冬季史上最多24メダルの裏に「練習環境」と「憧れの連鎖」:ミラノ・コルティナ五輪

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ミラノ・コルティナ冬季五輪が閉幕し、日本は前回22年北京の18個を6個上回る冬季大会史上最多の24個(金5、銀7、銅12)のメダルラッシュとなった。国別メダルランキングでは10位。個数のみでは欧州の強豪に肩を並べる5位だ。チーム日本の快進撃の背景に迫る。

スノーボード陣の躍進で勢い

日本のメダル数は今回、12位の中国(金5、銀4、銅6、計15個)、13位の韓国(金3、銀4、銅3、計10個)を上回り、アジア勢最上位の成績を飾った。

大躍進の象徴的な要因は、スノーボードだけでメダル9個を獲得したことだ。これは3個(金1、銅2)だった北京より6個多い。

記者会見で笑顔を見せる(左から)スノーボード男子ハーフパイプ銅メダルの山田琉聖、金メダルの戸塚優斗、女子で銅メダルの小野光希=2026年2月15日、イタリア・ミラノ(時事)
記者会見で笑顔を見せる(左から)スノーボード男子ハーフパイプ銅メダルの山田琉聖、金メダルの戸塚優斗、女子で銅メダルの小野光希=2026年2月15日、イタリア・ミラノ(時事)

スノーボード女子スロープスタイルの金メダルを手にする深田茉莉(中央)。右は銅メダルの村瀬心椛、左は銀メダルのゾイ・サドフスキシノット(ニュージーランド)=2026年2月18日、イタリア・リビーニョ(時事)
スノーボード女子スロープスタイルの金メダルを手にする深田茉莉(中央)。右は銅メダルの村瀬心椛、左は銀メダルのゾイ・サドフスキシノット(ニュージーランド)=2026年2月18日、イタリア・リビーニョ(時事)

今大会での種目別メダルの内訳は、ハーフパイプ勢が金1、銅2、ビッグエアおよびスロープスタイル勢の金3、銀2、銅1。しかも、開会式翌日の2月7日に男子ビッグエアで木村葵来(きら)が金、木俣椋真が銀でワンツーフィニッシュを飾ったことは、競技や種目を超えて日本チーム全体を一気に勢いづけた。

9日には女子ビッグエアで北京銅メダルの村瀬心椛(ここも)が金を獲得した。また、12日には男子ハーフパイプで戸塚優斗も金に輝き、北京五輪の平野歩夢に続いてこの種目で2大会連続の頂点に立った。さらに18日には女子スロープスタイルで19歳の深田茉莉(まり)が日本女子の冬季五輪史上最年少の金メダリストとなった。

日本の冬季五輪メダル数

練習環境やサポート体制が充実

日本スノーボード陣には「強くなったのはなぜか?」という質問が現地のメダリスト会見でも頻繁にあった。

「オフシーズンの練習環境やコーチの指導技術が年々進化している」(男子ビッグエアの木村)

「ハーフパイプのトレーニング施設ができたことも大きいし、日本チームの選手が良い結果を残すにつれてサポートスタッフが海外に帯同する回数が増えたり、フィジオセラピスト(理学療法士)やワックスのサービスマンが来られるようになったり、多くの面でサポートが増えた」(女子ハーフパイプで銅の小野光希=みつき=)

選手が指摘するように、まず環境面の整備や選手のサポート体制の拡充が大きい。練習環境で言えば安全なエアマットを使用したオフシーズンのトレーニング施設が各地にあり、代表選手たちは夏場も国内で空中感覚を磨き、高回転トリック(技)をマスターしてきた。

全日本スキー連盟の取り組みとしては近年、代表チームの練習にバイオメカニクス(運動力学)を導入し、選手は練習時に足裏にセンサーを取り付けて測定し、コーチは科学的な分析から得られるデータを活用している。これにより、コーチ陣は感覚だけに頼らない多角的な指導ができるようになった。回転数の多い競技であるがゆえに、小柄な日本人に向いているという身体的な要因ももちろんある。

受け継がれる憧れの存在

ただ、次から次へと新たなヒーロー、ヒロインが誕生している背景にあるものはハード面やサポート面だけではない。スノーボードと言えば、原点の存在として2010年のバンクーバー代表の国母和宏さんを思い起こす人は多いのではないだろうか。国母さんは日本選手団の公式服装でズボンをずり下げた「腰パン」がバッシングを受け謝罪会見の態度も批判されたが、自分のスタイルを主張する姿を擁護する声もあった。

橋本聖子・日本選手団団長(当時)の判断で出場辞退を免れた彼は、ハーフパイプでは入賞にとどまったが、14年ソチで15歳ながら銀に輝いた平野にとっても憧れの選手であり、後に平野の指導に当たった時期もあった。

2月22日にミラノ市内で行われた会見で、日本オリンピック委員会(JOC)の会長である橋本氏は、木村と木俣が金銀を獲得した男子ビッグエアの決勝を現地で観戦したことについて触れ、「その時に国母選手のことを思い出した」と言った。国母さんは後に大麻輸入事件で有罪判決を受けたが、若いスノーボーダーには圧倒的な支持を受け続けている。

