計を示したのに対し、過小評価かもしれないと指摘した。斎藤氏は、ひきこもりの人数を人口の3~5%と考えると200万人ぐらいになるとし、その期間は平均すると13年間で、このまま増え続けると人数は1000万人を超えるとみる。ひきこもりの人は、平均寿命の短いホームレスと異なり、家族がサポートするため生活の心配がなく、ひきこもったまま高齢化するケースが多いと考えられるからだ。

犯罪率は極めて低い

2000年に発覚した新潟少女監禁事件や、今年5月の川崎大量殺傷事件の際に、ひきこもりが犯罪誘因になったのではないかとの見方が広がったが、斎藤氏は両者の関連は「著しく低い」と断言する。「ひきこもり」の定義は「6カ月以上社会参加をせず、精神障害を第一の原因としない」と説明。「加害者がひきこもり」と報道された過去の多くの事件では、精神鑑定で加害者に精神障害の診断が下されているケースもあり、定義に当てはまらないという。「ひきこもりは『病』ではなく、『状態』を表す言葉です。これに当てはまる人に関して言えば、犯罪率は著しく低い」と斎藤氏は強調した。

生きづらい社会で

斎藤氏は、ひきこもっている人を「たまたま困難な状況にあるまともな人」と考える。現代は、非正規雇用が多い上、高齢化が進み、親の介護のためにやむなく離職した人が再就職するのも容易ではない。生きづらい社会と言わざるを得ない。

「個人が尊重されない状況が続いています」「社会や家族の役に立たない個人は、価値がないとみなされる。『一億総活躍時代』と言われると、活躍できない自分には価値がないと感じてしまう。それがひきこもりの人々を追い込んでいるのです」と分析する。

きっかけは、いじめとハラスメント

ひきこもりのきっかけとして多いのは、いじめや教師からのハラスメントで、虐待や心的外傷後ストレス障害(PTSD)が原因となるケースは、非常に少ないという。一定期間以上にひきこもりが長期化すると、「ひきこもりシステム」、つまり悪循環に陥ってしまうと斎藤氏は図を使って説明(図参照)。通常は個人、家族、社会にはそれぞれ接点があるが、ひきこもり始めることによって、家族や社会との接点をなくし、さらに家族も「恥」という意識から徐々に社会との接点を失ってしまう。一度、その状態が長期化すると、自力で社会参加を果たすことは難しいという。これがいわゆる「8050問題」と言われる中高年の子どもを養う親が高齢化し孤立する状態だ。

 

家庭内暴力が見られるのは、ひきこもっている人全体の1割。「長くひきこもっている人は、自分の人生に意味がない、生きている価値がない人間だと考え、非常に惨めな気持ちになります。その原因が自分のせいだと考えるのはあまりにもつらくて『家族の育て方が悪かった』と思い始めます。実際に虐待を受けていたわけではないのに受けたと思い込み、家族への恨みつらみが暴力になりやすい。暴力はいったん始まると依存症のようにエスカレートしてしまいます」と警鐘を鳴らす。

家庭内暴力は、断固として「拒否」し、事前に本人に「暴力を振るったら警察へ通報、もしくは避難する」と予告し、暴力が起きたその日のうちに実行する。「避難直後に本人に必要最低限の連絡をとり、1週間をめどに二度と暴力は振るわないことを約束させた上で帰宅のタイミングを図る」ことで対処可能だという。

世界各国でも社会問題化

社会的ひきこもりは、今や日本だけの問題ではない。韓国には約30万人いると言われ、イタリアでは欧州連合(EU)加盟国で初めてひきこもりの家族会が作られた。家族が同居する傾向が強い、家族主義が優位な国で問題化している。30歳までのヤングアダルトとの同居が増え、親との同居率が高い国にひきこもりが多いのだ。同居は世界でも増えてきている。 

親との同居の少ない個人主義が優位な米国や英国では、ひきこもり問題は比較的小規模だが、一方でヤングホームレスの数が多い。ホームレスの定義は国によって異なるため単純に比較できないが、米国では160万人、英国では25万人と言われている。一方、日本では1万人以下と推計され、桁違いに少ない。

弱者を排除し隔離する発想

日本には障害者を隔離し、排除しようという発想が根強い。1980年代以降、世界中で脱施設化が進んで多くの障害者が自宅で暮らすようになったが、日本の精神科病床は世界全体の2割に相当する30万床もある。「ハンディキャップを持つ人々が一カ所にまとめられて処遇される文化がいまだにあるのです。日本特有の遅れと言えます」。 

川崎で5月に起こった無差別大量殺人事件を例に挙げて「このような事件が起こると、海外ではまず被害者への追悼や遺族へのケアが優先的に報道されますが、日本では加害者の属性が報道され、次に加害者の家族が調べ上げられ、バッシングが起こります。家族が連帯責任を負わされるのも日本独特の文化だと思います」と指摘する。日本には、精神障害者や高齢者などの弱者対策を家族任せにしてきた歴史があることから、ひきこもりについても同様に排除の論理が働きかねないと危機感を示した。

対処法

では、ひきこもり状態の家族はどうすればよいのか。

斎藤氏は、5年間ひきこもった21歳の男性の事例を紹介した。このケースでは、最初に男性の両親がカウンセリングを受け、息子に対する叱咤(しった)激励をやめ、一切の干渉を控えた結果、家族関係が徐々に改善。4カ月後には本人が受診し、ひきこもりデイケアに参加するようになった。ゲーム好きのメンバーと親しくなり、初診の2年後から通信制高校に入学し、定期的に開かれるスクーリングに休まず参加した。成績も良好で、現在は安定しているという。

斎藤氏の経験に基づいた対処法の一部を紹介する。家族は当事者にとって最初の支援者なので、まず家族が精神科医に相談したり、カウンセリングを受けたりする。そして、外部の家族会などに参加することで接点を持つ。そして徐々に家族と社会との接点を増やしていく。家族はカウンセリングに通い続けながら、ひきこもり地域センターや精神保健福祉センターの窓口、民間の支援団体に相談し、親が本人との対応術を身に付ける。 すると本人も少しずつ変化してくる。

ひきこもりの高齢化問題に対しては、恥や世間体を恐れず、障害者年金や生活保護の需給も視野に入れて、両親が生きているうちにライフプランを作り、中高年となった子どもたちが生き残れるように考えることが重要だという。残念ながら、今のところ日本政府が大きな政策やシステムを作る動きはなく、危機感を持っているとも思えない。自分たちで準備していくことが大切だと述べた。

就労や就学が最終目標ではない

ささいなきっかけで外に出なくなり、社会とつながらない状態が長期間続くと、抑うつ気分や対人恐怖、昼夜逆転などの二次的な精神症状が現れてくる。早めに社会との接点を持つことが求められるゆえんだ。ひきこもりの出口は、「本人が自分自身の状態を肯定的に受け入れられるようになること」と斎藤氏は力説する。就労や就学は、必ずしも最終目標ではないと締めくくった。

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取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

バナー写真:東京・内幸町のフォーリンプレスセンターで会見を行う斎藤環氏=2019年7月29日

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