「レジェンドの国母選手を見て育った平野選手がいて、そのつながりで素晴らしい選手が輩出されている。また、平野選手は今回、けがをしている中で普通では考えられないパフォーマンスをした。そういった素晴らしいレジェンドがいるからこそ、今のような高い競技レベルになっているのだと思う」(橋本会長)

憧れのヒーローの存在は子どもたちや若い世代にとって極めて大きな強化要素となる。しかも「目指す選手が世界一のレベルであればそこを超えようとすることはおのずと世界一を目指すことにつながる」(男子スロープスタイルで銀メダルの長谷川帝勝)のである。

「りくりゅう」らフィギュア勢も大きく貢献

日本のメダル数アップに大きく貢献したもうひとつの競技はフィギュアスケートだ。今季限りでの引退を表明し、今大会が「ラスト五輪」となる坂本花織を中心に日本フィギュアスケート勢は、団体、男女シングル、ペア、アイスダンスのうち、アイスダンスを除く計4種目で6個のメダルを獲得した。

個人で優勝間違いなしとも目されたイリヤ・マリニン(米国)が、団体戦の後の男子シングルで表彰台を逃したため、競技日程には批判も多いが、日本勢の一連の流れを見ると最初に団体戦があったことで、チームとしての一体感が生まれた印象はあった。

ミラノ・コルティナ冬季五輪のフィギュア団体の成績を喜ぶ日本チーム=2026年2月8日、ベルーノ(ZUMA Press Wire、ロイター)
ミラノ・コルティナ冬季五輪のフィギュア団体の成績を喜ぶ日本チーム=2026年2月8日、ベルーノ(ZUMA Press Wire、ロイター)

坂本の明るいキャラクターによってチームが活性化したことが、坂本自身の女子シングル銀や鍵山優真の男子シングル銀はもちろん、男子シングルの佐藤駿、女子シングルの中井亜美といった「2番手選手」の表彰台入りにつながったとも言える。

そして、「りくりゅう」こと木原龍一・三浦璃来組は10年前なら想像できなかったペアの金を日本に初めてもたらした。

フィギュアスケートペア・フリーで演技する三浦璃来(左)、木原龍一組=2026年2月16日、イタリア・ミラノ郊外(時事)
フィギュアスケートペア・フリーで演技する三浦璃来(左)、木原龍一組=2026年2月16日、イタリア・ミラノ郊外(時事)

JOCの研修会も奏功

メンタル面では、JOCが昨年4月に「チームビルディング」のための1泊2日の研修会を開催したことも一助となった。異なる競技の代表候補選手らを集め、日本代表全体としての目標達成へ連携や交流を深めるものだ。

研修会では、ミラノ・コルティナに向けた「自分自身のコンセプト」を考案する時間が設けられたが、他の選手が全員帰った後も1時間近く会議室に残って考えていたのがフリースタイルスキー男子モーグルで銅、デュアルモーグルで銀を獲得した堀島行真だ。

その時に堀島が導き出したコンセプトは、「目標が見つかれば、かなえる方法もきっと見つかる」。堀島は「チームビルディングの時は、納得のいく言葉がなかなか出てこなくて居残りみたいになってしまったが、その中で言葉を見つけることができた。今大会は準備の段階に力を入れて、2月2日の現地入りから15日にデュアルモーグルが終わるまでずっと計画的にできたことが集中力をキープできた要因だったと感じている」と“かなえる方法”について明かしていた。

このような積み重ねが、日本選手のメダルラッシュにつながった。ジャンプ勢も金こそなかったが、1998年長野五輪に並ぶ最多4個(銀1、銅3)のメダルを獲得。個人ノーマルヒルで日本勢1号メダルとなる銅を獲得した丸山希を皮切りに、二階堂蓮が個人2種目で表彰台に立った。

スピードスケートの高木が大記録

不世出の大記録が生まれた大会でもあった。スピードスケートの高木美帆が女子500メートル、1000メートル、チームパシュートで銅を獲得し、平昌(金1、銀1、銅1)、北京(金1、銀3)と合わせた通算メダル数を、日本選手の男女を通じて冬季五輪最多となる10へ伸ばした。日本は今大会で24個のメダルを手にし、冬季五輪の通算を100個の大台に乗せたが、その10分の1が高木によるものだ。

ミラノ・コルティナ五輪のスピードスケート女子1500メートルで滑走する高木美帆=2026年2月20日、イタリア・ミラノ郊外(時事)
ミラノ・コルティナ五輪のスピードスケート女子1500メートルで滑走する高木美帆=2026年2月20日、イタリア・ミラノ郊外(時事)

日本は13年9月の東京2020五輪開催決定を契機に、官民によるスポーツ強化が進むようになった。冬季五輪勢の活躍も広く見ればその流れに乗ったものである。だが、少子化や経済情勢などを鑑みれば右肩上がりどころか現状を維持するのも簡単なことではない。歴代累計では最もメダルを得てきたスピードスケートだが、今大会の表彰台は全て「高木絡み」となっており、次の大会につながる世代の活躍は低調だった。勝利の要因や不振の原因をひとつひとつ分析し、今後につなげてほしい。

バナー写真:ミラノ・コルティナ冬季五輪の閉会式に入場する日本の選手ら=2026年2月22日、イタリア・ベローナ(代表撮影、時事)

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